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聖女候補 卒業

 聖女候補卒業。


「聖女候補、フローレンス・バルツァル。貴方は各地の教会や孤児院を訪問し素晴らしい活躍だった。我々は貴方の活躍を把握しています。どうする事も出来ず申し訳ない」


「いえ、仕方のない事です。私は聖女候補として教会で学ぶことができ素晴らしい経験をさせてもらえ良かったと思っております」


「聖女候補、ソミール嬢。貴方はとても短い期間でしたが他の聖女候補に追いつこうと大変努力されていました。我々だけでなく聖女候補達にも、貴方という存在は記憶に色濃く残りました。卒業おめでとう」


「いえっ。私も短い期間でしたが皆と学べて良かったです。私が発見した花が王妃様を救えたのも、司祭様の教えがあったからです。ありがとうございます」


 フローレンスとソミールは教会を卒業する。


「皆とも今後、お茶会やパーティーで会うと思うからよろしくねっ」


 聖女候補達は卒業すれば平民の彼女と会うのは今日が最後だと思っていた。


「……それは……どういう意味なのでしょうか? 」


「あっ言ってなかったね。皆さんに報告があります。私ソミールは、イリノエ侯爵の養女となりました」


「……そう……なの……」


 聖女候補が養女となるのは考えられること。

 考えられることではあったが、考えないようにしていた。

 誰もが彼女と今後も付き合いたいとは思っていなかった。

 むしろ聖女候補達は、彼女が養女と引き取られることの無いように願った事さえあるくらい。


「これからも私達、ずっと友達だよ」


 フローレンス・バルツァルとソミール・イリノエは聖女候補を卒業。

 それから数日後、現聖女が息を引き取った。

 聖女の死を悼み、一年喪に服す。

 

