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聖女候補六年目 化けの皮が剥がれた

 私は変わらずの日々を過ごしている。


「お嬢様……また届いております」


「また……」


「パラッチィ令嬢から三日に一度、招待状が届きますね」


「えぇ」


 教会での生活サイクルを知っている分、彼女の誘い方は強引。

 何度断っても諦めない彼女には圧倒されてばかり。


「どういたしますか? 」


「……断りの手紙を書くわ」


「畏まりました」


 あれから彼女の招待に参加していない。

 私が参加するお茶会やパーティーに彼女は招待されることが少ないので、彼女主催が最後。

 卒業していった候補者とは世間話で彼女の話題をさせてもらっている。

 先輩方にも動じることなく招待状を送り続けているらしい。

 笑い話のように語っているが、彼女の行動はこれだけでない。


「スカルノ様っ、お久しぶりです。どうです? 候補者達を先導していく立場となると大変ですよね? 私で良ければ相談に乗りますよ」

 

 教会の一般開放時間、特に聖女が現れる時間に何度も訪れる。

 卒業して教会にこんなに早く訪れたのは彼女が初めて。

 スカルノは確かにベネデッタより年下ではあるが、爵位はスカルノは伯爵令嬢だ。

 聖女候補は共に学ぶ者として教会では身分関係ないと教わるが、卒業してからは社交界のルールで生きるべきではないだろうか?

  

「デルフィーナ様に、フローレンス様っこんにちはっ。」


 見つかってしまった……


「お久しぶりでございます」

「お久しぶりでございます」


「もうっ二人共、そんな堅苦しいのやめてよ。私達聖女候補で友達なんだから」


 いつから私は彼女の友達になったのだろうか?


「三人に招待状を送ったのですが、手違いで欠席の連絡が来ましたの。なので確認の為に伺いました。その日は教会での奉仕はありませんので間違いですよね? ご参加でよろしいですよね? 」


 断りの手紙を出したのに直接訪れては手紙の意味がないのではないか?


「申し訳ありませんが、欠席に間違いありませんわ」


「どうしてですの? 」


 スカルノが断るも、ベネデッタも諦める様子がない。


「どうしてと言われましても……」


 まずい。

 ベネデッタの非常識さにスカルノは困惑し、このままでは強引に押し切られてしまいそう。


「ベネデッタ様、よろしいでしょうか? 」


 見兼ねた状況に助け舟を……ではなく、万が一スカルノが折れてしまうと私まで巻き添えになってしまうからだ。


「あっ、フローレンス様は間違いですよね? 」


「私も間違いではありません」


「どうして私のお茶会を欠席なさるのですか? 私、友人の三人を招待すると他の招待客に話してしまいましたの。私を嘘つきになんてされませんよね? 」


 勝手に人の名前を利用して、他貴族の方を招待しないでもらいたい。

 彼女はここまで貴族として礼儀を弁えていなかったのか……


「……ベネデッタ様もご存じとは思いますが、今回聖女候補が誕生しませんでした」


「そうみたいね」


「その為、私達聖女候補は七名で全ての仕事を補っております。祈りに掃除・訪問者への挨拶、更には各教会への挨拶に支援活動など。ベネデッタ様がいらっしゃった時より時間の余裕がありません。ですので、お断りさせていただきました」


