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聖女候補九年目 ヒロイン動き出す

「あっ、ファビちゃんっ」


「……どうして……あなたが、こちらに……いらっしゃるの? 」


「私? 私は休みの日に孤児院や貧困街で奉仕活動しているの。それより、ファビちゃんはここで何しているの? ここは知らないかもしれないけど、あんまり……治安が……お買い物とかだったら、この道を戻って……」


「いえ、私はここに用があって来たので……それではごきげんよう」


「あっ……またねぇ~」


 ファビオラは本日、近くの教会に挨拶をし貧困街で食事を配布する計画書を司祭に提出していた。

 この日の為に事前に教会に寄付と修繕を行い、そこを拠点に食料配布の指示を出す。

 どんなに安全を確保しても司祭から危険と判断され、護衛騎士と共に教会で報告を受ける。


 食料配布が始まり一度目の報告。


「聖女候補様。報告させていただきます。食料配布は順調で、問題はありません」


「そうですか。遠くからでも状況を確認したいのですが、落ち着いた頃教えていただけますか? 」


「はい畏まりました。しばらくは続くと思いますので、声を掛けさせていただきます」


 食料配布は教会に身を置く見習いがしている。

 

「聖女候補様、本日は大変ありがとうございます」


「いえ、私こそ教会の方には感謝しております」


 ファビオラは司祭と共に貧困街がどのような状況なのか説明を聞く。

 王宮からの支援や聖女候補達が訪れるも、改善したとは言えない環境。

 

「貧困街は根本を変えなければ、これからも支援を必要とします。この状況をどう改善するべきか解決策はまだ……なんだ? 」


 貧困街を改善できないだろうかと司祭と会話していると、外が騒がしくなる。


「何かあったんでしょうか? 」


「聖女候補様は、こちらでお待ちください。私が確認して参りますので」


 司祭が確認に行く間、不安が過る。

 食料に何か不具合があったのではないか。

 食料配布に不手際があり、暴動でも起きたのではないか。

 ……結局、聖女候補とはいえ施しは貴族の傲慢、不満を訴えられたのかもしれない。

 善意からの支援でも、受け取る側にはそうとは限らない。

 ファビオラは無事に司祭が戻ってくれるのを静かに祈る。


「聖女候補様っ」


 無事に司祭が戻る。


「……良かった……どうしました? 」


「あの……外で……聖女候補様……」


 司祭はファビオラの様子を窺う。


「どうされたんですか? 食料に問題でも? 」


「問題はないのですが……一度確認して頂けないでしょうか? 」


「はい」


 外で何が起きているのか分からないファビオラは不安に思いながら配布所へ向かう。


「皆さぁん、落ち着いて。ちゃんと準備してあるので、順番を守ってくださぁい」


 配布所で配布している中にソミールの姿が。

 

「どういう事? 」


 ソミールに食料配布するよう許可していない。

 なのに、何故彼女が食料配布しているのか。

 それだけではない。


『こんなところにまで聖女候補様が来てくださるなんて……』

『なんでも、あの方は平民出身らしい』

『あぁ、あの噂になった』

『私達の為に企画してくれたらしい』

『それだけじゃなく、自ら食料を配ってくれるなんて……』

『ありがたや。ありがたや』


 ファビオラが計画した食料配布は全てソミールのものになっていた。

 ファビオラがソミールの元に向かう。


「ソミール様、何をしているのですか? 」


「あっ、ファビちゃん。今ね皆に食料を配ってるの。ファビちゃんも一度でもこういう経験した方がいいよ? 」


「それは私がっ」


『おっ、この方も聖女候補様か? 』

『そっちの聖女候補様も、この方を見習いなさい』


 聖女候補達の会話を聞いていた者達が食料を貰いながら会話に加わる。


「やだぁ、私なんて見習うとこないよ。ファビちゃんは貴族なんだもの。私とは違うのっ」


『お貴族様は私達に食料なんて配らないかっ』

『なら、なんでここに来たっ』

『わしらはあんたの方が聖女様になると信じとるよ』


「私が聖女様? そんなぁ。聖女候補の皆、私より素敵な人が沢山だからなぁ」


『着飾ってるだけで聖女様に成れるはずないだろ』

『聖女様になるには心が大事だ』

『貴方の方が綺麗よ』


 食料配布も平民の心も全てソミールに奪われた瞬間。

 それ以上ファビオラが何かを発言しても、平民には届かないと判断し静かに去った。

 ファビオラの聖女候補としての活動は大教会に戻り報告書で提出するも、国民にはソミールの名前で広まっていた。

 

「どうして、アレの実績となっているんですか? 食料配布を計画しあそこまでやり遂げたのは全てファビオラ様ではありませんかっ」


 誰よりも正義感が強く貴族の功績を平民に奪われることを許さない聖女候補が司祭の部屋に乗り込む。


「私はアンギレーリ様が準備し当日の行動もあちらの司祭から報告を受けております。ですが、噂は何故かそのように……どうにもできません」


「今まであの女を野放しにしてきたからではありませんかっ。今度も私達の功績を奪う気ですよ、アレは」


「……今回は偶然でしょう。毎回都合よく候補者の奉仕活動場所に居合わせるのは難しいですから。それに彼女は平民。馬車を所持していないのですから移動手段がないはずです」


「そうやって楽観視していると、司祭様も利用されますよ」


 エリベルタは不穏な言葉を残し司祭の部屋を去って行く。

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