聖女候補七年目 波乱の幕開け
エリベルタが教会に通うようになり、もうすぐ一年。
「私は聖女であり貴族ですから。常に誇りをもって行動しております」
最近になり、ラヴィニアの言葉に触発されたのかエリベルタが行動を共にしている姿を目にする。
初めは一人でいるエリベルタを心配して共に行動していただけかもしれないが、今では令嬢の考えに感化されたように見える。
それでも、国民との対応と今までのように騎士への激励は忘れていない……というより、今まで以上に平民への処罰が厳罰化しているらしい。
「……あの二人、どうします? 」
遠くから様子を観察していたデルフィーナに声を掛ける。
「このままでは私達が卒業後、フィオレ様の立場が危ぶまれますわね」
「えぇ。最近では、フィオレ様もあの二人に委縮してしまってますからね」
以前までは年齢を気にすることはあっても、聖女候補としての考えなど意見を言えていたフィオレ。
最近では、発言する事もなく意見を尋ねても周囲の顔色を窺うようになってしまった。
「私達で出来ることはしないといけませんね……」
「……あの……デルフィーナ様……フローレンス様……司祭様が候補者全員集まるようにと……」
噂のフィオレは私達にも緊張するようになった。
以前のように戻るのは難しいかもしれない……
「分かったわ……あの二人には私から伝えるから、貴方は他の方に伝えて司祭様のところへは先に向かっていて」
「ありがとうございます」
デルフィーナの提案に安堵し、フィオレは小走りで去って行く。
デルフィーナと私でラヴィニアとエリベルタに伝え、四人で司祭の待つ部屋まで向かう。
「皆さん集まりましたね」
私達四人が最後だった様子。
「皆さんに報告があります。この度、新たな聖女候補が発見されました」
司祭の報告に絶句する。
新たな聖女候補……今年の聖女候補が教会で学ぶようになって既に十一ケ月。
この事実に私は不穏な気配を察する。
遅れて現れる聖女候補は今回で二回目……
爵位が高くても低くても波乱を呼ぶ。
「彼女は年齢で言えば、フローレンス・バルツァル様と一緒です」
私と……一緒……という事は七年……いや、もう八年弱遅れでの聖女候補発覚。
「……私と……同期……ですか? 」
てっきりエリベルタと同期だと思っていた。
「そうです。残り二年強ですが聖女候補として皆さんと共に明日から学んでいただきます。何度も言うようですが、教会内では爵位は関係ありませんので理解するように」
「……司祭様よろしいでしょうか? 」
この状況で質問するのはエリベルタ。
「今回聖女候補と発覚したのであれば、来年の聖女候補と一緒にした方が良いのではありませんか? 」
ブルネッラの時に思った私の疑問を躊躇うことなく口にするエリベルタ。
「……聖女認定の儀式で水晶になんらかの不具合があった、それはこちらの不手際です。今から九年間聖女候補となると彼女が卒業するのは二十六歳となります。それでは彼女の人生に大きく影響を与えてしまいます」
教会の言い分も分かる。
七年目にして能力が証明されても本人は困惑だろう。
しかも私と同じ年となれば、王子の有力な婚約者候補。
それらを考慮すれば、私と同じ時に卒業が好ましい。
七年の遅れというのはかなり厄介。
私だけでなく、候補者全員に関わる。
王子の婚約者に選ばれなかった時、『教会が適正に判断しなかったからだ。どう責任を取るつもりだっ』と訴えられる可能性があるだろう。
「……はぁ……七年遅れで発覚し、エリベルタの後輩でありながら先輩になり……下位貴族だったりしたら……」
嫌なのに、最悪な事を考えがとめどなく生まれる。
考えすぎかもしれないが、司祭の言葉も引っかかっる。
そんな事は考えたくない。
考えたくないが考えてしまう。
もしかしたら、遅れて発見されたのは子爵令嬢なのかもしれない。
そうなれば、エリベルタが今以上に候補者達を二分化させるだろう。
そうでないことを願わずにはいられず、私は神様に祈っていた。
「どうか、遅れて発見された聖女候補が下位令嬢ではありませんように」




