聖女候補七年目 嫌な展開はここから始まる
コルネリウスが訪問する約束の五日後。
祈りは既に終え、聖女候補達は個人の時間を過ごしている。
「……ひっく……ひっく……」
「……ソミール嬢? 」
「ひっく……コ……ルネリウス……さぁん……っく」
ソミールは植え込み近くでしゃがみ込み涙を流していた。
そこをファビオラに会いに来たコルネリウスに偶然遭遇する。
「怪我でもしたのか? 」
「……うんん」
「では、なぜこんな場所で泣いている? 」
「それが……いえ……なんでもないわ。私の事は誰にも言わないで。コルネリウスさんは誰かと約束しているんだよね……時間に遅れちゃうよ」
「……時間まで、少し余裕がある」
「だけど……」
「話せば気持ちも落ち着く」
「……ありがとうっ……私……今、王様の謁見の為に……礼儀作法の講義を……受けてるの……努力しているんだけど……皆さんのようにはいかなくて……」
「そうだね。他の候補者は幼い頃から受けている内容。ソミール嬢にとっては初めての事で習得するのは容易ではないだろう。王族もその事は理解している。努力が見えればそれで十分だ」
「……そうなの? だけど皆は、私の作法は酷いから王族に会うべきじゃないって……」
「そんな事は無い」
「講義の間も、私に教えても意味が無いのでやるだけ無駄って……そもそも平民の私が同じ部屋にいると匂いが移って不快だとか……私のような者が聖女候補となったのも何かの間違いだから、追い出すべきだって話しているの聞いちゃって……」
「聖女候補達がそのように話しているのか? 信じられない……」
「私だって……突然、今日から貴方は『聖女候補です』って司祭に言われて『ここで皆と学ぶように』とだけで、ずっと一人で……それでも最初はラヴィちゃんやファビちゃんとも仲良かったけど……他の皆に何か言われたみたいで、私を避け初めて……私一人で頑張って来たけど……辛くて辛くて……こんな事なら聖女候補になんてなりたくなかった……」
「それは、辛かったな。私から司祭に話してみよう」
「そんなことしないで。もし、司祭様に知られたら司祭様が悲しむよ。私一人が我慢すればいいの。後二年だもの……大丈夫よ……私さえ我慢すれば……ひっく」
「そんな話、聞いてしまった以上放置はできない」
「ごめんなさいっ、聞かなかったことにして。私が安易に教会内での聖女候補達の話をするべきじゃなかったの。私が悪いの。全部私の責任だから、誰にも言わないで。お願いっ」
「一人で耐えようとするな。貴族令嬢しかいない聖女候補の中に、一人平民という立場で辛かっただろう。私達の配慮不足だ」
「いえ、コルネリウスさんのせいじゃ……私が皆と仲良く出来なかったのがいけないの……貴族の方が平民なんかと一緒は嫌だよね……私、勘違いしちゃったの」
「本来、教会内で聖女候補に身分は関係ない。本当に、司祭に報告しないでいいのか? 」
「司祭様には言わないで……私は平民だから……」
「まさか……司祭が候補者を平等に扱っていないのか? 」
「そんな事ないっ。司祭様はとても気を使ってくれて、出来る限り平等になるように……してくれてる……」
「……私から聖女候補達に伝えよう」
「それだけはっ……その……皆さん、コルネリウスさんの事を慕っているの……慕っている方にその様なことを言われたら……」
「……自分が辛いのに、他の候補者の心配するなんて……だがそれだとソミール嬢が辛いだろ? 」
「私は平気だからっ。私、結構打たれ強いんだよっ。平民だものっえへへっ」
涙目で笑顔を向けるソミール。
「……わかった。だけど無理はするなよ。私に出来ることがあれば、言ってくれ」
「……はぃ、ありがとうございます……コルネリウスさんに話せて、気持ちが楽になった……えへっ……泣いちゃった……この事、誰にも言わないでね」
「あぁ、誰にも言わない」
「私、顔洗いたいから先に行くね。コルネリウスさんも誰かと約束しているんだよね? 時間は平気? 」
「問題ない」
「良かった、私のせいで遅刻になったらって心配だったの」
「気にする必要はない」
「それでは……また」
「あぁ、また」
ソレーヌが先にその場を離れる。
コルネリウスは予定の時間に帰宅したのだが、ファビオラとのお茶会の時間は十五分程……
本来は一時間のはずだった。