 私の断りにスカルノも頷く。

 私達はこれでどうにか呆れめてくれないか祈る。


「あら? そうなの? 他の皆さんは参加させてほしいと返事がきたけど……」


「え? 」


 断った私達は彼女の言う《《他》》を探すと後輩達の困惑した表情を見せる。


「その……今回は……卒業された聖女候補の皆さんとの交流を深める為に開催するとありまして……現聖女候補の皆様を全員ご招待とありました……」


「私にもです。卒業された聖女候補様を紹介してくださるとありましたし……」


「……断ったら失礼に当たると思い……ました」


「はぃ」


 後輩達には先輩という餌で参加をもぎ取ったらしい。

 だが、ベネデッタの婚約パーティーを思い出せば、卒業した候補者は彼女のお茶会に参加するとは思えない。

 招待状の返事が来る前に後輩達にその様な手紙を出したに違いない。


「後輩の皆さんは貴方に気を使って『参加』すると返事をしたんです」


「なら皆さんも私の為に参加してください」


「……ベネデッタ様。先程も言いましたが、聖女候補の人数が不足しております。先輩である貴方が後輩を気遣ってください」


 彼女はようやく静かになった。


「貴方達も今は大変な時期であることは、国民には伝えられなくとも卒業生であれば理解してくれる。体力的にも精神的にも難しい時は、正直に言って断りなさい」


 私は後輩達に強制参加のベネデッタのお茶会に断る選択肢を与えた。


「はい……ベネデッタ様、今回のお茶会は残念ですが遠慮させていただきます」


「私も、今は聖女候補の能力が以前より低下しているのを実感しております。ですので今回の参加は撤回させていただきます」


「私も余裕はなく、今回は欠席させていただきます」


「私も招待していただき大変光栄に思っておりましたが、今回は欠席させていただきます」


 後輩全員が断った。

 ベネデッタは気が付いているのだろうか?

 フィオレは子爵令嬢だが、他の三人は侯爵令嬢と伯爵令嬢。

 高位貴族に謝罪させているという事を……

 お願いだから理解してほしい。


「ですのでお茶会は残念ですがお断りさせていただきま……」


「ではっ私が卒業生として、その週は祈りに来るのはどうかしら? 掃除も挨拶も問題ないわ」


 問題ありありです。

 どうしたらそのような考えに辿り着くのか……

 はっきりと宣言したい。

 『貴方と距離を置きたくてお断りしているんですぅぅぅぅ』と……

 叫んでもいいだろうか。

 今後、この調子で教会に居座られたら堪ったものではない。


「ベネデッタ様、そのような前例はありません」


「前例はなければ作ればいいんですよ。司祭様にお願いしてください。お二人は高位貴族ではありませんか? 」


 ここで彼女は爵位を持ち出す。


「……ベネデッタ様、それでは候補者の育成にはなりません。何かあれば卒業生を頼るのを覚えては、能力を高めようという意識が欠如してしまいます」


「そんな事無いわよね? 」


 彼女の『先輩』という立場が邪魔して、候補者達は断っていいのか困惑している。

 一度招待されたお茶会を参加と表明しておきながら断っているので、再び断るのが心苦しいのかもしれない。


「ベネデッタ様、そんな事をされては私達は能力不足だと宣言するようなもの。私達の名誉を傷付けたいのですか? 」


「わっ私はそんなつもりではなく……友達が困っているんですもの、助けたいって思ってはいけないの? 」


「私達は誇りをもって聖女候補をしております。陰で私達以外の者が祈っていたと知られた時、信用は失われます。それが卒業された聖女候補だったとしてもです」


「……そんな重く捉えなくても……私は卒業したばかりだし、聖女候補も現れていないんだもの……結界が崩れるよりかはいいと思うのだけど……」


「その真実が広まり来年もまた候補者が現れなかった時、国民がどう思うか考えたことはありますか? 」


「どうって……別に。今年もいないのかぁ……くらいじゃない? 」


「聖女候補が現れず陰で卒業生達が祈っていたとなれば、国民は不安を覚えます。それが二年も続けば今後もそうなのではないかと疑心暗鬼になり、大丈夫なのかと教会に詰め寄ります。その対応に時間を割かれ、更に祈りの時間が減れば負の連鎖が始まるんです。ですので、教会や王族からの依頼がない限り安易に『私も一緒に祈ります』等と仰らないでいただきたい。貴方はここを卒業されたんです。後輩達の仕事を奪わないでください」


「……そこまで言うなら、分かったわよ」


 ようやくベネデッタは諦めて去って行く。


「フローレンス様、ありがとう。本来は私が明確に断らなければならなかったのに」


「私も彼女に圧倒され、言葉が出てきませんでした」


「いえ。こういう時は助け合いだと思います。それに一度了承してしまったら、二度目も有無を言わせずお茶会に呼ばれそうですからね」


「「「「えっ」」」」


 了承してしまった後輩達は、一度だけ参加すればいいだろうと安易に考えていた。

 あれが一度で終わるとは到底思えない。

 寧ろ、今後も彼女の承認欲求を満たす為に利用され続けるだろう。

 後輩達に私とスカルノ、デルフィーナが頷くと全員が表情を引き攣らせる。


「ベネデッタ・パラッチィ……聖女候補の中で一番厄介な人物だったのね」


「私はあんな先輩にはならないわ」


「あれには……なれないと思う……」


 嵐が過ぎ去り静けさに安堵。

 六年目にして、スカルノとデルフィーナと距離を縮められた気がする。

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