エピソード0:始まりの歌
シーン1:ミナミとカズヤの出会い
7年前(ミナミ13歳、カズヤ10歳)
星ヶ丘の古いアパート、リビングには小さなテレビが置かれ、アイドル雑誌が散らかる。中学1年生の宍戸ミナミは髪をポニーテールに結び、ソファでアイドル雑誌を眺める。
テーブルに座る母のエミコ(40代、優しい性格)は、ミナミを微笑ましく見ているが、パートで働く生活で疲れた顔をしている。
ミナミが目を輝かせながら話しかける。
「ママ、星ヶ丘にも『スターダスト』っていうライブハウスができたんだって!私、絶対アイドルになって、いつかステージに立つんだ!」
エミコは微笑みながら語りかける。
「ミナミの夢、きっと叶うよ。でも、学校の勉強も頑張ってね」
ドアがノックされ、児童相談所の職員が大沢カズヤ(10歳、小柄で怯えた目)を連れてくる。
ミナミの母・エミコが父親と離婚した後、父親が再婚した女性との間の子どもがカズヤで、ミナミとカズヤは異母姉弟にあたる。カズヤは両親を交通事故(高速道路での衝突事故)で亡くし、施設に入れられそうになっていたが、ミナミとエミコがカズヤを引き取ることを決めたのだった。
カズヤは両親を亡くしたばかりで憔悴し、心を閉ざしている。児童相談所の職員が心配そうに呟く。
「宍戸さん、カズヤ君を引き取るのは大変かもしれませんが…」
エミコが穏やかに答える。
「大丈夫です。カズヤ君は私たちの家族よ。ミナミ、お姉ちゃんとして面倒見てあげてね」
ミナミは少し緊張しつつ、笑顔で元気に答える。
「うん! カズヤ、よろしくね! お姉ちゃんがカズヤのこと、守ってあげるから!」
カズヤは黙って頷き、ミナミの手をそっと握る。ミナミはカズヤの小さな手を握り返し、姉としての責任感を感じる。
その日の夜、ミナミはカズヤに自分のコレクションのアイドル曲のCDを見せ、「この歌、聞いてみる?」と笑う。カズヤは初めて小さな笑顔を見せ、音楽が二人の心をつなぐ。
シーン2:母の死とミナミの決意
5年前(ミナミ15歳、カズヤ12歳)
病院のベッドに、エミコが横たわっている。エミコはかつて、知人の借金の連帯保証人になり、その知人が姿を消したことで多額の借金を背負うことになった。それでも様々な仕事を掛け持ちしながらミナミを育ててきたが、長年の無理が祟り病に倒れたのだった。
病院のベッド脇で、ミナミとカズヤがエミコの手を握る。エミコは弱々しい声で話す。
「ミナミ、カズヤ…ごめんね。何も残してあげられなくて…」
ミナミが涙をこらえ、気丈に振る舞う。
「ママ、心配しないで! 私、カズヤと一緒に頑張るから! 将来アイドルになって、借金も絶対に返すから!」
カズヤは泣きながらエミコに語りかける。
「…母さん…今までありがとう…!」
エミコは安らかな顔をして、その日の内に息を引き取る。エミコの死後、アパートでミナミは仏壇の写真に手を合わせる。
カズヤが「姉貴、ごめん…。僕のせいで苦労かけて…」と呟くと、ミナミはカズヤの頭をポンポンと叩き、微笑みながら力強く答える。
「カズヤは私の家族でしょ? お姉ちゃんが必ず守るよ。アイドルになって、全部解決する!」
ミナミは夜にオーディションの応募書類を書きながら、アイドル雑誌を握りしめる。
「ママ、私、輝いてみせるから…!」
シーン3:ハルトとの再会と友情
5年前(ミナミ15歳、カズヤ・ハルト12歳)
カズヤは星ヶ丘中学校に進学し、藤崎ハルトと再会する。ハルトはカズヤが星ヶ丘に住んでいた頃の幼稚園時代の幼なじみで、いつも一緒に遊んでいたが、両親の引っ越しで離れていた。
中学校の教室、カズヤがクラスの端にいるハルト(12歳、気弱でメガネ姿)を見つけて、目を輝かせる。
「ハルト!? やっとまた会えた!」
ハルトは驚きながらカズヤを見て、懐かしい思い出が蘇る。
「カズヤ!? 幼稚園の頃の…! うそ、星ヶ丘に戻ってきたの!?」
二人は再会を喜び、すぐに意気投合。ある日の放課後、カズヤの家にハルトが遊びに行き、二人でゲームをしている。ミナミが制服姿で帰宅し、ハルトに気づく。
「ただいまー!お、カズヤの友達? めっちゃかわいい子じゃん!」
ハルトは縮こまり、赤面しながら呟く。
「えっと…僕、藤崎ハルトです…。よろしく…」
ミナミがハルトの肩をポンと叩き、微笑む。
「カズヤの姉のミナミだよ! 私、アイドル目指してるんだ!ハルト君も応援してね!」
ハルトはミナミの明るさに圧倒されつつ、ヒソヒソとカズヤに囁く。
「お姉さん、すごいね…!」
カズヤが「な、自慢の姉貴だよ!」と目を輝かせる。
シーン4:ミナミのアイドル活動と挫折
2年前(ミナミ18歳、カズヤ・ハルト15歳)
ミナミは高校卒業後、バイトとインディーズアイドル活動を両立。3人組アイドルの一員としてライブハウスで活動するが、売れずに苦戦。カズヤとハルトは応援に駆けつける。