 一年後。


 次世代の聖女をどうするのか教会で話し合いが行われる中、王族からパーティーの招待状が貴族だけでなく教会にも届く。


「次代の聖女は、ソミール・イリノエ侯爵令嬢だ」


 教会の意向の確認などなく、王族の一存で決定された。


「令嬢は能力だけでなく、聖女としての人格も申し分ないと判断した」


 王妃を救った事で貴族達もソミールではないかと薄々予想していた。

 懸念するとしたら身分だけ。

 その身分だが、以前からイリノエがソミールと親し気に会話しているのは目撃されていた。

 周囲も反応を窺い、養女の動きがない場合は我が家にと狙う貴族は複数存在。

 イリノエが養女として迎え入れる一押ししたのが、王妃を救った花の発見。


「今代の聖女ソミール・イリノエ侯爵令嬢だが歴代の聖女を凌ぐ能力を所持している為、聖女補佐を必要としない事を宣言する」


 それは卒業していった聖女候補は補佐すらできない、『無能』と宣言されたようなもの。

 貴族社会では聖女決定の報せと共に候補者達への嫉妬から悪評が噂されるようになった。

 特に、同時期に卒業したフローレンスは常に比較の対象に。


『あの方、補佐にすら選ばれないなんて……』

『元平民に負けるなんて、私なら恥ずかしくて外を出歩けませんわ』

『婚約も難しいでしょうね』


 聖女候補となれば婚約が殺到するものだが、聖女と同時期に卒業した者だけは批判され婚約は難しい。

 となると寄ってくるのは……


『バルツァル公爵令嬢、私は令嬢こそ聖女に相応しいと思っております。おっと、名乗り忘れていました。子爵家の……』

『バルツァル公爵令嬢、私には愛する者がおりますがその者は身分がなく私達の関係を邪魔しないのであれば私が令嬢と結婚して差し上げますよ』

 などと言ったのは、最近爵位を得たばかりの男爵家の者。

『フローレンス公爵令嬢、あなたがどうしてもと仰るなら私の後妻として迎え入れますよ』

 妻が何年も前に他界した父よりも年配の伯爵。

『フローレンス令嬢、お相手がいないようでしたら我が息子なんていかがです? 我が家に尽くすのであれば、傷者令嬢ですが多めに見て差し上げますわ』

 甘やかして育てた為に、多額の借金に結婚もしていない身で外に子供が三人いる息子に嫁がせようとする侯爵夫人。


「ありがたい提案なのですが、婚約を急ぐつもりはありませんので……」


 全ての婚約の申し込みをお断りに。

 フローレンスに断られると思っていなかった者達は、一気に態度を豹変させ悪態をつき始める。

 令嬢や公爵令嬢との婚約を狙う者から標的にされ煩わしく思っていた頃。


「お久しぶりですね」


 うんざりしていると、一人の男性に声を掛けられる


「……ルードヴィック様? 」


「久しぶりだな」


「そうですね。今は王都に滞在中なのですね? 」


「あぁ……だが、もうそろそろ領地に戻るつもりだ」


「そうですか」


「……もしよかったら領地に一緒に来ないか? というより、一度来てほしいと思っていた」


「領地で何かあったのですか? 」


「あぁ、あの花の事だが……あの日、踏み荒らされたせいでほとんどが枯れてしまった。残っているのも僅かで、いつ枯れるのかという状態だ」


「そうなのですか? 」


「一度見てもらえないか? 他の聖女候補には相談できないし……あれに相談する気はない。相談できるのがフローレンス嬢しかいないんだ」


「分かりました。コルテーゼ侯爵様の領地にお伺いいたします」


「もちろん、領地に滞在中は俺の屋敷を利用してほしい」


「ありがとうございます」


「……フローレンス嬢……王宮へは父から報告書を届けたが、決定が覆ることは無かった。このような結果になってしまって申し訳ない」


「いえ、コルテーゼ侯爵様のせいではありません」


「あの女が次期聖女だなんて信じられんな」


「仕方がありません。彼女の能力は私が見てきた候補者の中で比べようのないほど桁違いでしたから」


「神も不公平だな。あんな他人の功績を奪うような奴に能力を授けるなんて……」


「彼女は功績を奪ったわけではないと思います」


「まさかあれを庇うのか? 」


「庇うわけではありません。あの方は物事を見たいように見て聞きたい言葉だけを聞いているので、嘘を吐いているわけでも他人の功績を奪っているつもりもないのでしょう」


「人の話を聞かない奴が伸し上がるのか……」


「信じる者は救われると言いますからね」


「……その言葉、そんな風に使うものなのか? 」


 壁際でパーティーを見渡す二人。


「ルードヴィック様ぁ、私とダンスを致しませんかぁ? 」


 真正面から令嬢がルードヴィックにダンスを申し込む。

 会話をしている最中に割り込みダンスに誘うのはマナー違反と言える。


「お誘いありがとう。今は令嬢と話しておりますのでまたの機会に」


「まぁ、そうなんですの? ですが……その……言い難いのですが、バルツァル公爵令嬢と一緒にいると婚約を申し込まれてしまいますわよ」


 令嬢は明らかにフローレンスを下に見ている。


「婚約は俺が申し込んでいる最中なので」


「えっ……ルードヴィック様、それはご冗談ですよね? ルードヴィック様ほどの方が、バルツァル公爵令嬢に婚約を申し込むだなんて……ねぇ……」


「いえ、本気です。聖女候補時代に我が領地に何度も足を運ばれ真摯に取り組む姿に興味を惹かれまして。それから令嬢を忘れる事が出来ず、本日勢い余って婚約を申し込んでしまいました」


「聖女候補時代と今では色々と違うのではありませんか? 」


「令嬢は今も美しいです。あまりの美しさに気が急いてしまう程に」


「ルードヴィック様、後悔されますわよ」


「後悔しないように、令嬢を口説き落としたいと思います。わざわざ心配して頂きありがとう」


 ダンスを迫った令嬢は去り際にフローレンスを睨みつけて去っていく。


「……ルードヴィック様、私はまた利用されたのですか? 」


「利用? 」


「ルードヴィック様の令嬢避けに」


「そんなつもりは無い。婚約の申し込みはこれから本当にするつもりでいた」


「そうなのですか? 」


「公爵の許可をもらってからフローレンス嬢に申し込むつもりでいた」


「そうだったのですか? 」


「あぁ。その為に王都に来た」


「あっ……え? そう……なんですか」


「今すぐに返事をする必要はない。まずは領地であの花の残骸を見てほしい」


「……はい」


 その後、フローレンスもルードヴィックもダンスに誘われるが誰とも踊る事は無くパーティーは終える。


「フローレンス嬢に婚約を申し込みにまいりました」


 パーティーの後日。

 ルードヴィックはバルツァル公爵家に訪れ、フローレンスに婚約を申し込んだ。


「結論を急かすつもりはありません。考えが纏まったら教えてほしい。今は、領地に訪れ花を確認してもらいたい」


 ルードヴィックの気遣いに甘え、結論を出すことなくコルテーゼの領地に向かうことにする。

 今は騒がしい王都を離れたいと思っていた。

 何故なら多くの手紙が届くようになったからだ。


「こんなに招待状が? 」


 パーティーが終わりフローレンスの元にお茶会の招待状が多数届く。

 手紙の主達お思惑は……

 ルードヴィックとの関係を探る為。

 平民に立場を奪われた公爵令嬢を嘲笑う為。

 自身の家族を婚約者にと推す為。

 だいたいこんなものだ。

 それらから逃げるように、コルテーゼ侯爵様の領地に向かった。


「これは……」


 そしてルードヴィックの話の通り、あの沼地の花は一輪もなくほとんどか枯れかかっていた。


「酷い状態だろう? 」


 あの美しい光景が夢だったかのようだ。

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