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僕らの誓い   作者: 緋花李
第一章 -傭兵篇-
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第四話 銃を使う少年

「あーあ。結局こっちの方が結構地味なんだよねー……めんどくさ」

「仕方ないだろ? 俺だって嫌なんだから」

「魔物が出てきたらロアは引っ込んでていいわ。あたしが何とかするから」


 グウェンさんの家から出て少し狭い路地裏を歩いて行く。ここを抜けると今回の調査の対象となる魔物

が現れる場所へと通じるのだ。

 俺は強気なリリーを横目で見てからかうようにリリーの肩を小突く。


「リリー一人に任せて俺が無傷でいたことあったか?」

「う……」


 いつもリリーが一人で突っ走ってしまうと大抵俺にまで被害が及ぶ。もしかしたら俺が戦った方が怪我しなかったんじゃないかなんてこともしばしばある。まぁ、最近は減っては来ているけど。

 思わず言葉に詰まったリリーの背中を軽くたたいて俺は笑った。


「大丈夫だって」

「……あたりまえじゃない。あんた一人に手柄なんてとらせないんだから」


 唇を尖らせてキッと眉間にしわを寄せたリリーの言葉に俺は感謝した。リリーさえいれば、俺はきっと大丈夫。……ただ、最後の言葉は余計だな。

 



 やっと狭い路地裏から広いところに出た。街の外に抜けたらしい。周りは木々に覆われ、木漏れ日がきれいだな、と思った。


「さて……」


 俺は背から荷物を下ろし、強引に手を突っ込んで『例のもの』を引っ掴んだ。

 俺のつかんだものを見て、リリーは首をかしげる。


「これ……何? ――うわ、何このにおい!?」


 俺がとりだしたちょっとした缶に顔を近づけたリリーは慌てて鼻を覆う。

 俺には何の事だかわからず、


「え? そんなに酷いにおいか?」


 とこっちが首をかしげる番だった。


「こぇにゃんにゃの!?」

「ん?魔物の生態を知るために使う餌みたいなもんさ――ああ、これ酒の匂いすんのな」

「あひゃし、おしゃけにょめにゃのよ!」

「何言ってんだか分かんねえよ」


 涙目になって唸っているリリーを見て吹き出しそうになり、俺はなんとか堪えた。

 ここで吹き出してしまえばリリーの逆鱗に触れてしまう。それは一番厄介なことに違いない。

 とりあえず一度息を吸い込んでそれから餌を少し開けた草はらに放り投げる。

 匂いがしなくなったのかリリーはやっと鼻から手を離した。


「うぅ……こんなのが好きだなんてだいぶ変わった魔物ね……」

「まぁ、人間も飲むしな。不思議なことでもないさ」

「あたしは嫌いなの!!」

「はいはい」


 苦笑いを浮かべながらひらひらと手を振ると、リリーが不意に俺が放り投げた餌の方へ目をやった。そして俺の腕を引いて木の裏へと隠れる。


「な、なんだよ――」

「しっ! ……誰かいる」

「へ?」


 珍しい。リリーが俺より先に何かに気がつくなんて。


「…………」


 す、と大きな目を細めてその目に捉えた相手を見つめるリリー。ここは視力のいい相方に任せた方がよさそうだ。

 二人で息を殺し、茂みの奥へと意識を集中させる。少しして、茂みが動き出した。


「…………」


 現れた『モノ』に思わず顔を見合わせる。――なぜならそこに立っていたのは『少年』だったからだ。


「子供じゃんか」


 思わず肩をなでおろし、息を吐いた俺に対し、リリーは拍子抜けたように口をあけていた。

 少年は恐らく十二歳くらい。茶褐色の髪と紅色の大きな瞳が印象的だ。


「だ、誰かいるんですか!?」


 おびえたように声を上ずらせて声を張る少年。見ればきょろきょろとあたりを見回している。

 なんでわかった? 俺の声、そんなにでかかったか?


「どうするリリー」

「……ねぇ、あれ見てよ。あの子の腰」


 リリーは俺の質問は全く無視し、少年の腰を指差す。半分飽きれ、半分諦めて、俺は少年を見やった。

 距離が遠く、少年の腰に何があるのかまでははっきりとわからないが。


「――銃?」

「そう。あの子供、あたしたちみたいな傭兵なのかもよ」


 さすがだ。俺には見えなかったモノを完璧に見ている。やっぱり、リリーの視力は半端じゃない。

 そんなことを考えているとふいにリリーが俺の頭に手を置いて下に押した。しかも思いっきり。突然のことすぎて対応すらできず、俺はそのまま地面に顎を打ってしまった。土と小さな石ころがやけに痛い。


