聖女候補九年目 話したいだけなのに
「フローレンス嬢は以前の部屋だ、ソミール嬢は突然だったので部屋の準備が間に合わず少し離れた部屋だがいいか? 」
「レンスと離れちゃったのは寂しいですが、私はワガママは言いません」
事前連絡も主人の許可もないのに宿泊を望む時点でワガママ……常識知らずなのだが、ソミール本人は自分は貴族とは違い謙虚で大人しい性格だと思っている。
「二人を部屋へ案内してくれ」
「畏まりました」
ルードヴィックは使用人に合図を送り案内するよう命ずる。
応接室を出てすぐ二人は分かれる。
フローレンスの部屋は上級客室、ソミールの部屋は問題のある宿泊客用。
二人が偶然鉢合わせとなることは無い……互いの部屋を行き来しない限りは……
時間差を置き、ルードヴィックはフローレンスの部屋へ向かう。
「フローレンスいいか? 」
「どうぞ」
「単刀直入に聞くが、彼女も一緒なのか? 」
「いいえ。何故いるのか私にもわかりません」
「フローレンスに誘われたと言っていたぞ」
「いいえ。私は彼女を誘った事はありませんし、今日コルテーゼ侯爵の領地へ向かう事も話しておりません」
「なら、あの話は何処でする? 彼女に聞かれたくないだろう? 」
「はい。彼女に知られると厄介なので……あの花は満月の日に採取したいので、その時だけでも彼女と別行動したいです」
「分かった。どうにか別行動出来るよう俺の方でも考える……彼女……ここに来たりしないよな? 」
「……来るかもしれません」
「なら、俺はもう行く。もし会話出来ないようならメモをそこの使用人に渡す。フローラの方もそうしてくれ」
「はい、お気遣い感謝します」
ルードヴィックは急いでフローレンスの部屋を去り応接室へ戻る。
フローレンスはいつ来てもいいように、ゆっくり準備を整えていく。
ソミールが選んだのは……
「あれぇ? レンスはまだですか? 」
「……そうだな」
「レンスったら、いつものんびりさんなんだから。ルードヴィックさんはレンスの事どう思ってます? 大丈夫。レンスには秘密にするんでっ」
「どうって、フローレンス嬢は優秀な聖女候補だと思っている」
「それって、聖女候補としか見ていないってことですか? 」
「聖女候補は聖女候補だ。君も聖女候補だろう? 」
「ん~そういう事ではなくてぇ、その……ルードヴィックさんは婚約者がいないでしょ? レンスも婚約者がいなくて……その……気になっているみたいなの、ルードヴィックさんの事。私相談されてて……レンスの事どう思っているのかそれとなく聞いてほしいって……」
「それとなくじゃなく、普通に聞いちゃってるよね? 」
「あれ? そうかな? えへ。それで、レンスの事どう思ってる? 私、レンスには幸せになってほしいの。安易な気持ちならレンスに近付くのは止めて」
「フローレンス嬢は真面目で聖女候補という立場に誇りを持っている。令嬢を見ていると、刺激を受けるよ」
「……そっかぁ、だけどそれって恋愛って意味じゃないってことですよね……レンスにどう伝えよう……」
「ソミール嬢は恋愛を重視するようだな」
「もちろんです。相手を思いやれない結婚はすぐに破断しちゃうじゃないですか? 恋愛の無い結婚は考えられないですね」
「そういう考えなんだね。貴族で恋愛結婚は難しいからね。基本的には家と家の繋がり。信頼できるかどうかで、愛せるかどうかは別だと思うよ」
「そんなっ、それって政略結婚という事ですよね? レンスの事を爵位でしか見てないんですか? 酷すぎる」
「俺はフローレンス嬢の事を信頼しているよ」
「信頼と愛情は違いますよ? 」
「俺は愛情より信頼を取るかなぁ」
「……ルードヴィックさんは誰かを好きになった事ないんですか? 」
「俺は……フッ、どうだろうなっ」
「えぇ~知りたぁい。教えてよぉ」
「……お邪魔だったかしら? 」
フローレンスが登場。
「あっレンス、早かったね」
「……私はこれから教会へ挨拶に行きますが、ソミール様はどうなさいますか? 」
「そうなんだ。私は……ルードヴィックさんは一緒? 」
「俺はこれから領地を回らなきゃならない」
「そうなんだぁ。私も領地見学させてもらおうかなぁ」
「そうですか。私は教会や孤児院に挨拶があるので帰りは遅くなるかもしれません」
「そうか分かった。俺も一緒に出るよ」
「私も一緒に行くぅ。領地を回るからルードヴィックさん一緒の馬車で良いですか? 」
「申し訳ないが、領地を案内している余裕はないんだ。色々行かなきゃいけないところがあるから同じ馬車と言うのは難しい」
「そうなんですね、残念です」
「その代わり、使用人に観光地を案内させるよ。それと護衛騎士も付ける」
「えっいいんですか? 」
「聖女候補だからね」
三人別々の馬車に乗り移動する。
先に別れたのはルードヴィック。
そして、ソミールは観光地へ向かう。




