儀式
「儀式を受ける方は名前を確認後、こちらに整列してください」
教会に到着すると、既に多くの人で混雑している。
一人一人壇上へと移動。
聖女に反応するという水晶に手を翳すと、素質がある者であれば光と言われている。
過去大聖女と呼ばれた者は、眩しいほどの輝きを見せたと語り継がれているが何十年もそんな人物は現れてはいない。
「フローレンス・バルツァル公爵令嬢」
教会では身分は関係ないというが、安全上の問題から貴族が先に儀式を受ける。
「はい」
司祭に呼ばれ壇上へと向かう。
儀式を受ける者、同行した親達の視線。
水晶を目の前にすると、今まで感じなかった緊張感が体を支配する。
「……ふぅ……」
目を閉じ、気持ちを落ち着かせるために深呼吸をする。
「さぁ、どうぞ」
今日儀式を受けるのは私だけではない。
司祭は最初の私に時間を掛けるつもりは無く、少しでも早く参加者全ての儀式を終えたいようだ。
「はい……あっ」
水晶の中心に変化が起こる。
「バルツァル公爵令嬢は……聖女の素質を確認」
司祭の言葉に会場から感嘆の声があがる。
儀式一番目の参加者が『聖女候補』となり、どよめきが上がる。
「では後程、教会から公爵家宛に報せを送ります」
「はい」
我が家と教会の名誉の為に告げるが、私の『聖女』の素質は本物だ。
いくら『聖女』候補になれば家門の名誉となると言っても、偽証しようものなら司祭も家門も重罪とされ処分の対象となる。
「おめでとう、フローレンス。すぐにでも屋敷に戻ってお祝いしなきゃね」
私が報告するよりも前に、母が興奮気味に話す。
この状態の母に何を言っても聞こえていないのは経験済み。
「はい」
儀式はまだ続いているが、速足で馬車に向かう母の後姿を必死に追う。
屋敷に向かう馬車の中では母が一人興奮した様子ではしゃいでいた。
「皆、聞いて。フローレンスに聖女の反応が確認されたわ」
帰宅早々、母は使用人に自慢するよう報告する。
「まぁ、それは素晴らしい」
「お嬢様、おめでとうございます」
「流石フローレンス様です」
母のご機嫌取りではないが、使用人が大袈裟に祝福しているような気がしてならない。
私としては、水晶の中心がほんのり明るくなった程度。
毎日水晶を見ている司祭でないと、見間違いと誤認してもおかしくない変化だった。
「お姉様、すごいです」
「ありがとう」
純粋な弟の言葉には、素直に「ありがとう」という言葉が出た。
「本当に驚いたわ。一番初めに儀式を受けて、一番初めに聖女の資格が判明したのよ」
母は今も使用人に喜びを話している。
過去に両親に褒められることはあっても、こんなにも喜んでくれたことはない。
「バルツァル公爵家では四世代前にも聖女を輩出しているから、私の子供に聖女の反応が現れてもおかしくないのよ」
母の話によると、四世代前の方は公爵家の血筋というより聖女の素質を確認された事で公爵家に嫁ぐことが決定した元伯爵令嬢。
私が生れた時には既に亡くなっていて、噂でしか知らない。
儀式を受けて数日、母は何度も使用人に同じ話しをしていた。
「今年の聖女として判定されたのは、フローレンスだけですって。すごいわぁ」
教会から報告と、聖女教育の案内状が届く。
母は『聖女』の素質があることと、『今年は私一人』という事実に喜んでいた。
勘違いしてはいけないのが、私の能力は珍しいが奇跡ではない。
昨年の儀式でも、一人の令嬢が素質があると判定を受けている。
聖女候補が現れない年もあるが、大抵は毎年一名から三名程の女性が素質があると判定される。
そして、素質があると判定を受けた者は聖女教育を受けるべく教会から案内状が届く。
いくら私が公爵令嬢といえど、司祭を屋敷に呼び教えを乞うことは無く屋敷から教会へ通う。
平民であれば教会で住み込みで学ぶこともあるが、貴族令嬢は屋敷から通う。
屋敷から教会通う姿を見せつけたいという者もいるが、多くは自身の屋敷の方が快適だからだ。