聖女教育初日 自己紹介
聖女候補と認定され、案内状を持参し教会へ到着。
「お待ちしておりました、バルツァル公爵令嬢。本日は司祭である私、ゴルドーニが教会内の案内と説明をさせていただきます」
「よろしくお願いいたします」
司祭に教会を案内されながら内部の説明を受ける。
「教会として聖女候補の皆様には、聖女教育と祈り、更には祈りの場の掃除と水晶の手入れを行って頂きます」
「水晶の手入れは、私が行った儀式に使用した水晶の事でしょうか? 」
「はい。水晶は普段、祈りの場に置かれています」
「祈りの場ですか……」
祈りの場へと案内される。
「こちらが祈りの場です」
祈りの場は私が儀式を受けた場とは違い、厳かな空間。
大聖堂は誰でも入れるよう解放されているが、祈りの場は教会関係者と聖女候補のみ。
「ここが……祈りの場……」
真正面には神の像と儀式で使用した球体の水晶。
その隣にはクラスター水晶が祭壇され、私達が祈る場とされる中央には計算しつくされたように光が差し込む。
「中央で聖女候補の皆さんには祈りを捧げて頂きます」
「……はい」
「正面にある水晶の手入れを候補者達にお願いしますね」
「はい」
その後も教会内を案内される。
ある一室に到着すると、数名の令嬢が講義を受けていた。
そこで講義を受けていたのは、聖女の素質を確認された候補者達。
「皆さん、今年の聖女候補として認定を受けたバルツァル令嬢です」
司祭の紹介に講義を受けていた全員が整列する。
「初めまして、私はブルネッラ・ピニャータ。十八歳よ。今年は……最後になるの。一年間だけど共に学びましょう」
彼女は侯爵令嬢。
既に婚約者がいる。
なので聖女候補としての期間が終わると、婚約式をする予定。
「私はアイーダ・インクロッチよ。十七歳で教会には七年目、よろしくね」
彼女は伯爵令嬢。
正式な発表はされていないが、社交界では婚約者の存在を仄めかしているらしい。
「私はアネルマ・オルダーニ。十六歳、教会には六年目よ」
彼女は公爵令嬢。
第一王子より七歳年上。
王子の婚約者候補として、年齢差はあるが問題ない。
問題があるとしたら、彼女の家門が隣国との取引で失態を犯し王家との関係を悪化させてしまった過去がある。
なので第一王子との婚約者候補に名が挙がることはなく、別の方との婚約を準備中と噂されている。
「私はエルネスタ・ロヴェーレと申します。アネルマ様と同時期から教会に通ってます」
彼女は侯爵令嬢。
物静かで知的なのだが、侯爵夫妻が強者。
教会に多額の寄付をしている。
それだけなら気にすることはないのだが……
『司祭様、うちの娘はどうかしら? 』
『見込み在りそうですか? 』
『今は誰が有力候補なのかしら? 』
『娘は、次代の聖女になれますかね? 』
司祭に質問する姿を頻繁に目撃されている。
エルネスタ本人はどうか分からないが、夫妻はとても『聖女』に執着している。
「私はコンチェッタ・サバティーニ。十五歳、教会には五年目。私の時は三人認定を受けたわ」
彼女は公爵令嬢。
正式に発表はしていないが、社交界では幼馴染の公爵令息との婚約が進んでいると噂されている。
「私はクロリンダ・ピザーノ。三人のうちの一人です」
彼女は侯爵令嬢。
彼女の家門もまた、過去に隣国との取り引きで失態を犯した一人。
王族との婚約は難しいが、高位貴族との婚約話は進んでいる様子。
「私はカルメーラ・プレスティ。これからの四年間、よろしくお願いします」
彼女は子爵令嬢。
王子の婚約者になるには爵位が足りず、聖女になるには能力が他の者より劣っている。
本人としては婚約者の座も聖女も諦めたくはないが諦めざるを得ない現実に、婚約希望の釣書と向き合えていないでいるとのこと。
教会での立場は弱いが、お茶会などで他の聖女候補者がいないと自身が聖女候補であることを自慢しているのは有名。
「私はベネデッタ・パラッチィと申します。十四歳で教会には四年目です。候補者として、互いに高め合いましょう」
彼女は子爵令嬢。
現実を見て、王子との婚約は王命が無い限り自身が選ばれることは無いと理解している。
その為、高位貴族に積極的に『聖女候補のベネデッタ・パラッチィです』と縁談を持ち掛けている。
「私はスカルノ・グラナータと申します……十三歳です、教会には三年目です。よろしくお願いします」
彼女は伯爵令嬢。
王子との年齢差・爵位・教養・能力など、全てにおいて問題ない。
問題は無いが、決め手もない。
婚約の話も、今のところは何処からも来ていないようだ。
お淑やか控えめと言えば聞こえはいいが、先程の彼女の後だと存在感が霞んでしまう。
「私はデルフィーナ・スカヴィーノと申します。十一歳です。昨年から教会へ通っております。私の前年の代には聖女候補は現れなかったようです」
デルフィーナは私の一つ年上の子爵令嬢。
彼女は高位貴族ではないが、婚約者候補として名が挙げられている。
彼女本人の聖女としての素質というより、王妃と夫人が友人関係という事で幼い頃から王子とは顔見知りらしい。
彼女が婚約者の可能性があるのはそれだけではない。
幼い頃、王子に『愛馬を紹介する』と案内された先で事故に遭遇。
腕に傷を負ってしまい、常に肘までの手袋を使用している。
本来であれば傷は王子の婚約者候補から除外されるものだが、発端が王子にあるので彼女だけは例外……
『寧ろ傷物の責任として王子が責任を取るのではないか? 』
社交界で注目されている。
「私はフローレンス・ヴァルツァルと申します。これから、よろしくお願い致します」
自己紹介で爵位など言う必要もない。
ヴァルツァルは、貴族であれば誰もが知る公爵家。
教会内に序列は……ない?
これから私は、聖女教育を令嬢達と共に受ける。