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 佐々山唯って子は、本当に可愛いんだから。君のクラスにいる子より五万倍ほどは可愛い自信があるね、誓ってもいいよ。とにかくそれくらい魅力的な子なんだな。でも、でもだよ、もしこの子がチャラチャラした男と付き合っててさ、自分の体をメチャクチャにされていたらどうしようか。彼女はいままで全く男性関係なんて無いように見えるし、実際そうなんだよ、友だちから聞いたんだけどさ。まあ友達って言っても便利な奴だよ、決して心を許してるとか信じてるとかそういうんじゃないんだ、そこは解ってほしい。それでね、全く無いなんて事が本当にあるんだろうかって疑問なんだよ、そりゃあ付き合った事が無い人なんて日本中、世界中にごまんといるだろうけどさ、彼女の顔でそんなことを言われても僕は信じられないんだな。少なくとも、友だちよりは信じられない。

 僕が彼女を始めて見たのは、入学式が終わって教室に入ったときなんだ。僕は教室って奴が本当に嫌いで見たくもないんだけど、その時は、樹海に薔薇が咲いたように見えたね。教室っていう反吐が出そうな環境にだよ、すごく可愛い子が座ってるんだから、もう少しでぶっ倒れるかと思ったね。それでさ、僕は勇気を出して話しかけたんだ、「きみ、中学はどこ?」って、そしたら彼女は優しい笑顔をこっちに向けて「第三中学だよ」って答えてくれたんだ、薔薇にはトゲがあるなんてよく言うけど、彼女には無いね。とにかく、本当に綺麗なんだから、君に見せられないのが残念だよ。

 そんな事を考えてたら、バスケットボールが飛んできて僕の頭にぶつかったんだ。ここでファンタジックな小説なら、異世界に意識がトんだり昔の自分に会ったりとかそういったメリットが生まれるかもしれないけどさ、僕がいるのは、ただただ汚い学校ってやつだから、痛いだけだったね。こっちに向かってボールを飛ばすなんてどれだけ下手糞な野郎が投げやがったんだと思って、ボールの飛んできた方を向いたんだ、そしたらさ、あの佐々山唯がこっちに向かって走ってくるんだ。ぶつかった衝撃でファンタジックな幻想を見てるのかと思ったけど、次の瞬間に僕の頭に暖かい感触が伝わってきて、違うとわかったよ。気づいたら「ごめん、大丈夫?」なんて言いながら、あの佐々山唯が僕の頭を撫でてくれてるんだな。大丈夫?か、こういうセリフは大体『ああ、大丈夫だよ』って言って欲しくて言ってるんだろうけどさ、僕はこのセリフが大っ嫌いなんだよ、どう見たって大丈夫じゃない奴にも言ってる馬鹿がたまにいるだろう、ほら、君も考えてごらんよ、そいつだ。だから僕はこの言葉が大っ嫌い"だった"んだ、そう、さっきまではね。でも、あの佐々山唯が本当に心配そうにしてさ、僕の頭を撫でてるんだ、そりゃあ言っちまったね「ああ、大丈夫だよ」ってさ。そしたら彼女は、胸をなでおろすようにして笑ってさ、「ごめんね」って言ってコートに戻っていった。

 ここまで聞いてどうだい?僕がいかに佐々山唯と話したことが無いか解るだろう?なんてったって、いまの会話が入学式以来だもの、そしてこれからもあまり話すことは無いし、辛くなるだけだから、もう佐々山唯の話はしない事にするよ。ただ、君に佐々山唯っていう子を紹介したいだけだったんだよ、僕は。

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