聖女候補八年目 最後の失態
教会を訪れる貴族は頻繁に訪れてはコルネリウスがどの令嬢と親密なのかを探りを入れている。
今日も数名が互いに情報交換をしている。
他の場所を選べばいいものを、たった今仕入れた情報を直ぐにもで話したくて堪らないようだ。
『これで婚約者が分からなくなったな』
『依然有力なのはバルツァル公爵令嬢か、スカヴィーノ子爵令嬢だろう』
『いやいや、あの平民もイリノエ侯爵を後ろ盾にしたと聞くぞ』
『三つ巴か……』
『バルツァル公爵令嬢との関係は良好がどうか分からないが、スカヴィーノ子爵令嬢とは良好らしい。やはり幼い頃からの知り合いで夫人同士が親しいというのは協力だろう。それに、他の候補者との関係も良好みたいじゃないか』
貴族の噂話を立ち聞きしている人物がいる。
「へぇ……そうなんだ……二人は幼馴染なんだぁ……幼馴染って大概結婚するんだよね……どうにかしないと…」
有力な情報を耳にした人間は静かにその場を離れる。
「祈りの場の掃除を始めます。本日はソミール様が水晶のお清めをお願いいたします」
「フィーナさんっ。私、朝から手が痺れちゃっていてぇ水晶を運ぶのお願いできます? 」
「分かりました」
「ありがとうございまぁす」
「では、ソミール様は塩の準備をお願いします」
「はいっ」
ソミールはデルフィーナの指示に従い水晶から離れる。
「……えっ……キャッ……」
ガチャン……
「フィーナさん? あっ……水晶が……」
水晶は床を転がる。
透明の美しい球体の水晶にヒビが入ってしまっていた。
「そんな……」
「……フィーナさん、私が落としたことにします」
「……え? 何を言っているの? 」
「フィーナさんが失態を犯したとなれば司祭様は失望してしまうと思います。私は教会に入ったばかりですから、失態も許されるというか……飽きられるくらいですから」
「ソミール様……」
「私、行ってきますね……フッ……」
ヒビの入った水晶を拾い、ソミールは司祭の元へ向かう。
「……お待ちください。そのような事をさせるわけにはいきません。私が司祭様に話します」
「えっ、それだとフィーナさんがっ」
「その水晶は私が責任を取ります」
「でも……フィーナさんはその……手袋しているよね? また落として、今度は割っちゃうかもしれないよ。危ないから私が運ぶよ」
幼い頃に負った腕の傷を隠す為に、常に肘までの手袋を使用している。
「一度落とし、傷までつけた水晶です。再び落としてしまっても、傷のついた水晶は今後は使用しません」
「それでも、私が運ぶよ」
「いえ、貴方は部屋の掃除をお願いします。さぁ、水晶を渡してください……ソミール様」
ソミールはデルフィーナにヒビの入った水晶を手渡す。
デルフィーナは真実を告げる為に司祭の部屋を訪れた。
聖女候補期間、残り数週間といった時期でのデルフィーナの失態。
九年間、大きな問題の無かった令嬢の唯一最大の汚点。




