聖女候補九年目 王子と聖女候補であり次期王妃候補のお茶会
聖女候補兼王妃候補であるフローレンスとコルネリウスのお茶会の場合。
「ねぇ、レンスって休みの日何してるの? 」
ソミールは教会を休む候補者達が何をしているのか気になっては尋ねている。
「色々と勉強しております」
「どんな勉強? 聖女様について? なら、私も一緒にいい? 」
「それは出来ません」
「えっどうして? 」
「司祭様に報告し訪問先に事前に許可をいただき、勉強させていただいております。それに、この勉強も聖女候補の課題だと思ってください。各々国の問題に向き合い自身に何が出来るのか、自身を見つめ直す為のものなんです」
「……そうなんだ……私は皆と違って、聖女候補期間が短いじゃない? どうしたらいいのか分からず、焦っちゃってるの……」
困った表情でフローレンスを見つめるソミール。
フローレンスが了承するのをソミールが期待しているのを察しているフローレンス。
「ソミール様は私達とは違う感性を持っていそうですから、私達と同じようにする必要はありませんよ。私はソミール様が何に興味があるのか楽しみにしております。焦らず、お互い頑張りましょう」
「……はぁい……」
分かりやすく落ち込むソミール。
どのような考えを持っているのか興味があるのは本当だった。
「バルツァル嬢、ソミール嬢から聞いたよ。情報を既存の聖女候補同士のみで共有し、ソミール嬢には与えていないそうだな。君がそういう人間だったとはとても残念だよ」
支援している教会の内情調査。
次代の聖女候補の人格調査。
次期王妃に相応しいのか素行調査。
コルネリウスは王子という立場で聖女候補を調査対象としかみていない。
そして、誰か一人の為としか思えないような尋問の仕方。
「なんの事でしょうか? 私達は司祭様の講義を受け独自に聖女について学んできました。他の聖女候補の方と情報を共有した事はありません」
「ソミール嬢が聖女と遅れて発覚したのは教会側の失態だ。それをソミール嬢の不手際のように語り、聖女の文献にも近付かせていないと聞いている」
「一度の儀式で何らかの手違いがあり聖女と認定されなかった聖女候補は以前にもおりました。私達はその方を非難した事はありません。聖女様についての過去の文献も司祭様の許可が降りましたら誰でも閲覧できます。手順を踏まずには閲覧は出来ません」
「手順があるという事や手順について伝えていなんだろう? 」
「私からは伝えておりません。聖女候補として迎えられ、司祭様から教会内についての説明を受けます。その一つに文献の閲覧について聞いているはずです」
「君たちは何年も候補として生活してきた。先輩達の姿を見て身に付いたことだってあるだろう、一度の説明で全てを理解し実行できるとは思えない。そういう時は既存の聖女候補が手を差し伸べるべきではないか? 」
「そうかもしれませんね。学ぶ姿勢や、この方には教えたい、と思えたらお節介を焼いていたかもしれませんね」
「……ソミール嬢に嫉妬して、教えたくなかったという事か」
「誰の何に嫉妬したのか分かりませんが、私は聖女候補として常に正しいと思える行動を選択してきました」
「正しい……フフッ。令嬢とは根本から物の考え方が違うんだな。もう分かったよ。君とは分かり合えないという事が」
コルネリウスは準備した紅茶に一切手を付けることなく去って行く。
今回フローレンスとのお茶会は誰の邪魔も入ることなく二人だけだった。
聖女候補兼王妃候補である、アルテーアとコルネリウスのお茶会の場合。
一人待ち合わせ場所でお茶会の相手を待つ。
「待たせた」
待ち望んだ相手の声に立ち上がって振り向くアルテーア。
「いえっ……えっと……」
「あっ、あのね。偶然コルネリウスさんとお会いして二人がお茶会をするって聞いていい天気だし私も一緒にテーアちゃんとお茶会したいって思ってきちゃったんだけど……テーアちゃんも私の事……嫌だった? 」
婚約者候補としての対面であるのに、コルネリウスはソミールを連れて登場。
ソミールの方も、本来二人だけのはずのお茶会に参加を口にする。
意味のあるお茶会なので本来参加者ではない人を断ることに躊躇う必要はない。
だけど、ソミールの『テーアちゃんも私の事……嫌だった? 』と聞かれ、鋭い視線を向けるコルネリウスの前で正直に「はい」とは言えない。
「……いえ……どうぞ……」
