聖女候補九年目
フローレンスは教会の掃除を終え祈りを捧げる。
そして孤児院へ向かい、同じように掃除をして子供達や不足なものがないかを訪ねる。
昨日と同じように過ごし、滞在先へ戻ると既にソミールが優雅にお茶をしている。
使用人を従えている姿は、まるで貴族令嬢のように。
『貴族の味方なのね』
先程の言葉はまるで貴族に対して敵意があるように感じた。
それなのに、今の彼女はまるで貴族のような振る舞いをする。
彼女には気が付いたが、気が付かないフリをして通り過ぎた。
今日は大事な日。
彼女に巻き込まれたくなかったから……
夕食時。
「ルードヴィックさん。私、明日には王都に戻ってしまうんです。また会えますか? 」
「どうでしょう、仕事があるんで」
「なら、今日これから少しお話しできませんか? 少しで良いんですけど」
「……少しなら」
「私の部屋で良いですか? それともルードヴィックさんの部屋にしますか? 」
「……談話室で話しましょう」
「談話室ですか? 」
「聖女候補と密室に二人きりと噂になれば、聖女候補に良からぬ噂が立ちますから」
「良からぬ噂って何ですか? 私とルードヴィックさんが恋人同士ってことですか? 私は嬉しいですよ」
「いいえ。聖女候補様の身持ちが悪いというように貴族社会では噂になります」
「身持ちが悪い? 部屋に二人きりになっただけで? 」
「そのような噂が出回る可能性があるという事です」
「それって、私達に嫉妬した誰かが悪意を込めて噂を流すって事ですか? 」
「いえ、そうではありません。噂というものは最初はささやきから始まり次第に津波となって拡散されます。その過程で真実だけでなく、願望・嘘が入り混じるんです。なので、聖女候補は噂の種になることは控えなければなりません。俺の失態で聖女候補の名に傷か着くのを避けたいだけですよ」
「……そこまで私の事を? では、談話室で話しましょう」
ソミールは納得し談話室で使用人に見られながら会話をする。
「おや、俺としたことが……聖女候補と話していると時間を忘れてしまいますね」
「私もです」
「執務も残っておりますので、そろそろ失礼致します」
「こんな時間なのに、これから仕事をするんですか? 」
「本来であれば、聖女候補との会話する時間も惜しかったのですが……俺としたことが、つい……」
「そんなぁ、んふっ。もう少し一緒にいたかったのに残念です」
「では、部屋まで送らせていただきます」
「はいっ」
ソミールはルードヴィックにエスコートを受け部屋へと入って行く。




