聖女候補五年目 秘密の場所
ルードヴィックとどこへ行っても女性からの視線を感じ少し疲れてしまった。
「少し遠いが、もう一箇所寄りたいんだが大丈夫か? 」
「はい、まだまだ体力ありますよ」
「そうか」
馬車に乗り、どこへ行くのか質問してもはぐらかされる。
観光地から離れ、町から自然の多い風景へと変化していく。
「到着した」
「……はい」
彼が先に降り、エスコートを受けながら周囲を確認する。
森にしか見えず、ここが彼の訪れたかった場所なのか疑問を抱いてしまう。
「転ばないようこのまま行くぞ」
「はい」
彼の腕に掴まったまま、森の中を進んでいく。
目的があるのだろうが、私にはその目的が想像もつかない。
「……到着」
疑うわけではないが、彼を信じていいのか不安が生れる。
ここで何か犯罪的な事が起きたら私は逃げられないと感じていたので、せめて御者に助けを求める為にも大声を出す準備はしていた。
「ここは……池ですか? 」
「いや、沼だ」
「沼? ……綺麗……」
沼を直接見たのは初めてだ。
私の想像では沼と言うのは濁っていて匂いも酷く、落ちてしまったら這い上がれないものを想像していた。
だが目の前の沼は、透き通っているというか空の色を反射し匂いもなくとても綺麗な光景。
「一人になりたい時や、静かな場所を求める時にここへ来るんだ」
「そんな大切な場所を私に知られて良いんですか? 」
「あぁ」
確かに静かで、一人きりに成れる場所だ。
コルテーゼの領地は栄えているので、どこにいても人の往来がある。
人目を惹く容姿を持つ彼にとっては、たまにそれが辛い事もあるのかもしれない。
今日一日彼の隣を歩いたが、常に視線を感じていた。
この場所へは静かな場所を求める時に訪れるというので、ここで会話を続けるべきなのか悩むも彼が遠くを見つめていたので私は存在を消すことにした。
「……あっ……あの花は……」
「あぁ、あれか。領地を見渡しても、この沼地でしか見たことがない珍しい花だ」
「……どこかで見たような……」
「そうなのか? 」
あの花はどこで見たような気がするか、思い出せない。
薬草の本を読み漁っていた時に見たのかもしれない。
王都に戻ったら、もう一度確認してみよう。
「……風も冷たくなってきたな、そろそろ戻るか? 」
彼の言葉通り、陽が欠けると風が冷たい。
「そうですね」
彼のお気に入りの場所と領地を案内され、完全に暗くなる前に一度二人で教会に顔を出した。
「お帰りなさいませ、領地はどうでしたか? 」
「とても興味深い経験をさせていただきました。賑やかなのに治安もよく、大変居心地が良い領地ですね」
「それは良かった。領主様も安心ですね」
司祭との会話を終え再びコルテーゼの屋敷に。
「興味深い経験……ね……」
馬車の中でルードヴィックは、私の言葉に裏の意味を勝手に勘ぐっていた。
「何ですか? 」
「……いえ、何でもありませんよ」
ルードヴィックは第一印象とは違い、なんだか子供っぽい人に変貌していく。
それからコルテーゼの屋敷に到着し、夕食を頂き休んだ。
そして翌日には王都に戻る。
「聖女候補様、またお待ちしております」
「聖女候補様、またいらしてくださいね」
「フローレンス嬢。いずれ、また」
「大変お世話になりました。ありがとうございます。では……また……」
コルテーゼ侯爵家の方達に見送られ私は王都を目指す。




