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聖女候補五年目 各地の教会を訪問

「バルツァル公爵令嬢、外が……」


 祈りを終え水晶の手入れをしている途中、司祭が慌てた様子で現れる。

 集中するあまり時間を忘れ、彼の様子でコルテーゼに助言された言葉を思いだす。

 

「もしかして……」


「はい、雨が勢いよく降り出しました」


「……分かりました」


 水晶の手入れには丸一日要するものや一時間程のものが多く、私は最短で終わる燻煙の方法を使用した。

 それでも、天候には間に合わず。

 手入れを途中で終わらせるわけにもいかず、私は続行。


「ふぅ……終わった」


 水晶を戻し祈りの場の扉を開けると、外を確認せずとも雨音で判断出来た。


「今日は……帰れそうにないわね……」


 まだ三時だというのに周囲は薄暗く、この雨が通り雨ではないと判断出来る。

 

「バルツァル公爵令嬢」


「コルテーゼ侯爵様、どうされたのですか? 」


 コルテーゼとは挨拶した後、領地の見回りに教会を去っていた。

 そんな彼が再び訪れた。


「教会の前を通った際、バルツァル公爵家の馬車があるのが見えたので立ち寄ったのです」


「折角コルテーゼ侯爵様に天候について伺っていたのに……」


「いえ、私の予想より早く天候が変化しましたからね。寧ろ帰っていた方が危険だったかもしれず、こうして確認に参りました。それより、今日はどうされるのですか?」


「まだ決めておりませんが、この辺りの宿に泊まるつもりです」


「我が家に宿泊されてはいかがですか? 」


「侯爵様のお屋敷にですか? ご迷惑をおかけするわけにはいきません」


「いえ、問題ありませんよ」


「……では、お世話になりたいと思います」


 司祭に本日はコルテーゼの屋敷に宿泊する事を告げる。


「雨が少し弱まりましたね。今のうちに向かいましょう」


「はい」

 

 雨脚が弱まった隙に馬車で向かう。

 教会からコルテーゼの屋敷までは遠くは無いが、雨で石畳が滑るのを懸念しゆっくり走っている。

 急な天候変化で気温も一気に下がり、準備不足の為馬車内は肌寒い。

 

「これをどうぞ」


 コルテーゼは自身の上着を私に差し出す。


「それでは侯爵様が……」


「私はこの地に慣れていますから」


「そうなのですか? ありがとうございます」


 私はコルテーゼの上着を受け取り羽織る。

 聖女の衣装は清廉さと動きやすさを重視しているため、とても寒さを凌げる物ではないので彼の優しさは温かかった。

 しばらく馬車は知ったので我慢せずに借りて良かったと同時に、本当に彼は平気だったのか心配になる。


「到着いたしました」


 何度か彼に『寒くありませんか? 』と尋ねようとしたが、言葉を飲み込んでしまった。 

 外から合図があり到着した事に安堵し彼が鍵を解く。

 御者により扉を開かれ、降車する。


「お気を付けください」


「はい」


 馬車から降りると傘を持ったコルテーゼの姿を確認する。


「令嬢……」


「ありがとうございます」


 コルテーゼのエスコートを受けながら急いで屋敷に向かう。

 

「旦那様」

 

 待ち構えていた執事はコルテーゼが雨に濡れて帰宅すると予見し、タオルを手にいていた。


「こちら、聖女候補のバルツァル公爵令嬢だ。本日、我が家に招待した。すぐに客室と令嬢の着替えを頼む。」


「畏まりました。バルツァル公爵令嬢様のご案内を」


 執事は共にコルテーゼの帰りを待っていた使用人に指示を出す。


「バルツァル公爵令嬢、これを」


 コルテーゼは先程執事から受け取ったタオルを私に差し出す。


「ありがとうございます……ですが侯爵様の方が……」


 雨に濡れないよう傘は私に傾けてくれていた為、コルテーゼの肩の方がびっしょりと濡れている。


「私の事は気にする必要はない。それよりあなたの方が心配です、受け取ってください」


 このやり取りに時間を掛けるのもどうかと思い、タオルを受け取る。


「ありがとうございます」


「バルツァル公爵令嬢様、ご案内させていただきます」


 使用人の案内で客室へ向かう。

 部屋に到着すれば、着替えを持った使用人が現れとても手際が良く部屋の暖炉も灯っていた。

 使用人の手伝いを借り、着替えをする。


「食事の準備が整いました」


 突然の私の訪問にも拘らず、侯爵家の対応は速やかで隙が無い。


「はい」


 私の準備も終えると、食堂へ案内される。

 部屋にはコルテーゼとおそらくだが、夫人と息子の姿がある。

 夫人は新緑色の髪と瞳の持主で、ルードヴィックはコルテーゼ譲りの漆黒の髪と瞳の持主だ。


「侯爵様、着替えをありがとうございます」


「いや、似合っていて良かった。二人を紹介したい、こちらに座ってくれ」


「はい」


「バルツァル公爵令嬢、私の妻と息子だ」


「私はドルフォーネの妻、ビアンカ・コルテーゼと申します。聖女候補様にお会いできて嬉しいわ」


「俺はルードヴィック・コルテーゼと申します。我が領地への訪問ありがとうございます」


 夫人もルードヴィックもとても好意的なように感じる。


「私はフローレンス・バルツァルと申します。聖女候補五年目となり、今は各地の教会を訪問中です。急な天候の変化により困惑していた処、侯爵様のご厚意に感謝いたします」


 自己紹介を終え、食事を始める。

 終始、和やかな雰囲気。

 夫人は、優しく微笑む朗らかな人という印象。

 ルードヴィックの方は、魅惑的な雰囲気を纏い社交界では令嬢に人気と聞く。

 確か、彼には婚約者がいない。

 私と彼は五歳違う。

 十五歳の私からすると、二十歳のルードヴィックはとても大人で魅力的に映る。


「本日はとても楽しい食事だった」


 コルテーゼ侯爵家との食事を終え、用意された客室へ戻ると雨は先程とは比べ物にならない程強くなっていた。

 コルテーゼの助言が無ければ私は酷い豪雨の中、王都へ戻っていただろう。

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