聖女候補九年目
「司祭様ぁ、良いですか? 」
「……はい、どうぞ」
「司祭様、皆から報告ありましたか? 」
「……何についての報告でしょうか? 」
「今調べている事についてです」
「いえ。各自自主的に調べている事なので、私に報告する必要はありません」
「そうなんですか? では、レンスはどうして司祭様のところに? 」
「……定期報告に来ただけです」
「定期報告って何ですか? 私にも見せてください」
「いけません。これは司祭である私が管理するものです」
「だけど、私は定期報告なんてしてないですよ」
「貴方の場合は約八年の遅れがありましたから、負担になるような事はこちらで選別し、できる範囲で聖女候補として過ごしていただいております」
「そうだったんですね。知らなかったぁ。なら私だけ知らない事が沢山あるって事ですか……」
「八年の遅れは大きいですからね。ソミール様の責任ではありません」
「だけど、私は皆より劣っていますよね」
「劣っているわけではありません。残り数か月ですが、聖女候補として過ごして頂きたいと思います」
「聖女候補として……その後はどうなるんですか? 」
「その後とは? 」
「聖女候補を卒業した後です」
「皆さんあるべき場所へ帰りますよ」
「あるべき場所へ帰る? 聖女として活動されないのですか? 」
「……それは講義で説明しましたが、現聖女に万が一の事が起きてから次世代の聖女を決定します」
「その間の私達は? 」
「王宮からお声が掛かるまでは、普段の生活をされます」
「私はどうなるんですか? 」
「以前までは何をされていたんですか? 」
「色んな事です。手伝ってほしいと言われた事。畑の手伝いに、洗濯物の手伝い、庭の掃除に収穫のお手伝いとか……色んな事です」
「聖女候補となる前から色んな人を助けていたんですね。その頃に戻るだけですよ」
「えっ……私……貴族の方と結婚するんじゃないんですか? 」
「……婚約を申し込まれていたりするんですか? 」
「婚約は申し込まれるんじゃないんですか? 」
「……申し込まれることはありますが、そこに教会は関与しません。本人の意思に任せております」
「私は……貴族になるんじゃないの? 」
「ソミール様は養女をご希望なんですか? 」
「……貴族になると思っていました」
「昔は多かったですが、今は聞きませんね」
「そうなんですね……これって……」
机の上に置かれた書類を目にした。
先程フローレンスが提出しに来たものだ。
「報告書は見る必要ありません。用が無ければ行きなさい」
「はぃ……」
大人しく司祭の言う通り部屋をでる。
「どうしよう……友達に貴族になるって言っちゃったのに……お茶会とかにも呼んであげるって約束しちゃったし……」
聖女候補となれば、貴族となるものだと思い込んでいた。
聖女の能力欲しさに、貴族がこぞって婚約の申し込みを司祭に話しているものと……
「イリノエ侯爵に私を養女にって話を持ち出せば、してくれそう……だけど、もし息子と結婚してくれって言われたらどうしよう……イリノエ侯爵の息子はいい人そうだけど……あんまり好きになれそうな見た目じゃないのよね……普通っていうか、コルネリウスさんみたいに素敵じゃないんだよね……あっ」
ソミールは先程、司祭の部屋で見た書類を思い出す。
「コルテーゼの領地に訪問予定って書いてあった……私も行ってみようかなぁ……あぁ、移動手段どうしよう……レンスの馬車に乗せてくれるかな? 」
フローレンスの訪問に一緒に行く気満々の様子のソミール。
移動手段だけが問題。
「……ソミール様、お客様がお見えです」
「フィオちゃん、ありがとう。お客様って誰かな? 」
「イリノエ侯爵様です」
「イリノエ侯爵……そっか」
イリノエが待つ部屋まで向かう。




