聖女候補七年目 人の話は聞きましょう
「司祭様? なんでしょう? 」
個人的に呼ばれたソミール。
「ソミール、貴方にはこれから王族謁見の準備を優先してもらう」
「準備とはなんですか? 」
「王族への挨拶に粗相が無いよう挨拶の礼儀を学んでもらいます」
「私、王様に失礼のないよう挨拶出来ますよ」
「……王族への挨拶には貴族の作法で出席して頂きます」
「貴族の作法ですか? 私達は聖女候補ですよ」
「王宮では王宮の作法があるので従ってください」
「私、貴族の作法なんて……」
「これから学んでください」
「……王様にお会いするのっていつですか? 」
「年が変わって、二週目です」
年が変わってと言っても、来月だ。
「来月ならこれからでも、余裕で間に合いますよっ」
「……間に合うよう学んでください。国王陛下にはあなたが平民であることも報告してありますので」
「えっ、私が平民なの報告しちゃったんですか? 」
「私には事実を報告する義務がありますから」
「はぁい」
「返事は短く、決してそのような返事を王族の前でしないこと」
「王様の前ではちゃんと出来まぁす」
「……ハァ……貴方には今日から礼儀作法の講師が付きます。先生に失礼のないように」
「はぃ」
「では、二階の部屋で待ちなさい」
部屋を出て礼儀作法の講師が待つとされる部屋へ向かう。
その途中、同じ聖女候補のラヴィニアが庭で誰かとお茶をしているのを発見。
「あの人誰だろう? 金色の髪……素敵。ラヴィちゃんと一緒にいるけど……んふっ」
ソミールは講師の待つ部屋は二階だが、庭へと足を向ける。
「ラヴィちゃんお茶してるの? 私も一緒にいい? 初めまして、ラヴィちゃんのお友達のソミールですっ」
「あぁ、貴方が噂のソミール嬢ですか」
「噂? ラヴィちゃん、私の事なんて噂してたの? 恥ずかしいっ」
「……ソミール様、今はちょっと……」
「あっ、私の事はソミールで良いですよ。それで、貴方のお名前聞いてもいいですか? 」
「あぁ、私はコルネリウス・リヴェラーニと申します」
「コルネリウスさんねっ。私、最近聖女候補と発覚してまだ慣れていなくって……コルネ……リウスさんって、よく教会に来るの? 」
「そうですね、月に何度か」
「わぁ、嬉しい。また私ともお茶会良いですか? 」
「ソミール様っ」
「あっ、その時はラヴィちゃんも誘うよっ。もう、寂しがりやなんだからぁ。本当ラヴィちゃんは私のこと大好きなんだねっ。んふふっ」
「そうではなく、ソミール様はどうしてこちらにいらっしゃるんですか? 」
「どうしてって、ラヴィちゃんがお茶しているのが見えて私もって思ったの。今日は天気いいものねっ」
「私は今、コルネリウス王子と聖女候補として対面しているんです。なので本日は……」
「コルネリウス王子? 貴方王子様なのっ? 」
「ソミール様っ、聞いてください」
「聖女候補としての対面なら私も聖女候補だもの、一緒にお茶した方がいいんじゃない? 皆に、『ラヴィちゃんだけ特別扱いだ』って責められちゃうよ。私がいたら、二人きりじゃないから安心だねっ」
「ソミール嬢」
「コルネリウスさん、私の事はソミールでいいですよ? 」
「貴方はこれから予定があるのではありませんか? 」
「えっ? そうでしたっけ? 」
「私は以前からラヴィニア嬢とのお茶会の約束をしていたんです。ソミール嬢とはまた今度お話ししたいと思います」
「えっ私の為にコルネリウスさんが、わざわざお茶会を? その日が待ち遠しいですっ」
「えぇ。では、また今度」
「はい、また今度。さぁ、ラヴィちゃんも行くよっ」
「……ソミール様? 」
「もしかしてラヴィちゃんは司祭様から聞いてない? これから礼儀作法の講義だよ。私、それを伝えに来てたの。ラヴィちゃん遅刻よ。講師の先生をこれ以上待たせるわけにはいかいから早くっ。コルネリウスさんっ、また今度三人でお茶しましょうねっ……さっ、行くよっ。ラヴィちゃんは私がいないとすぐ遅刻しちゃうんだからぁ」