ライブハウス「スターダスト」、薄暗い客席に観客はまばら。ミナミは派手なメイク、フリフリ衣装を着てステージで歌うが、ダンスのキレが今ひとつ。カズヤとハルトが最前列でペンライトを振る。
カズヤが大声で叫ぶ。
「姉貴、最高! がんばれ!」
ハルトは小声で呟く。
「ミナミさん、めっちゃ輝いてる…!」
終演後、楽屋でミナミは汗だくで座り込む。マネージャーが「ミナミ、客入りが…厳しいな」とため息。ミナミ、笑顔を無理やり作る。
「大丈夫です! 次はもっと集客してみせます!」
だが、楽屋を出るとミナミは壁にもたれ、涙をこらえて弱音を吐く。
「ママ…カズヤ…。私、アイドル向いてないのかな…」
そこをハルトが偶然見かけ、気弱ながら声をかける。
「ミナミさん…。あの、僕、ミナミさんの歌、めっちゃ好きです! 絶対、みんなの心に届きます!」
ミナミが涙を手で拭いながら笑顔を見せる。
「…ハルト、ありがと!ハルトは優しい子だね…」
ミナミがハルトをギュッと抱きしめ、ハルトが赤面してジタバタする。
ミナミが元気を取り戻し、ハルトに叫ぶ。
「ハルトは私の弟も同然よ!私のことは姉貴と呼んで!」
ハルトが赤面したまま戸惑いつつ呟く。
「う、うん…。ミナミ…姉貴?」
カズヤは談笑しているミナミとハルトを見かけて「姉貴とハルト、なんか似てるな!」と笑うのだった。
シーン5:ハルトの代役デビュー
半年前(ミナミ20歳、カズヤ・ハルト17歳)
ライブハウス「スターダスト」の楽屋。今夜はミナミ初の単独ライブ当日だが、ミナミは足を捻挫し涙目で座っている。カズヤは高校の音楽部の練習のために来られず、ハルトが連絡を聞き楽屋に駆けつける。
ミナミが泣きながら呟く。
「うう、今日、単独ライブなのに…! 足、動かない…。 借金返済も、アイドルの夢も、もう全部おしまいだよぉ…」
ハルトがミナミの側でオロオロしながら呟く。
「ミナミ姉貴…。僕に何かできることがあれば…」
ミナミはふとハルトの方を見て、華奢で細い体とカラオケでの透き通った歌声を思い出し、目がキラリ。
ミナミが急に大声で叫ぶ。
「ハルト、お願い!私の衣装着て、代わりに歌って!」
ハルトが目を丸くして絶叫する。
「え!? 僕が!? アイドル!? そんな…歌とか無理だって…!」
ミナミが必死になって頼み込む。
「ハルトの歌声、めっちゃ透き通ってるじゃん!私の夢、借金返済、カズヤの未来、全部かかってるの! 頼む!」
ハルトはミナミの涙と勢いに負け、「一度だけなら…」と渋々承諾。楽屋で震えながらウィッグとピンクのフリフリドレスを着せられ、ミナミにメイクをしてもらう。モジュレーターで声を調整しステージに立つ直前、ミナミがハルトの手を握る。
「ハルト、ありがとう…。ハルトなら、絶対うまくいくよ。思いっきり歌ってきて!」
ハルトは震え声で答える。
「う、うん…。姉貴、僕、頑張るよ…!」
ステージでは「謎の新人アイドル、ミア・ステラがデビューライブ!」とアナウンスされ、ミアが初登場する。
ミナミのオリジナル新曲「スパークル☆ハート」を歌い、観客が「ミア!」と歓声。ミナミは舞台袖でミアを見ながら涙する。
「ハルトなら…私の夢を叶えてくれるかも…」
シーン6:姉弟と友の絆
デビューライブ後、ミナミのアパートに立ち寄ったハルトは、へなへなと座り込む。ミナミがアイドルとして活動し始めた頃、ミナミはアパートで一人暮らしを始め、カズヤは高校の男子寮に入っている。
ハルトがまだ興奮冷めやらぬ様子で、照れ笑いする。
「うう、僕、心臓止まるかと思った…! でも、ミナミ姉貴の歌と想い、ちょっとでもお客さんに届けられたかな…?」
ミナミは笑顔でハルトの肩をバン!と叩き、豪語する。
「ハルトの歌声、めっちゃ心に響いたよ!SNSでも早速話題になってるし、これからは私がミアのマネージャーとして、ハルトを引っ張るから!」
ハルトが「マネージャー!?僕、一回だけの約束だったのに!?」と驚愕するが、ミナミはニヤニヤしながら四つん這いでハルトに迫る。
「ステージ上のハルト、すごく輝いてたよ?ハルトだって本当はクセになっちゃったんじゃない?ほらほら、私と一緒にアイドル目指しちゃお☆」
ハルトは赤面しながら後退りしつつ、黙って頷く。内心では「こうなったら、当たって砕けろだ!姉貴の夢も、借金返済も、全部一緒に背負う!」と決意する。
だが、ハルトが再び気弱そうに呟く。
「でも…カズヤにはどうやって説明するの?僕がミアだって、すぐにバレるんじゃ…」
ミナミは少し神妙な顔をして呟く。
「うーん、カズヤには黙ってた方がいいかな。あの子に余計な心配かけたくないし、それに…」
ハルト「それに?」
ミナミ「その方が面白くなりそうだし!」
ハルトはズッコケながらも、ミナミと笑い合う。
ミナミのアイドルへの夢はハルトに託され、姉弟の絆と友との友情が、ハルトたちを新たなステージへと導いていく。(第一章につづく)