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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

凝りのサイン

掲載日:2026/09/17

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 いや~、つぶらやくん、お疲れ。今日も肩こったねえ。

 肩こりって、原因がいくつも重なってできるようだね。眼精疲労とか、同じ姿勢を続けているとか、内臓の不調とか。

 これらがあると、どうしても集中力が落ちてパフォーマンスも悪くなる。痛みや不快感に対して、神経を割かなくてはいけなくなるからな。健康だったら、使わなくていい部分を動員されればしんどいし、それが若いころに比べて衰えてきているならなおさらだ。

 劣化と評するのは間違いじゃない。だが、見方によっては負荷へ敏感になるよう、身体を改造されたといえるかもしれない。

 若い機能は身体の鎧。ちょっとしたものなら元気に弾いてしまうが、防御力の高さは

 鈍感につながる。

 年とったほうが、いち早く異変に気付けるかもしれないな。もっとも内側から出る「サビ」と区別ができないと意味ないだろうけど。

 生前の父も肩こりをよくぼやく人だった。けれども、その肩こりを先に話したような異変に対するバロメーターに使っていると、思われたときが何度かあったんだ。

 そのときの話、聞いてみないかい?


 当時は肩こりに対し、肩もみ、肩たたきをするというのが主流だった。

 小さいころから父がテレビを見ているとところを、背中へ回って肩をもむというのが我が家における当たり前でもあった。

 父はほぼ毎日、肩がこったと話していてねえ。そのつど、私が肩をもんでいたのだけど、これが固いのなんのって。

 あのころは、私も小学生だったけれど、つかみはじめはまるで鉄のかたまりを相手にしているかのようだった。生半可な握力では、わずかに押し込むこともかなわず、跳ね返されてしまうほど。

 おひげじょりじょり攻撃に並ぶ、父の身体の凶器のひとつだと思ったね。もし、こいつでショルダータックルなど食らったときには、骨がどうにかしちゃいそうだな~などとも考えていた。


 その肩もみ係の私も数をこなしていくうち、父の肩こりにはいささか特徴が見られることにきづく。

 肩もみのうち、8割ほどは全般的に固いもの。これに関しては父も私にもまれるがままに任せて、なにもいわない。

 けれどもたまに、肩の箇所でこりのひどさが異なる場合がある。首に近い部分は普段の肌の質感と変わらないのに、先端の腕とつながる箇所へ近づくにつれ、普段以上の固さを発揮する……といった具合にね。特に顕著な場合は、肩の先へ手を乗せるだけでピリピリと、しびれる感触が掌を駆けていく。


 このようなことがあれば父にすぐ報せることになっていた。父本人は自覚症状がなく、私などの他者に判断してもらうしかないようだ。

 そうすると、父はすぐに布団を引っ張り出して横になる姿勢をとる。この布団というのが、いつも寝るのに使うものとは別に、押し入れにしまっている特別な一枚だ。

 見た目だけならば、平べったい敷布団。他のものと大差がない。けれども、この布団はこれまた非常に固い上に、電気カーペットを思わせる操作用の器具が、角っこにそなわっている。

 父いわく、専用マッサージ布団。その操作する器具部分を見てみるも、いくつものつまみがあるのが分かるくらいで、私にはどれが何を意味するのかさっぱり分からなかったよ。

 ただ、いずれのつまみの下部分にも、不自然に削られた箇所がある。おそらく、もともと書いてあったものを消したのだろう。どのような都合の悪さがあってのことかは分からないが。


 これを起動させてしまうと、肩もみ係の私はお払い箱になり、もっぱら役目を専用布団へ譲ることになる。

 父は30分ずつ、それぞれの肩を身体の下敷きにするような、半身の姿勢をとる。こうなると動かないほうがよいようで、私は離れていろという指示を出されたよ。

 そして父がこうして横たわっているうちは、できる限り静かにしているように、ともいわれた。自分の部屋で戸を締め切って、できれば1時間はじっとしているのをすすめられる。

 音を届かせてしまうと「ひびいてしまう」のだと。そうなると、少し怖い思いをするかもしれないから、と。


 言いつけられていても、一度、意図せず大きな音を出してしまうことがあった。ちょっとした地震があり、部屋の棚上に置いてあった重めの箱が落ちてしまったんだよ。

 とたん、私は背中に「冷え」を感じた。鳥肌が立つというよりも、にわかに寒風吹きすさぶ中へ、背中だけおっぽり出されたかのようだった。

 ぽつぽつと、酷寒のしずくが背中を打つ。服越しに肌を抜け骨まで沁みるかという、冷水のとげ。無数に吹き付けるそれらは、自分の部屋で浴びてよいものではないだろう。

 つい、振り返りたい衝動に駆られたが、それも封じられる。

 べろ~りと、緩やかに私のうなじからつむじにかけて、寒さとは真反対のぬくい管が、ねっとりと触れていったからだ。

 舌だ、と思った時には固まってしまったね。いま、明らかに自分の真後ろに、得体のしれない存在がいる。舐めあげられた後も、なかなか引かないひりつき具合が、そいつの尋常でないさまを仄めかしていたんだ。

 私はしばらく、その場にかたまって動けなくなってしまう。息すら殺すくらいになってね。


 しばらくして。

 寒気がぱたりとやんで、先ほどまでの部屋の空気が戻ってきたことで、ようやく私は動いた。

 そうっと背後を振り返ってみる。締め切った押し入れの戸があるばかりで、窓もまた同じく閉じている。あのような風が入ってくるゆとりはない。

 けれども、鏡で確かめてみたところ、あの舌らしきものでなぞられた私の後ろ髪の部分は、バリカンを入れられたとき以上に、すっかりとはげあがってしまっていたんだよ。

 そして父の例の布団はあれ以降、私も寝転がったり、つまみをいじったりしたのだけど、何ともおかしいところもなくってね。

 父も年とってからはあれを使わなくなり、家のずっと奥深くに眠っている……はずなんだけど、どうかなあ。

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