8
さて、ここまで君にいろんな話をしてきたけど、これまでもこれからも僕の話すのはこんな事ばかりなんだよ。例えばね、遠足の次にはみんなでお泊り会をして親睦を深める『親睦会』みたいなものがあってね、そこでもそこそこに思い出は出来たけど、卒業した今、アレを思い返せばロクなもんじゃなかったなとも思えるんだ、それでも何も話さないよりはいいだろうから君に話すことにするよ。
まずは、その『親睦会』について説明をするね。クラスは40人なんだけどさ、その中から男子4人、女子4人の合計8人で班を作って、その班でカレーやなんかを作ったり山に登ったりなんかするんだな、そんでもって夜なんだけど、流石に男女が一緒に寝るなんて訳にもいかないから男子の中で適当に班を作って寝るんだ。女子も女子で同様にね、そんでもって建物は別々なんだ。僕は女子が一緒でもよかったんだけど、それは許されなかったみたいだね、残念だよ。
さて、親睦会の初日は学校に集まるところから始まるんだな。そこでクラス別にバスに乗り込んで出発するんだけどね、席は男女で左右に別れるくらいで、あとは自由だったんだ。だから僕は小西の隣に座ったよ、ちょうど真ん中くらいだったな。そこはちょうど補助席が横についている席でね、僕はあれを使ってまで座ろうとする奴を見ると反吐が出るんだ、少しくらい我慢できないもんかってね。まあ、どうでもいい話だけどさ。
それでね、バスでの移動は楽しいもんじゃなかったよ。人付き合いの上手い連中は直ぐに友達を作って、後ろの広い席でワイワイしてるんだけどさ、僕なんてマトモに話せる友達がまだ小西くらいで、小西だけでもいいと思ってたんだから、話す奴が居ないんだな。こういう時ってのは本当に暇になっちゃうんだ、小西も無口だしさ。だから僕が移動中に何をしていたかと言うとね、通路を挟んで斜め前に座ってた寺田香帆さんの足を眺めてたんだ、本当だよ。彼女の足ときたら異様に"そそる"んだから、困っちゃうくらいにさ。みんな学校指定のジャージでズボンは半ズボンだったんだけど、彼女はいい具合に足に肉がついててさ、本当にいい足をしてたんだ、これこそ君にも見せてあげたいくらいだよ、今夜のオカズになるぜ。
そんなゲスい事をしてたらアッと言うまに目的地に到着してね、僕は少し乗り物に酔いやすいんだけど大丈夫だったな、心の中で寺田さんの足に敬礼したよ。おっと、ここで言っておくけど、寺田さんは顔も素敵だよ、本当に。
それで、僕たちがこれからカレーやなんかを作って一泊する施設の名前が『すみれ園』とかそんな名前だったかな。とにかくボロい所だったよ、とりあえずそこに到着してから、まず玄関を見て驚愕したね。木とガラスで造ってあるんだけどさ、カギが明らかに"チャチ"なんだよ、ちょっと押したら開くんじゃないかってくらいにさ。それで、そのボロ玄関を開けた先はロビーのような所になっててね、そこに僕たちは並ぶんだな。
その並ぶときにさ、40人で5つのクラス、200人がギリギリ入るような狭いロビーで並ばせるもんだから、いろんなやつのカバンが足にゴツゴツ当たりやがるんだな、僕はこういうときに人に当たらないように気を遣えない奴も大嫌いなんだ、まあ大体そういうやつは、特にそういう女子は、ゴツゴツした顔をしたバカなビッチばかりだけどさ。
そんな感じでなんとか並んでからは学年主任や指導部から諸注意やなんかをこれでもかと聞かされるんだ、すごく退屈で泥のような時間だよ。だから自然と私語も生まれて、僕も初対面の奴から話しかけられたんだ、隣のクラスの奴だったな、男なんだけど、豆腐だけ食べて生活してんじゃないかってくらい白くてガリガリの顔をしてやがるんだな。そいつが口を開いて僕に言ったんだ。
「こういうのいいから、早く部屋に行きてぇよな」
確かに、学校が言う諸注意ってのは生徒をIQ3くらいのバカばかりと思って言ってるんじゃないかって思うくらい常識的な事ばかりなんだな、「他のお客さんもいるから静かにしよう」とかさ、もう僕たちは高校生だぜ?まあ、それでも言わないと廊下で騒ぐ奴もいるから言ってるんだろうけどさ。
だから僕も答えてやったよ、そいつにさ
「そうそう、言われなくても解ってるよな」ってさ
僕は早く会話を終わらせたかったんだ。たしかに諸注意は嫌いだけどさ、人が前に出て話をしてる時に話しかけてくる奴はその五万倍嫌いなんだな。人が話してる時っていうか、自分が何かを見たり聞いたりしている時にね。例えば、映画やなんかを観てる時もそうだよ、馬鹿な奴は『この演出に500万円かけてるらしいぜ』とか僕に言ってきやがんだな。こっちは映画の世界に入り込んでいるのにさ、フィクションであることを思い出させるような事をバンバン言ってくるんだ。フランク・ダラボン監督の『ショーシャンクの空に』って映画があるだろう、あれを野田って奴と一緒に観てた時の事なんだけど、急に奴が、あのブルックスが自殺するシーンでさ、あの、あのシリアスシーンでだよ、『これは本人じゃなくて違う人間が吊られてるんだぜ、いくらなんでもあの老人を吊るす訳にはいかないからな』なんてドヤ顔で言ってきやがんだな。おまえが首を吊ってしまえと思ったね。まず、ブルックスを演じたジェームズ・ホイットモアを『老人』だと言ったところにさ、せめて『ご老体』くらい言って欲しかったな。それでね、このシーンで何故こいつは話しかけてきたんだってことだよ、まったく、こういう奴らはさっさと死ねばいいと思うんだ。
そんなことを考えてたら、学年主任の諸注意も終わって、男子は男子で、女子は女子で部屋に移動していくんだな。そのときにやっぱり狭い廊下を200人が移動するもんだからさ、足にカバンがゴツゴツ当たりやがるんだけど、その中で腕に柔らかい感触もあったんだな。なんと、あの寺田香帆さんの胸が僕の腕に当たってたんだ、本人は気づいてるか気づいてないか解らないけど、目は合わせてこなかったな、でもかなり長時間触れてたね、最高だったよ。
ここで、『なぜ移動してるのに長時間触れてたんだ?』って思ったかい?もし君がそう思ったなら、君は普段から人を押しのけて移動するタイプの下司野郎だね。ここでマナーよく歩かないでグイグイ押すやつがいるから人の流れが遅くなって、先頭がつまったりするんだな、だから動きが止まってギュウギュウのときに胸が当たったんだ、この時ばかりは下司野郎に感謝したね。
そんな事をしながら部屋に行ったな、そこは本当にボロな部屋で、人数分のベッドと、これまたチャチな冷房しかない所だったよ、それでもやっぱりテンションは上がったね、なんだかんだで楽しいもんなんだよ、こういうイベントはさ。