聖女候補六年目 個人として認めてくれた
「バルツァル公爵令嬢、お待ちしておりました」
コルテーゼ侯爵だけでなく、ルードヴィックに夫人も私を出迎えてくれた。
「本日はお招きいただき感謝いたします」
「いえ、私達こそバルツァル公爵令嬢の発見に感謝いたします。令嬢の発見をルードヴィックに聞いた時は信じられずにおりまして、その後調査し……」
「父さん、それは屋敷に入ってからの方が」
コルテーゼは興奮した様子で話を勧め、ここがまだ外だと忘れ息子のルードヴィックに落ち着くよう促される。
「あぁ、そうだな。バルツァル公爵令嬢、どうぞ中へ」
「はい」
コルテーゼは今まで私の事を『聖女候補様』と呼んでいた。
だが今回は『バルツァル公爵令嬢』と、私個人を認識したように聞こえる。
私の考えすぎかもしれない。
案内されているのは応接室だと分かる。
「バルツァル公爵令嬢、わざわざ領地までお越しいただき感謝いたします」
「いえ、こちらこそ令息に突拍子もない発言をしてしまったと思っております」
「いや、令嬢には大変感謝しております……」
使用人が紅茶とお菓子の準備を終えると応接室を退出。
部屋にはコルテーゼ侯爵、夫人、ルードヴィックと私の四人。
それ程、重要な会話という事が予想できる。
「……それで早速で申し訳ないが、令嬢の発見について報告させていただきます」
「はい」
「あの沼地に生息していた花は令嬢の仰る通り、ブルニーマ・クラウトだと証明された」
「やはり……」
「ブルニーマ・クラウトは昏睡状態の者を目覚めさせる伝説のような植物。実際発見されるとは思わなかった」
「俺も何度も見ていたが、まさかあの花が伝説の花とは全く思わなかった」
「ブルニーマ・クラウトは、昼は普通の白い花のつぼみで夜に開花しますからね。そして最終判断は満月の夜に光り輝く。確認するには、あの沼地を夜に訪れないといけませんものね」
「半信半疑と言いますかやはり確認するまでは信じられず、ルードヴィックと共に確認致しました。満月の夜」
「どうでした? 」
本物と聞いてもやはり、夜に光り輝く花と言うのは信じられない。
「光り輝いていた」
「そう……なんですね」
輝く花……一度見てみたい。
「ブルニーマ・クラウトはとても貴重な花。調査してから王族へ報告しようと思います。あの場所も我々が管理して行こうと思うので、バルツァル公爵令嬢からの報告は待ってほしいんです」
「私はコルテーゼ侯爵に従います」
「本当によろしいんですか? この発見は次世代の『聖女』に大きく影響するんですよ」
「構いません。貴重な花ですから報告するには慎重を期す必要があるのも分かります。私はコルテーゼ侯爵にお任せしたいと思います」
「……ありがとうございます」
「バルツァル公爵令嬢も、よくあの花がそうだと分かりましたね」
「偶然です。私、花壇で薬草を育てていまして、その栽培方法を調べる時に偶然目にしたのを覚えてただけです」
「今回発見できたのは令嬢の知識があってこそです。ありがとございます」
それからは紅茶を頂き夫人が中心となって和やかな雰囲気に。
「そうだ。フローレンス嬢、もうすぐ満月だが観に行ってみるか? 」
提案するのはルードヴィック。
「拝見したいですが……あの場所に私が行ってもよろしいんでしょうか? 」
「発見者なんだ、当然だろ。なっ父さん」
「あぁ、令嬢はいつでも歓迎だ」
「では、光り輝く瞬間を拝見したいです」
「それなら俺が案内する」
「ルードヴィック、護衛は当然だが注目は避けるように。今日は夕方から商会近くの宿に滞在する方が良いかもしれないな」
安易に懇願してしまったが、貴族が夜に移動するのは危険。
それに私達の行動で、あの花の存在が知られるのも困る。
「あの……ご迷惑でしたら……」
「いえ、迷惑ではありません。我が領地は安全ですが、用心に越したことはないですからね」
それからは夫人とお茶をしたりとのんびり過ごし、夕方ルードヴィックと宿に向かう。
「宿からあの場所までは十分程。夕食直後ではまだ時間が早いと思うから、一度部屋で休んでからの方が良いと思う」
「はい」
「フローレンス嬢、名前なんだが街中で『令嬢』と呼ぶと目を付けられてしまう。平民のように呼ぶが問題ないか? 」
「そうですね。名前は構いません。私は令息をなんとお呼びしたらいいでしょう? 」
「ルーイで」
「ルーイ様……様はおかしいでしょうか? 」
「そうだなルーイで。令嬢は何て呼んだらいい? 」
「私は愛称で呼ばれた事がないのですが……フローラ? ですかね?」
「分かった。それでは、フローラと呼ぶ。夕食は今の恰好でいいが、花を見に行く時は男の恰好でローブもあった方が良いだろう」
「分かりました、着替えておきます」
宿に到着し一息つくとルードヴィックが迎えに来る。
「食事に行こうと思う、準備は出来ているか? 」
「はい」
二人で宿で夕食を取り、食事についてや宿にについての会話をする。
会話内容で貴族と感づかれない為の配慮。
食事が終わるとルードヴィックは私を部屋まで送ってくれる。
「また呼びに来る。この階には護衛も宿泊しているが用心しろよ。もし外出したけれ俺の部屋は隣だから、遠慮なく来てくれ。絶対に一人で行動するなよ。それと扉を開ける時は気を付けろ。一応、扉開ける前のノックの回数を三・二・三とする。その後、俺が声かけるからそれを聞いてから扉を開けるように」
ルードヴィックは心配症と感じるが、貴族と疑われれば狙われるのは私。
令嬢が誘拐となれば噂は一気に広まる。
これは大げさではない。
「はい、ありがとうございます。ルーイが訪れるのを待ちます」
「あぁ」