「な、何すんだよっ!?」

「――出た」

「え?」


 リリーの唇からこぼれた言葉に俺は眉を寄せた。まだリリーの手は俺の頭にある。その為動けずにいた。下手に動くと……いろいろ危ない。リリーの姿勢がいろいろ危ない。

 だから俺は動かずにただ固まっていた。だが。


「!?」


 森の中に響いた銃声に俺は無理やり頭をあげた。もちろんリリーは体勢を崩して尻もちをついたらしい。背中に「何すんのよ!?」と非難の声が飛んできたから。

 でも、そんなことを気にしている場合ではない。


「さっきの銃声は――!」




 俺の目に映ったのは銃を構える先ほどの少年と――魔物の姿だった。


「ロア、わかってるよね?」


 いつの間にか立ち上がったらしいリリーが、片膝をついて動かない俺の耳元でささやく。

 それで一瞬飛んでいた意識が戻ってきて、さらに姿勢を低くして俺は頷いた。

 それを見たリリーは俺の隣に膝をついて様子を窺う。


「どうする? 下手に出ていくと撃たれるよ」


 忠告と言わんばかりにリリーは釘を刺してきた。確かに、危険極まりない。


「んなことわかってるさ――」


 そんな事を話している間にも森に銃声は響き渡ってきて魔物が次々と倒れる。

 少年の銃の腕は半端ではなかった。本当に子供か――? そう疑ってしまうほどだ。

 魔物を避けながら、飛びながら、走りながら弾を撃ち込んでいく。

 だが、威勢良く響いていた銃声が突然止まった。


「――弾切れかっ!?」


 俺の言葉に素早く反応したリリーは手で構えをとって詠唱に入る。

 隣で魔術を唱え始めた相方に俺も思わず参戦してしまった。


「あた……れ!」


 荷物袋に入れていたナイフを魔物に向かって咄嗟に投げつける。

 木々の間をすり抜け、魔物に向かって真っすぐ飛んだナイフは少年の頬を掠め、魔物の目に突き刺さった。


「ぐあああああ!?」


 醜い悲鳴をもらしながら葉のついたで目を覆う魔物。確かこいつは樹霊ウッド・ゴーストだったと思う。木のような姿をしながら木ではない。目があり、根で動き、枝で攻撃してくる。

 負の思いが枯れかかった木に宿り、魔物と化したんだ。


「だ、誰っ!?」


 少年がナイフの飛んできた方を振り返るのとリリーが詠唱を終えたのはほぼ同時だった。


「さぁ、行くわよ――!!」


 構えた彼女の指先から現れたのは炎でできた無数の矢だった。

 その矢は少年を襲っていた樹霊に突き刺さるとその後ろにいた奴にも突き刺さり、炎で燃やしていく。


「ぎゃああああああ!!」


 何体もの魔物の声は空高く響き渡り――消えた。




 魔物を倒した俺たちは、先程の戦闘でぐちゃぐちゃになった地面から何とか残った足跡を書き写し、その死体が消えうせる前にいろいろと調べて森を抜けた――もちろん少年を連れて。

 町に入り、広場に来たところでやっと少年が口を開いた。


「あの、ありがとうございました……僕、替えの弾持ってくるの忘れちゃってて……」

「……馬鹿じゃないの?」

「こら……」


 冷たく少年を見下ろすリリーをたしなめ、何度も頭を下げてくる少年に訊いてみた。


「なんであんなところに一人でいたんだ? 町の外は街道以外魔物が出るって知ってるだろ?」

「僕、人を探しているんです。それで、道に迷っちゃって……」

「人?」


 ずっとそっぽを向いていたリリーがやっと少年に向き直る。

 少年は頷いた。


「はい。帝都で傭兵をやっている『ディオ』という人なんですけど――」

「「父さん?」」


 思わず声を合わせて言った俺とリリーを見て少年は目を丸くした。


「父さんって、どういうことですか? あの、お兄ちゃんたちはディオさんを知っているんですか!?」

 いきなり詰め寄ってきた少年に思わず後ずさる。俺は曖昧に頷いた。

「ああ。ディオは俺たちの父親――っていうか社長だ」

「へ?」


 拍子抜けしたのか少年は目を丸くして首をかしげている。

 リリーが見かねてはぁ、とため息をつき、説明しだした。


「だから、あたしたちはアンタの探してる『ディオ』の下で働いてるの! でも、小さい時からそうだからあたしたちは『父さん』って呼んでるのよ」

「そうだったんですか……」

 

 納得したように頷いた少年に今度は俺が尋ねる。


「で、なんで父さんを探してるんだ? 仕事?」

「違います……僕、家族が最近死んじゃって、親戚の家に引き取られていたんですけど、その親戚も僕の面倒を見切れないからって親戚の家をたらい回しにされていたんです。でも、少し前にディオさんから手紙が来て……あの、僕とディオさんが親戚らしくて……」

「えっ? 父さん、親戚なんていたんだ?」

「そりゃいるだろ……」


 知らなかったというように声をあげた相方に思わず突っ込む。

 俺は一つ息をつき、少年に向き直った。


「じゃあ、行く場所は同じなんだし、一緒に行こうか。――名前は?」

「名前――僕のですか?」

「あんた以外に誰がいんのよ」


 厳しい指摘をするリリーに苦笑いを送り、俺はもう一度少年を見、頷いた。

 少年はそれに安堵したのか背筋を伸ばし、はきはきと告げる。


「あのっ僕はクレイといいます。よろしくお願いします!!」


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