3
理科が終わった頃、僕を含む生徒の殆どが眠たそうな顔をしてるんだ。理科は毎週の一限か六限にあってね、今日は一限だったんだけど、朝っぱらからソラマメを見せられても眠くなるだけなんだよ。それでも小西は目をしっかり開けて次の教室に向かってたね。こいつには眠いって感情が無いのかと疑うよ。
次の教室ってのは、自分たちの教室でね、そこで現代文の授業を受けるんだよ。僕は現代文の授業内容は大好きなんだけど、やっぱり教室って奴がどうも嫌いなんだ。だってさ、だってだよ、すごく昔に『おじさんのかさ』を読んだ時から、殆どの生徒の感想は単調極まりないものなんだから。あいつらは『本を読む』んじゃなくて『文字を見てる』んだよ。もちろん、違う人もいるけどさ。
今月の頭に席替えをして、席は小西の隣なんだ。ご都合主義とでも何とでも言うがいいさ、ただ僕のクジ運が良かったってだけなんだけどね、本当に。ちなみに僕は窓際の前から二番目で、小西はその右隣、つまり僕の左隣は窓なんだけどさ、僕たち一年生は景色の良くない一階だからさ、外を見ても何も楽しくないんだけど、それでも教室を見渡すよりはずっと景色がいいね。たまにスズメやなんかが飛んできてさ、ひょこひょこ歩いて飛んでいくんだよ。それを見てるだけで、しばらく教室を見なくて済むんだ、これほど嬉しいことは、─あるけど、授業中では随一かもしれないな。
現代文の授業に限って、小西はあまり真面目じゃないんだ。理由を聞いてみると「わざわざ授業にしなくても解りきってる」からだそうだよ、まったくこいつはまたカッコいいことを言いやがるんだな。でも僕は少し反対だね、確かに小西は解ってるかもしれないけれど、他の人の中には『おじさんのかさ』で何故おじさんがそこまで傘を大切にしているのか?とか、どうしてそんなに大切な傘なのか?ってことを考えないで「雨が降ったらおじさんも楽しい気分でルンルンです」なんて事しか考えきれない奴もいるんだから。だから、僕はそんな奴らにも本の面白さを教えてあげるべきだと思うんだな、もちろん、本の面白さなんて人それぞれだけどさ。
現代文の授業がおわって、そのあとは体育なんだ。僕はまた小西と一緒に更衣室に向かうんだ、更衣室って言っても2組合同で授業があるから空いた教室なんだけどね。だから、残った女子の荷物もあるわけで、好きな人のタオルやなんかを見つけて匂いを嗅いでいる奴だっているよ、本当に。僕はこういうデリカシーだとか理性の無い奴が大好きなんだ。でも周りに迷惑をかけない奴だね、本当に好きなんだよ。タオルやなんかを匂って、その感想を報告してくれた時なんて最高だよ。いっかい君も嗅いでみるといい、きっと夢中になるよ。
そんなこんなで着替えを済まして体育館に来たぞ、今日の体育はバスケをやるらしい。バスケか、興味が無い、興味が無いね、だから僕はステージに座って女子を見てたんだ。僕は友達だとか周りの人間が嫌いだと散々言ったけど、人間なんだから性欲はあるよ、一人で"おいじり"をすることだってある、母さんに見つかったことは無いね、早漏とかじゃなくて、部屋に来ないだろうなってタイミングを見つけてヤルんだ。
とにかく、そんな僕が女子を見てたんだけどね、やっぱり好きな人っていうのは自然と目がいっちゃうね。佐々山唯って子がいてね、唯っていい名前だよ、君もそう思わないかい?僕は生れてこのかた、唯って名前で不細工な子を見た事が無いんだ、本当だよ。不細工どころか、可愛い子しかいなかった気もするな。もし君の周りに不細工な唯ちゃんがいたら教えて欲しい、手紙を出すよ。書き始めは「残念な唯をお持ちの残念君へ」ってところかな。
その唯がね、バスケをしてるわけだけど、あっちこっち走り回るたびに胸が揺れてるんだ。それだけでたまらなくセクシーなんだけど、いつもは束ねてない髪を束ねてて、少し汗を掻いてるもんだから、もうたまらないんだな。今夜の"おいじり"のおともだね、女性の皆さんは気をつけた方がいいよ、男子っていうのはいつもこんな下司な事を考えているんだからさ。