「ソミール様っちょっと……私はコルネリウス王子とこれから……ソミール様っ、手を放してくださいっ」
「もうっ礼儀作法の講義受けたくないからって、ワガママは良くないって何度も言っているでしょ。講義の先生には私も一緒に謝ってあげるからっ。もう、ラヴィちゃんは私がいないとすぐ休んじゃうんだからぁ。そういう事なのでコルネリウスさん、また今度お茶しましょうねっ」
ソミールは嫌がるラヴィニアの腕を強引に引き、講義の先生が待つ二階の部屋へと向かう。
「先生お待たせしました。ラヴィちゃんが逃げるから遅刻しちゃいましたぁ」
「……ジラルディ令嬢? ソミールさん、どうしてジラルディ令嬢が一緒なんです? 」
「どうしてって、王様へ挨拶する為の作法を学ぶんですよね? 」
「そうですよ」
「なので、ラヴィちゃんも呼びました。王様に会うのは聖女候補全員と聞きましたからっ」
「貴方の言う通り、国王陛下への謁見は聖女候補全員とです。ですが、今回はソミールさんを紹介する為の謁見です」
「私だけ? 」
「はい」
「私だけ特別に王様から呼ばれたんですか? 」
「……違います。ジラルディ令嬢は既に聖女候補となった十歳の時に国王陛下への挨拶を終えております」
「終えてる? 」
「はい。それに、ジラルディ令嬢は礼儀作法を既に習得済みですので私の講義は必要ありません」
「そうなんですか? ラヴィちゃんも言ってくれたらよかったのに……」
「ソミール様が強引に……」
「もしかして私が心配でついてきてくれたの? 嬉しいっ。先生、ラヴィちゃんの見学良いですか? 」
ラヴィニアが言い終える前にソミールは言いたいことを言う。
「……いいえ。基礎から学ぶんですから、誰かがいると集中力が欠けますので貴方と私の二人だけで行います」
「そんな、寂しいです。私ラヴィちゃんいないと不安で集中できません」
「国王への挨拶で注目されるのは貴方なんですよ」
「最初だけ、今日だけでも一緒はいけませんか? 」
「ジラルディ令嬢の迷惑になります」
「ラヴィちゃんと私は友人なんです。迷惑なんてこと思うはずあるわけないじゃないですかっ。それってラヴィちゃんに失礼ですよっ先生。ラヴィちゃんに謝ってください。私の大切なラヴィちゃんを侮辱するなんて……」
「……ソミール様、私は先生に侮辱などされておりません。ですので先生が私に謝罪する必要はありません」
「もうっ、ラヴィちゃんは優しすぎる」
「……ジラルディ令嬢、ソミール様は同席を願っておりますがいかがですか? 」
「私はお断りいたします」
「ラヴィちゃん、先生も許可してくれているから今日だけ一緒にいてくれないかな? お願い……十分だけでいいの、お願いラヴィちゃん」
「……ハァ……ジラルディ令嬢。このままでは講義が一向に始められませんので、私からも十分だけお付き合い願えますか? 」
「……分かりました。ですが、本当に十分ですよ」
「やったぁ、ありがとうっ。ラヴィちゃん大好き」
友人のラヴィニアが同席してくれる事に喜び、ソミールはラヴィニアに抱き着く。
「止めてください」
「本当は嬉しいくせに、恥ずかしがり屋さんなんだからっ」
約束通りラヴィニアはソミールの講義に付き合う事になり、十分経過し退出しようとする。
「ラヴィちゃん、今のどうだった? 」
「もう一回するからよく見てて」
「ラヴィちゃんどうかな? 」
だが退席を阻止するようにソミールは何度もヴィニアに確認を求める。
結局ラヴィニアが退出できたのは一時間後。
急いでコルネリウスを探すも既に馬車も無く、婚約者候補としてのお茶会は終わっていた。
「何なのよ、あの女っ」
この一件は他の聖女候補に伝わり、ラヴィニアはソミールを徹底的に避ける。
「今後私にあの平民を近づけさせないでください」
今まであからさまな平民蔑視をしなかったラヴィニアの『平民を近づけさせないで』宣言は強烈だった。
大々的に宣言した為、掃除や祈りの整列と些細なことまで周囲は気を配るように。




