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部屋についてから、僕らはそれぞれベッドの場所取りをしたんだ。入ってから左右に分かれて、2段ベッドが2つずつ置いてあって、全部で8人分さ、カレーやなんかを作る班は男女4人ずつだけど、男子だけだと16人だから、ちょうど8人ずつで割ってるんだ。そこでいろいろな事を話したね。ちなみに僕は、ドアから入ってすぐ右手のベッドの上の段になったよ。
会話の内容といったら、誰が可愛いだとかエッチをするなら誰がいいだとか、そういったことばかしなんだな、これが。僕はこういった話が大好きなんだけど、ここで佐々山唯の話をするのは気が引けたから、寺田香帆さんの話をしたんだ。そしたら面白いほど、ほかの奴らも賛同してくれたんだ、本当だよ。「あの足はたまんねえな」ってね。この場面を、僕たちの顔をモザイクやなんかで隠した状態で沢山の女子に観てもらいたいね、女子ってのはバカの一つ覚えみたいにガリガリになりたがるんだからさ、僕はそれが許せないんだよ。
「寺田さんの足もいいけどさ、山田さんの足もムチムチでたまんねえよな」、こう言ったのは僕の下の段にいた戸川って奴だったな。
「俺は清家さんくらい背が高くてスラッとしたほうがいいな」
「おまえなぁ、アイドルの見すぎなんだよ、どこがいいんだよガリガリなんか」
この会話は、アイドルオタクの柳瀬と、スポーツマンの久保だ。
「ガリガリじゃなくて、スラッとしたのが──」
「だから清家だろ!?あいつはガリガリじゃねえかよ」
柳瀬は鼻息を荒げながら反論してたね、見てて楽しかったよ。
「いや!あれぐらいがちょうどいいんだよ、寺田さんとか山田さんなんて、デブじゃん」
おっと、これは聞き捨てならないよね?ムチムチを『デブ』って言うんだ、これには僕も思わず口を挟んだね。
「デブじゃない、ムチムチだ」ってさ。そしたら奴さん、「同じじゃん」なんて言うんだ。だからまた、ムチムチだって言うんだけど、奴は、デブだって言うんだな。もうメビウスの輪だよ。
「まあ、好みは人それぞれってことで、ね?」
こう言って入ったのは、廣田って男だ、奴は入学式からずっと気取ってて、『高校デビュー』を絵に描いたような男なんだな。だからコイツの言う事はなるべく聞きたくなかった。だから僕はまだ続けたよ、言い争いをさ。これがいけなかったね、すっかり『ガリムチ口論』に夢中になっちゃってさ、外に全員集合しなさいっていう放送がかかったのに気がつかなかったんだ。あんまりにも僕らが集合場所に来ないもんだから、部屋に先生が来てね、呑気に携帯電話をイジってた田嶋って奴が、携帯電話を没収されちまったんだ。すまない田嶋、だが、イジってたオマエも悪いんだぞ。
そのまま、ご機嫌ナナメの先生に連れられて全員が集合してる玄関前の駐車場に言ったんだけど、最悪だったね、僕は目立つのが大嫌いなんだけど、どんな奴が遅れたんだって、全員がこっちをジロジロ見てやがるんだな。これだから嫌なんだよ、こいつらは、何かあるとすぐにジロジロ見るんだからさ、授業中でも、ちょっとでも物音がしたら振り返ったりするやつがたまにいるだろ、そいつらだよ、ぶん殴りたくなるね。
それでね、なんで全員が集合したかというと、「海岸のゴミ拾いをするぞ」なんて言いやがんだな、これにはぶったまげたね。近くに海があったんだけどさ、そこそこ綺麗な海でね、ゴミなんて見たところ落ちてないし海藻が打ち上げられてるくらいなんだな。そこで『ゴミを拾おう』だぜ?生まれてきた赤ん坊に「さあ歩いて」って言うようなもんだよ。
でも従うしかないんだな、それが学校って奴だからさ。僕は、部屋の8人で行動することにしたよ、集団行動ってのはあんまり得意じゃなかったけど、少しばかしは慣れておかないといけないと思ったしね。だから、僕たち8人はおしゃべりをしながら海岸を歩いたよ、まったく、嫌になるほど青春って感じなんだな、これが。海ってやつはいつでも青春が似合うもんだ。