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ここまで僕が君に話をしてきてさ、君がもしも、もしもだよ、僕がどんな顔をしているんだとか、身長はどれくらいなのかとか、性格はどんなだとか、そういったことを言ってほしいと思っちゃってんじゃないかと不安になるんだよ。だってさ、ここまで話を聞いてくれば僕の性格なんて大体わかってくるだろう?容姿や身長なんかも君の想像に任せるよ。それにさ、僕の性格なんてのは解説しなくても、僕の話を聞いてれば解るんだから、だから解説なんていらないんだよ、主人公である僕の解説なんてさ。話を聞く方がだよ、僕はこういう人間ですって最初に言っちまうと、それ以上の想像が出来なくなるだろう?だから、僕は主人公やなんかの解説をこれでもかとやっている小説を見ると反吐が出るんだ。もちろん、そういう本が好きだって人も多いし、主人公のキャラクターを読者にしっかりと覚えてもらって読んだ方が面白い本もあるけれどさ、僕には理解できないんだ、『こういう人ですよ』って決めちゃうのがさ、ただそれだけなんだよ。
だから君は、これまでもこれからも僕の見た目やなんかを自由に想像していいんだよ。女子高生に人気の俳優とかアイドルでもいいし、残念な顔のやつでもいい、君に任せるよ、君が『こういう顔だ』って思った顔が正解なんだから。それ以前に、僕の顔がいつのまにかイメージとして定着してないかい?どうやってもこの顔で想像しちゃうみたいなさ、それで正解なんだ、だから誰で想像してもらってもいいんだ、僕は。あ、でも韓流スターだけはやめてくれよ、あいつらときたら、全員が同じような顔をしてやがるじゃないか、感情の無い模型みたいなさ。僕は、ああいった『同じような格好』をする奴らが大嫌いなんだよ、まあ僕の「みんなと同じは嫌」ってセリフも「みんなと同じ」かもしれないんだけどさ、そこは大目に見てくれよ、ここまで話を聞いてくれたんだから。
それで、佐々山唯の話をやめちゃうと何を話そうか困るんだよね。僕は好きな子ができると、その子の話ばかりになっちゃうタチのやつでさ、いま困ってるんだ。そうだね、ここまで散々『学校が嫌いだ』って言ってきた僕だけど、楽しかった行事の思い出をいくつかしようと思うんだ。
まず、入学して間もないころだったな、歓迎遠足ってやつがあってね、僕はこういった群れるような行事は大嫌いなんだけど、これに限っては企画した教師に感謝したね、だってさ、歩いて行く途中に少しだけ佐々山唯と話せたんだよ、本当に嬉しかったね。「もう佐々山唯の話はしないんじゃなかったのか?」確かに僕はもうしないと言ったけど、誓っては無いよ。僕はちゃんと、誓うときは誓ってきただろう?だから、別に文句を言われる筋合いはないよ。
それでね、佐々山唯と話してたんだけどさ、ここに空気を読めない女が入ってきたんだ。名前を紹介するまでもない奴だよ、君のクラスで一番腹の立つ女性を想像してくれ、想像したかい?大体それの五万倍くらい腹が立つよ、とにかくそれほど腹が立つし、誰からも好かれちゃいないような奴なんだ、誓ってもいい。
それでさ、何がいちばん腹が立つかってさ、そんなゴミみたいな奴が佐々山唯と仲が良いって事なんだよ。仲が良いって言うかさ、佐々山唯っていう人間が誰からも好かれるタイプで人を嫌う事も無いんだから、あちらさんは仲が良いと思っちゃってるんだよ、君の周りにもいるんじゃないか?かわいい子の腰巾着になってる不細工がさ。
そいつが入ってきてさ、何を言ったと思うかい?「まさか唯の彼氏!?もっとマシなやついなかったの~!?」だってさ、これを聞いた時はブッ倒れそうになったね、奴は生れてこのかた鏡って奴を見た事が無いのかもしれないな、その顔でよくそのセリフを吐けたもんだと、少し感心すら覚えたよ。それに対して佐々山唯が、ブッ倒れるような素敵な笑顔で「彼氏じゃないよ」って一蹴したんだ。でもさ、でもそのあと「マシなんて言いかた失礼だよ、三山くん楽しい人だよ」なんて言ってくれたんだ、ブッ倒れるほど嘘臭いよね、この子はただの八方美人じゃないかと思ったよ。でもさ、このあとそんな考えは消え去ったよ、その不細工腰巾着をほったらかしにしてだよ、本当にほったらかしなんだ、話も聞かないで僕の後についてきてさ、そのまま楽しそうに話してくれたんだな。家族の事だとか好きな食べ物だとか、自分はどんな性格だとかさ、本当に楽しかったね。
それで僕は思ったんだ、主人公の性格やなんかを聞くのはこういう楽しみなのかもなって事をさ、でもやっぱり僕は、主人公解説を好きになれないんだ。