「良かったぁ。テーアちゃんとはとっても仲いいから、三人でお茶会した方が楽しいと思うのっ」
「そうなのか」
もう一人の主役であるアルテーアを置き去りに二人は話を進めていく。
「テーアちゃん心配しないで。私は二人と一緒にいたいだけで、邪魔はしないからっ」
「あっ……はい……」
教会の庭にあるガゼボに三人で座る。
ガゼボは腰ほどの柵に周辺を囲われ円となっていている。
順番はアルテーア、コルネリウス、ソミールの順。
準備を担当したアルテーアはもてなしに紅茶を振る舞うも突然の参加者にカップが足りていない。
「大丈夫だよ、テーアちゃん。足りないカップは私達が持ってくるから。他に忘れ物はない? 」
「……ぃぃぇ」
ソミールとコルネリウスはカップを一客取りに行くのに二人で向かう。
アルテーアはソミールの言葉に引っかかっていた。
『他に忘れ物は無い? 』
お茶会の相手は王子であるコルネリウス。
当然入念な準備をしていたアルテーアに忘れ物などない。
予定外の招待客によって、カップは足りなくなった。
その乱入者は足りないカップを取りに行き、主催者の失態を優しくフォローしたように発言した。
「……私が忘れた訳じゃないのに……」
待つこと数十分。
二人は楽しそうに戻ってくる。
「お待たせぇ。問題は解決したよっ。さっ、お茶会を始めようっ」
アルテーアの隣はコルネリウス、その隣に座るソミールはアルテーアの正面になる。
コルネリウスとソミールは親しさを感じる距離。
その光景を眺めるしかないアルテーア。
カップを見つめ、空であることに気が付く。
「……紅茶……淹れますね」
二人の耳には届いていないが、ティーポットに手を伸ばす。
「ん? テーアちゃんが淹れてくれるの? 嬉しいっ……だけど、大丈夫? 私が代わりに淹れようか? 」
貴族は紅茶を飲むことはあるも、淹れるのは使用人。
屋敷ではそれが当然のことだが、教会では自身で行う。
最初は苦戦し下手だったが、先輩達に教えてもらい今ではお客様にお出しできるまでになった。
「……大丈夫です」
「あぁ……不安……私がやるよ。もし火傷なんてしたら大変だものっ。貸して私が淹れてあげる」
「大丈夫ですからっ 」
「本当に? ……ゆっくりね……注ぎ口はカップに乗せちゃダメなのよ。空気を含ませるように少しカップから離すのが重要だよ……そう、そう……ゆっくりね、ゆっくり。……出来た……良かった……上手だったよ」
「ソミール嬢は心配性なんだな」
「テーアちゃん見ていると近所の子供達を思い出しちゃって……なんでも私の真似をしてやりたがるんだけど、見てると失敗するんじゃないかって心配になっちゃうんだよね」
「よく、子供の面倒を見るのか? 」
「面倒っていうか近所の子達とは仲良くて、いつも集まってきちゃうんだよね」
「皆、ソミール嬢の事が好きなんだな」
「好きって、ただ単に遊び相手って思われているだけだよ」
「ソミール嬢の優しさに皆寄ってくるんだろう」
「私優しくなんてないですよ」
「自身の魅力が分かってないんだな」
「えぇ? 私の魅力ですか? 私よりも、聖女候補の皆さんの方が魅力的だよ」
「人の良いところを見るのも良いが……気を付けろよ」
「皆、良い人だよ」
「ソミール嬢は……」
会話する二人に静かに紅茶を配るアルテーア。
その姿はまるで使用人のよう。
「ありがとうっテーアちゃん。んっ、美味しいっ。美味しいよテーアちゃん。練習した甲斐があるね」
「他の候補生の練習にも付き合っているのか? 」
「付き合っているって……私がお節介焼いちゃうんだよね」
「ソミール嬢らしいな」
「んふっ。コルネリウスさん、練習したテーアちゃんの紅茶どう? 」
「あぁ、美味しい。苦くないな」
「ああっ、それ私に言ってる? 聞いてよテーアちゃん。私この前ね、コルネリウスさんに紅茶を淹れたの。その時、話に盛り上がり過ぎちゃって苦くなっちゃたんだけど、コルネリウスさんだって紅茶淹れているの忘れてたのよ。それを私だけの失敗みたいにぃ……」
「責任もって飲んだろ? 」
「そうだけど、テーアちゃんの前で言わなくたっていいじゃない。私、テーアちゃんに『お姉さん』って思えてもらってるのにぃ」
「お姉さん? ソミール嬢が? 」
「何ですかっ。私これでも後輩達から慕われてるのよぉ」
「フフッ。分かっているさ。ソミール嬢の話から後輩達に慕われているのが……」
終始コルネリウスとソミールが会話し、アルテーアは紅茶やお菓子のような存在だった。




