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 高校一年生っていうのは、グループが出来てからが面倒なんだよ、そいつらとしか行動しないんだからさ。本当の友達なんて誰なのかも解らないよ。

 でも、そんな僕にも友達はいるんだ。小西祐平って言うんだけどさ、いつも小説を持ち歩いてるやつで、この間は乙一の『ZOO』を持ってたな。メガネをかけてて物静かなんだけど、たぶん僕の一番の理解者だよ、学校ではね。少なくとも教師やなんかよりはよっぽど頭が良いと思うよ。

 そんな小西と一緒にいつも教室の移動があるときは行くんだけどさ、理科室に行く途中で凄い物を見たんだ。なにかって言うと、頭の良い大人しい子がだよ、不良って呼ばれてるチンパンジーに殴られて泣いてたんだ。よくある話だと思ったかい?それが、よくないんだよ、ちっともよくない。問題は、その不良ってやつが本当に頭が悪いんだ。頭のいい不良もいるだろう?頭が良いっていうのは、なにも勉強が出来るとかそういった事じゃないよ、そういった事じゃなくて、無関係の人間に迷惑を掛けないような奴のことだよ。奴にはそれが無いんだよな、だから当然、仲間にも周りの人間にも嫌われてるし、勉強もやったことないし、本の一冊も読んだこと無いだろうね。背中に彫りものをいれたとしても使い捨ての鉄砲玉にしかなれないような奴さ。そんな負け犬がだよ、優秀な脳みそを持った人間の邪魔をしてるんだよ、優秀な脳みそっていうのは一之瀬みたいに有効活用されるだけなんだけどね。

 僕はそれを見ながら、横で歩いていた小西に言ったんだ「おい、あれを見てみろよ」ってさ、そしたら小西のやつ、見向きもしないんだな、本当に。真っ直ぐ前だけを見てるんだよ、クサい応援ソングでも聴いちゃったみたいにさ。だから少しイライラして、なんで見ないんだと問うてみたんだ、そしたら奴さん、「周りのやつがどうなってようが興味ないよ」なんて、かっちょいいことを言ってのけたんだよ、僕が女だったら間違いなく"濡れてた"と思うね。僕は奴のこういう所が好きなんだよ、周りを気にしないって所がだよ。同じようなカバンを持って同じようなメイクをして、ヒットチャートの曲だけ聴いて、好きな本のジャンルは『ベストセラー』みたいな、そんなつまらない要素が一つも無いんだよ、だから僕はこいつのことが本当に好きで、憎たらしくもあるんだ。

 理科室に着いたときは、もうさっきの出来事は殆ど忘れてたね、それほど日常茶飯事でもあるんだよ、ああいうのはさ。それに僕は思うんだよ、結局ああいうことって、やられるほうに落ち度があるもんだってさ。君も考えてみなよ、常に仏頂面でロクに会話も出来ない奴のどこを好きになって何を個性として見ればいいんだってさ、僕にその答えは二年間ほど考えても出せそうにないや、とにかく落ち度があるんだよ、ただそれだけさ。

 理科の授業っていうのは退屈でさ、水がH²Oっていうやつに変身するんだ。他にも、ソラマメかなにかを一生懸命観察したりもするね、人生において最も無駄な時間だと思うよ、誓ってもいい。

でも小西はしっかりと授業を受けてるんだよ、でも、必死な感じは全くしないんだ、全然チンパンジーっぽくないんだよ。それだけ頭が良いんだろうし理解力もあるんだろうけど、そんな小西の邪魔をするチンパンジーが理科室にはいるんだ、それが教師の渡辺と、生徒の谷口ってやつなんだよ。

 まず谷口が「先生、これはどういうことですか?」って聞くんだ、それが大体は一度説明した事なんだよ、こいつは授業の最初に言ったことをてんで覚えておく事が出来ないんだから。それに対して教師の渡辺が「ああ、これはね」って甘やかすんだよ、あいつの辞書にはムチって言葉が無いんだ、だから無知なんだよ。今ので別に、巧い事を言ったとか大袈裟にはしゃがないでくれよ、僕はそういう奴が大嫌いなんだ、少しだけ笑ってくれるだけでいいのに「巧い!巧い!」ってギャンギャン騒ぎ立てて面倒なんだよ。別に巧くもないしね。

 そうだ、渡辺と谷口の話だったね。僕は話を脱線させてしまう事がよくあるんだ、クセっていうのはなかなか治らないし、それこそ個性として見てくれないかな。だいぶ気が楽になるから。

そんでもって、こいつら二人の話なんて、あと三万文字ほど書いても全く深みが無いだろうから、小西の話をするね。小西ってのはさ、理科室がすごく似合うんだ、こいつほど理科室が似合う男はいないと思うね、いつか白衣やなんかも着て欲しいくらい理科室が似合うんだ、本当だよ。だから僕はこいつと理科の授業を受けていると、自分まで頭が良くなったような気がして、少し良い気分になるんだ。でもその半面嫌にもなる。だって、理科なんて必死に勉強してるほうが恥ずかしいからさ。

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