自己紹介の続き
「自己紹介は終わったようですね」
候補者全員との自己紹介が終わると、司祭が何かを手にして戻る。
「はい」
「では、バルツァル令嬢。こちらを」
「はい」
司祭に差し出されたのは、手の平に収まる程の水晶。
「教会に訪れるのが困難な場合は、こちらの水晶にお祈りください」
六角柱の水晶を握りしめると、力を感じるようだった。
「はい」
「翌日からは、貴方にも皆さんと一緒に講義に参加して頂きます」
「はい。皆様、明日からよろしくお願いいたします」
全員に挨拶し、教会初日を終える。
屋敷に戻れば母や使用人から質問攻めに。
皆に同じ質問をされと答え逃げるも、帰宅した父にも同じ質問を受け同じ答えを返す。
「今日は挨拶だけでした。本格的には明日からだそうです」
一日休み、翌日も教会へ向かい今日から本格的な聖女教育が始まる。
「今日からですね」
司祭の言葉通り、聖女候補の講義に参加。
昨日司祭から頂いた水晶はネックレスにし、常に肌身離さず持ち歩いている。
「はい。本日からよろしくお願いいたします」
緊張しながら講義を受け聖女候補者達と共に過ごすも、全員の雰囲気を察して親密になることは無かった。
親密ではないが、仲が悪いというわけでもない。
講義についてや場所の確認など会話はする。
「先に言っておくわね」
教会で一番と言える情報通のカルメーラが教えてくれた。
内容は今年で最後のブルネッラと残り二年のアイーダの関係。
「あのお二人は年齢は違えど、教会に通う年数は一緒なの」
「それはどういう意味なのでしょうか? 」
「ブルネッラ様は十歳に受けた儀式の時には、聖女としての反応はなかったのよ」
「反応が無かった? 」
教会には聖女の認定を受けた者しか受け入れてもらえない。
それなのに聖女候補として教会に通うのは……
「えぇ。ある時、教会で祈るブルネッラ様の姿に聖女の資格があるのではないか? と偶然見かけた当時の大司祭により、再度儀式を受けるように促されたの。そこでブルネッラ様は聖女と判明したそうよ」
一度目の儀式では聖女の反応はなかったが、二度目の調査で反応を確認。
教会の由緒ある儀式でそんな事が起こるのだろうか?
疑問を持ちながらも、それが何故二人の不仲に繋がるのか想像できなかった。
「二人は年齢は一つ違えど、聖女候補期間は一緒……というよりも、ブルネッラ様が再検査を受けた時には既にアイーダ様は教会で聖女候補として教育を開始していたの。教会内では『年齢を重視するよりも、二人を同時期の聖女候補とするべきではないか? 』という議論があったみたいなの。だけど結論としては、今の状況『年齢に見合ったものとする』になったのよ」
「そう……なんですね」
数か月早く認定を受け教育も始まっていたアイーダからすれば、後から教育を受けるブルネッラが先輩になるのが許せなかったという事らしい。
だけど、それはここまで不仲になる程の決定ではないと思うが当事者にとっては違った様子。
私の表情で察したのか、彼女は更に詳しい情報を話す。
「二人の関係が拗れてしまったのはここから。ブルネッラ様の婚約者ピエルマルコ様は、以前まではアイーダ様に会いに頻繁に教会へ通っていたの。アイーダ様とピエルマルコ様には婚約の話もあったみたいなの、だけど数か月後ブルネッラ様に聖女の認定がされ公表されると、いつの間にかブルネッラ様とピエルマルコ様の婚約が発表されたの」
「それは……」
「ブルネッラ様も、ピエルマルコ様が数か月前までアイーダ様と親密だったのを知らなかったみたいなの。その事実に気が付いた時には、あの状態」
二人の仲が拗れてしまうのも頷ける。
ブルネッラは侯爵令嬢、アイーダは伯爵令嬢。
聖女を欲する権力志向の強い貴族であれば、同じ聖女候補であれば爵位の高い者を婚約者にと変更したに過ぎないのかもしれない。
だが、それを限られた人間しかいない教会内でしないでもらいたい。
巻き込まれるこちらの身にもなってほしいものだ。
「それは……大変ですね……」
候補者達を観察すると、派閥があるわけではないが……ブルネッラとは距離を置いている様子。
聖女候補は個人行動が多いので気にならないが、ブルネッラは孤高と言えた。
私達の情報ではそこまで。
教会内で働く者にとっては、それだけでなかった。
~七年前~
「今回のピニャータ令嬢の『聖女』判定は間違いではありませんでした」
大司祭の判断により、ピニャータの二度目の調査が行われた。
「では、過去の儀式が間違っていたと? 」
「調べましたが、当時の水晶に異常などはなかったと記載されております。ピニャータ令嬢本人が検査の際に水晶に触れなかった、もしくは判定が覆るような何かをしていたのではないかと……」
その後の調査でも結果は分からず。
過去ではなく、最近のブルネッラ自身に起きた事を振り返る。
「令嬢は、最近事故に遭われましたよね? それが能力を引き起こす切っ掛けとなったのではありませんか? 」
いくら調査しても水晶の判定は正しかったとしか言えず、司祭達もお手上げ状態。
いっそのこと令嬢の身に起きた『事故』が原因だったのではないかと結論づけ、この答えの出ない問いに全員が強引に決着させた。
「事故が聖女の能力を引き出した……という事でいいな? 」
「「「「はい」」」」
一つ問題が解決すると、新たな問題が発生。
「『令嬢が何故、一年後の儀式で聖女となったのか』につて、国民になんと説明いたしますか? 」
「大司祭様。真実を公表してしまうと、聖女欲しさに我が子を事故に合わせる貴族が現れる可能性もありますよね? 」
貴族は我が子であろうと爵位や地位、名誉の為にはなんでもする。
それは平民も同じ。
子供を利用して貴族の仲間入りできるのであれば危険な事もさせる。
俗世とは一線を引いている教会の人間でも、そんな浅ましい姿を嫌という程見てきた。
一歩引いて見ているからこそ、彼らの浅ましさが際立つのかもしれない。
「この際、真実は公表せず、我々の不手際という事で発表する」
教会としては、聖女候補は欲しい。
だからと言って、未来の子供に危険が及ぶのは避けたい。
教会は真実は公表せず、自らの不手際だと発表した。




