聖女候補八年目 何故追い掛け回すのか……
謁見という難題も終え、聖女候補八年目を迎える。
この年もまた、聖女候補は誕生しなかった。
祈りと講義を終え、自由時間。
「ベッタちゃん、私が平民でも聖女候補の仲間なんだから仲よくしよう」
「結構です。それと私の事はベッタちゃんとは呼ばず、ブライアント伯爵令嬢と呼んでください」
「教会では爵位は関係ないって司祭様からも説明があったでしょ? 」
「私は貴方と慣れ慣れしくするつもりはありません」
「そんなこと言わないで。本当は寂しいんだよね? 私なら相談乗るよ」
「結構です」
遠巻きに二人を観察する候補者達。
『あれは何でしょう? 』
『普段ソミール様がエリベルタ様に話しかける事なんてしないのに……』
『先程からソミール様が一方的にエリベルタ様を追いかけています』
『エリベルタ様は先程から何度も拒否しているんですが、ソミール様が諦める様子がなく……』
『これって、助けた方が良いのでしょうか? 』
遠くの光景は眺めながら、どうするべきか悩んでいる候補者達。
エリベルタを助けたい気持ちはあるが、あの場に突撃しソミールに巻き込まれるのを危惧している。
「いい加減にしてくださいっ」
「ベッタちゃん、皆と仲良くしようよ」
「御心配には及びません。皆さんとは適切な距離を保っていますから」
「適切な距離って……強がらなくてもいいんだよっ」
「強がってなどいません。追いかけて来ないでくださいっ」
「ベッタちゃんっ」
エリベルタに全く相手にされていないが、今日のソミールは諦めない。
『何をしている? 』
『……コルネリウス王子っ、本日はどのようなご用件でしょうか? 司祭様をお呼びいたしましょうか? 』
『いや、いい。それより、あの二人はどうしたんだ? 』
『それが、私達にもよくわからないのです』
『……そうか』
コルネリウスは二人の元へ歩いて行く。
「ソミール、どうしたんだ? 」
「えっ? コルネリウスさんっ……えっと、今は……ベッタちゃんと……その……先日の件で誤解があったのを謝罪してくれたの……」
「何を仰っているんですか? 私はが貴方に謝罪することなどありませんっ」
「ベッタちゃんっ。私に何を言っても構わないけど、他の皆とは仲良くしようよっねっ」
「ですから、他の方達とは良好ですと言っていますよね? もう、私に話しかけないでくださいっ」
「良好ってっ……ベッタちゃんっ……どうして、心を閉ざすの……」
「ソミール嬢、今はそっとしておこう。いつか、令嬢もソミール嬢の優しさに気が付く時が来る」
「……私、ベッタちゃんが一人だったり、強い言葉で相手を攻撃しているのは弱さを隠す為や寂しいからだと思う。今、彼女を一人にするのは心配なの。他の候補者の方もその事に気が付いているはずなのに……私、彼女の事を放っておけないのっ」
「ソミール嬢……焦ることは無い。君の優しさは必ず届く」
「……そう……だと良いけど……」
コルネリウスは自身がソミールの肩を抱き、彼女が凭れる事に拒否感を抱かない程に心を許している事に気付いていなかった。




