20/28
黒い胎動
冷たい回廊――
月明かりすら届かぬ、その奥深く。
影が、言葉少なに輪をなして佇んでいた。
「……予定どおり、“次”の魔物は今夜、境界線に放たれる」
低い声が、重苦しい空気を裂く。
「“素材”は順調に集まりつつある……
次は、魔王との接触でどこまで“臨界”に達するか――」
石板の上に、誰かの白い指が滑ると
淡く輝くその表面に浮かび上がる“歪な紋章”。
「“術式”から弾き出されたのは、想定外か?」
低い声に、別の影がかすかに肩をすくめる。
「いや……むしろ好都合。
制御外で生じた魔素の変動は、予想以上に“大きな波”となって観測された。
世界の均衡が揺らげば、封印も――」
「失敗は許されん。“あの方”の意志は絶対だ。
必要なら、次の候補を使えばいい」
石板の脈動に呼応して、回廊の奥に微かな“共鳴音”が響く。
無表情で、淡々と事を進めていく影。
「……目覚めまで、あと一歩」
その言葉だけが、冷たく空気に残った。
彼らの素顔も、正体も、今は語られない。
ただ静かに――
この世界の“理”を創ろうとする何者かが、
暗い地下で着々と手を伸ばしていた。