聖女候補九年目
運命の三日目。
今朝もソミールはルードヴィックに本日の予定を聞き共に行動出来ないと知ると、フローレンスが教会と孤児院を回る事を確認。
「今日は最後だし、私も教会と孤児院に挨拶に行くよ」
珍しい事に今日はソミールも教会へ顔を出すという。
視線で使用人に合図を送り、ルードヴィックへ伝言を残す。
「そうですか」
二人一つの馬車で教会へ向かう。
教会へはすぐに到着する。
「ここが教会かぁ……王都より断然小さいね」
ソミールにとっては素直な感想なのかもしれないが、敢えて口に出して言う必要のない事まで言ってしまう。
「……では、参りますよ」
彼女の言葉は聞こえなかったフリをして教会内へ進む。
「はぁい」
何度か来た事で誰に案内されずとも、フローレンスは教会内の事を把握している。
「おや、本日は聖女候補様のご友人ですか? 」
「もうっ司祭様ったらぁ。私も聖女候補の一人、ソミールです。レンスとは友人ですよ」
初対面の人にも人見知りなどしないソミールは司祭にも親し気に会話を始める。
「……そうでしたか、それは失礼いたしました」
「いえ。私、怒ってないですからぁ。もうっ、先にレンスが私を紹介してくれないから司祭様が勘違いしちゃったじゃないっ」
「……それは……失礼いたしました」
「いいよっ、許してあげるっ。レンスは私が初めての友達だものねっ。今度から貴族の方にはレンスから友達の私を紹介してくれたら問題ないよっ」
司祭とフローレンスは顔を見合わせ、悟ったような笑顔を見せる。
「……では、本日は聖女候補二名様がお祈りをして頂けるのでしょうか? 」
「はぁい」
「……はい。お祈りさせていただきます」
「ありがとうございます。それでは、よろしくお願いいたします」
「ソミール様、ではまずは掃除から始めましょう」
「えっ? 掃除? 祈るんじゃないの? 」
「祈ります。ですが、まずは掃除からです」
「……レンス、あのね掃除は見習いの方がするの。私達が彼らの仕事を奪うのは良くないんだよ。レンスは知らないかもしれないけど、平民からすると仕事を奪われることはとても不安なことなんだよ。相手が貴族てあれば尚更」
「ソミール様、私達は聖女候補です。聖女候補が掃除をしてはいけないという事はありません。毎日私達が各教会を掃除できるのではありませんし、出来るときはしてもいいと思いますよ」
「……分かったよ」
フローレンスとソミールは教会内の掃除を始める。
「もう、レンスったらぁ。掃除はね、上の埃を払ってからするのよ。普段やらないから分からないんでしょ? 私が教えてあげるからやってみて」
「ソミール様、大丈夫ですよ。掃除の仕方はどの教会でも同じですので分かります。ソミールも別の個所をお願いしますね」
「うん。やるよ。ただ、レンスが間違ってるのが気になって手につかなくてぇ。私が指示しないと二度手間になっちゃうでしょ? 」
「結構です。それに分からないところは見習いの方にお尋ねしますから、ソミール様はあちらの方からお願いしますね」
「見習いの人に聞いたら迷惑になるでしょ? 私が教えるから、レンスは私の指示に従って」
「ソミール様、私は私のやり方で掃除を致しますからご心配なく」
「そう言って、デルフィーナ様も教会の大切な水晶を壊してしまったんです。私、あの時の事をとても後悔しています。私が一緒にいたらついていてあげたらって、そうしたら水晶は割れる事は無かったし、デルフィーナ様は教会を辞める事も無かったのにって」
私達の会話に加わる事は無かったが、耳を傾けていた見習い達が一斉に掃除の手を止め聖女候補二人に視線を送る。
ソミールは普段周囲に訂正されようと他の聖女候補を愛称呼びをするのに、今回は正しく呼ぶ。
一般の人なら誰の事が曖昧になってしまうだろうが、地方とはいえ教会の見習いは聖女候補『デルフィーナ』と言えば誰の事なのかすぐに思い浮かぶ。
それに彼女の発言。
正しい事もあるが、嘘も入っている。
「ソミール様、勘違いされるような発言はおやめください。デルフィーナ様は辞めたのではなく、卒業されたんです」
「水晶を割ったのは事実じゃない。私の勘違いじゃないわ。あの時レンスはいなかったから知らないけど、司祭様には私が水晶を割った犯人だと告げようとしていたのよ」
デルフィーナは自身が水晶を落としてヒビを入れてしまったと聖女候補達に正直に話した。
ソミールの言葉が真実なのか確かめる方法はないが、本人がいないところで話す内容ではない。
「……そのような話はここでするべきではないわ」
「どうして信じてくれないのっ。あの時デルフィーナ様は『教会に入って数週間のソミール様なら水晶を割っても司祭様は許してくれるから貴方が割った事にしなさい』と言ったんです。私は平民で貴族のデルフィーナ様の提案を断る事が出来ずに司祭様のところに向かったんですよ。司祭様は私が嘘を吐いた事に気が付かれ真実を告げるようにデルフィーナ様を説得してくれたから、私は犯人にならずに済んだのに……レンスも平民の私が罪を被ればいいって思ってるんだね……レンスは友達だから分かってくれると思ったのに、結局は貴族の味方なんだね……」
「ソミール様、私はそのような事は申しおりません」
「分かった……もういいよ。掃除の続きは見習いの人に聞いて。私、先に屋敷に戻ってるから」
ソミールは涙声で呟き、屋敷へと戻って行く。
すれ違いざまにみたソミールの表情に見習い達がこころを奪われていくのが分かった。
残されたフローレンスはソミールを追いかけることなく、掃除を始める。
「結局、掃除も祈りもしたくないだけじゃないっ」




