願掛け
司馬りおは
毎朝の通勤でしばしば命懸けの願掛けをする
もちろんほんとに命はかけてないけれど
その願掛けに打ち勝つことで
その日のモチベーションにしていた
その日も、りおは願掛けをいつものようにするのでした
わたしは司馬りお
とある出版社でお仕事をしています
出版社までの道のりは険しく
いえからバス停まで5分
そのあとは電車で1時間
えっ?
全然険しくないって?
確かに標準的な通勤時間かな
いや、時間だけみたら、むしろ短い通勤かもですね
わたしの場合
距離や時間で険しいのでなく
心理的なものかなー
いえから5分なのに
最初のバス停までがエベレスト登山かと思うくらい
険しい
眠さと、ときに発症する会社いきたくない病により
遭難してしまいそうなのです
バス停までの最初の5分を無事乗り切り
バスに乗りこんで
その流れで電車に乗ってしまえば
ほかの通勤するひとと同じベルトコンベアのように
会社へ運ばれていく
そして運ばれていくあいだに
不思議とわたしのやる気スイッチは入る
きょうもやまいを発症しながらも
いえからバス停までの
果てしなく遠い5分を見えない敵と
たたかいながら歩を進める
(なんかかっこよい)
そして、わたしのルーティン
路上のたたかい…
〈次の歩道の継ぎ目までいくのに
車に追い抜かれたら負け
負けたら、いのちをおとす
追い抜かれなかったら勝ち
きょうは、間違いなくよい日になる〉
そんな願掛けをする
もちろん連戦連勝
100%勝ちになるような設定の願掛け
ひょんなことから負けて
どっかの生真面目な神さまが
たまたまこの願掛けをみてて
負けた代償でほんとにいのちをおとしたら
困っちゃうからね
〈…よし、きょうも勝ち
きっと良いことがあるぞー〉
そんな小さな良いことを積み重ね
自分のテンションをあげていくことで
なんとか、この5分間の見えない敵に打ち勝つのだ
〈よし、きょうは、あの継ぎ目だ
あの継ぎ目の勝負に勝ったら
きょうはよいことがあるぞー
負けたら、いのちをおとしちゃう
おとしたらしゃれにならないからね
いざ、勝負…〉
きょうも願掛けをする
もちろんわたしは勝つ
わたしはあと3歩ほどで歩道の継ぎ目にたどりつく
一方、敵は200メーターくらい後ろの信号を
ようやく超えたところ
わたしは100%勝つ
そんな勝負しかしない
これがわたしにとって
自分のキモチをあげる方法なのです
〈よし…
…勝ったー
きょうも良い日になるぞー〉
このデキレースな勝負に勝ち
わたしは気分よくバス停に向かう…ハズ…
〈…あれ?
身体がうごかない…〉
気分よく歩いていて
さっきの敵にしたクルマがわたしの横を通り過ぎたトキ
目の前が暗転した
まわりの風景が変わる
さっきの敵にしたクルマが消えた
信号機も消えた
前方に見えていた、いつものバス停もみえなくなった
ただただ…もやがかっている
そして
身体が動かない
(あれ?
なんでー?
…………
………… )
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神さまのはたらきかた改革
開幕です
このあとのりおと
このさき、どこかの話から登場する子との
掛け合いをお楽しみください




