聖女候補六年目 穏やかな時間に訪れる
「折角の休みだけど、どこにも出かけられない」
ベネデッタとの一件から外出するのを躊躇してしまう。
偶然出くわすのも、私が外出したと噂になり周り回って彼女の耳に入るのが気になってしまう。
「公爵令嬢の私が子爵令嬢を気にするなんて……」
なるべく外出することなく気分転換が出来るものをしたい。
「あっそうだった。調べたいことあったんだ」
ルードヴィックに沼を案内された時に見た花。
あれは以前どこかの本に載っていた。
植物の本を全部部屋に集め調べることにした。
外出できない、余計なことも考えたくない。
集中力が増せば読書は彼女の事を忘れさせてくれる。
「ないな……どこかで見た気がするんだよな……あの花……」
白い花……
「似たような花は沢山あるんだけどな……」
植物の判断は難しい。
薬草だと思って採取すれば毒草だったりと、簡単に見分けられるものではない。
調べて調べて調べまくってしも、間違ってしまう時はある。
「これも違う……」
簡単には見つからない。
その方が有難かったりもする。
その後も聖女教育が休みの日は、植物図鑑をひたすら見た。
「ダメだ、分からない。花壇の手入れに行こう」
聖女候補に任命されて二年目だっただろうか、母から薬草の手入れをしてみたらどうかと言われたのは。
「今年も順調に……育ち過ぎてるね」
一年目に成功した薬草は零れ種からあっという間に増殖し、今では私が世話している花壇の一角だけ小さな森が出来ている。
手を抜いているわけではない。
世話をしているが、摘んでも摘んでも成長が早い。
お茶で飲んだり傷の手当てにいいと言われ実践しているが使いこなすのは難しく、料理人にソースにして大量消費してもらっている。
それでも季節によっては爆発的に増殖してしまう。
「新しい薬草育ててみようかなぁ……薬草? そうだ、薬草だ」
私は植物の本ばかり読んでいたが、以前調べていたのは薬草の本だ。
急いで部屋に戻り薬草の本を読み耽る。
「……あったぁ……ブルニーマ・クラウト……昏睡状態の患者を導く薬草。沼地に生息し月明かりで成長。満月の夜に採取すれば効能はより上がる。だが発見するのは難しく栽培も困難と言われ、成功した例はない……って、すごい薬草じゃない……」
これは領主への報告が必要な代物。
「急いでコルテーゼ侯爵に手紙を書かないと……あっ……」
コルテーゼ侯爵に伝えたいのだが、あの沼地はルードヴィックの秘密の場所。
報告すれば彼の安息の地を奪ってしまうことになる。
「侯爵じゃなく、ルードヴィックに伝えた方が良いわよね……」
ルードヴィックに手紙を差し出すと返事が届く。
彼なりにブルニーマ・クラウトを調べ沼地に咲く花と見比べると同一のものと判明。
彼から侯爵に報告し、私も現地で確認してほしいと連絡をもらう。
手紙をもらった翌日には司祭に許可をもらい、予定を組み翌月にコルテーゼの領地を目指す。




