聖女候補五年目 卒業に対して誕生が……
聖女候補五年目。
今年は聖女候補が三名卒業する。
「聖女候補、コンチェッタ・サバティーニ。貴方は……」
「聖女候補、クロリンダ・ピザーノ。貴方は……」
「聖女候補、カルメーラ・プレスティ。貴方は……」
三人が卒業という事が不安で、司祭の言葉が耳を通り過ぎていく。
「皆さんに報告があります。今年は聖女候補を一名確認致しました」
今年の儀式で誕生した聖女候補は一人。
結局、いくら待っても前年度の聖女候補は誕生せず。
なので現在、教会には八人の聖女候補しかいない。
「せっ聖女候補になりました……フィオレ・クレパルディと申します。み……皆様にご迷惑をおかけしないよう努力します」
彼女は子爵令嬢。
下位貴族の令嬢がいない訳ではないが、最近は高位貴族が多かった。
新たな聖女候補となった彼女は年下という事と、私達の爵位に緊張している。
同じ聖女候補として『爵位は関係ない』と司祭から教えられても、貴族として教育を受けている者には直ぐに受け入れられるものでもない。
ゆっくりの慣れてくれたらと思う。
「祈りの時間……増えましたね」
誰もが思っていたが、口に出せずにいた言葉だ。
「す……すみません。私の能力が足りず……」
カルメーラの言葉にフィオレが申し訳なさそうに告げる。
「あっ、違うの。フィオレ様を責めているわけではないの」
自身の言葉が足らなかった事と、年下を傷付けてしまった事にカルメーラは慌てて否定する。
「フィオレ様の能力は平均的よ。フィオレ様と入れ替わるように卒業された方が三人いたの。それに聖女候補が誕生しない年もあって、今は明らかな人数不足なの」
フィオレを慰めるわけではなく現実だとしても、認めたくなかった。
不安は口に出してしまうと、気付いていなかった人にも伝染してしまう。
唯一の救いは、私達の不安が国民にはまだ知られていないこと。
「今年は聖女様誕生したのね」
「良かったわぁ」
「ありがたや。ありがたや」
聖女候補の誕生を純粋に喜んでくれていた。
前年度より訪問する回数は減少したが、私は去年から初めた教会訪問も続けている。
「聖女候補様、本日はこのような場所までありがとうございます」
今回訪れた教会は王都から離れてはいるが、手入れが行き届いている。
領地も栄、領民も穏やかな人が多い。
産業や観光地としても盛んで、自然豊かな土地。
「本日は訪問を受け入れて頂きありがとうございます」
司祭に怪しい動きもなく、見習いも感じがいい。
今回の教会は支援は受け入れるも、切迫した状況にある教会ではなかった。
「後ほど、領主であるコルテーゼ侯爵も聖女候補様にご挨拶したいとありました」
「承知しました」
教会を案内され、修繕箇所もなく掃除も行き届いている。
訪れる人達も信仰心が強く、教会が領民達の心の支えであるのが伝わり気持ちがいい。
「以前はピニャータ令嬢が訪問してくださいました」
「はい、私もピニャータ様のようになりたく精進している最中です」
私が訪れた場所の多くは、聖女候補時代にピニャータが訪れた場所だ。
寧ろ、ピニャータが訪れていない場所の訪問はまだない。
残りの三年で私がどれだけ訪問できるのか……
「バルツァル公爵令嬢、領主のコルテーゼ侯爵が到着されました」
「はい」
応接室へ移動。
「コルテーゼ侯爵様、お待たせいたしました」
私達が応接室に到着すると既に、コルテーゼの姿を確認。
「いや。私の方が遅れてしまいました。聖女候補様、本日は我が領地までご足労頂きありがとうございます。私が領主のドルフォーネ・コルテーゼと申します」
「コルテーゼ侯爵様、本日は訪問を許可して頂きありがとうございます。フローレンス・バルツァルと申します。聖女候補五年目となり、各地の教会を学ばせていただいております」
「お若いのに確りしておりますね」
「いえ、私はまだまだ候補者です」
「聖女候補様はすぐに王都にお戻りのご予定ですか? 」
「案内をして頂きましたので、祈りと水晶の手入れが出来ましたら戻る予定です」
「そうですか。では、早めに出発する事をお勧め致します」
「それは……」
「この後、天気が崩れるかと。この地域は天気が変わりやすく、一度雨になると馬車の走行は不慣れな者には危険な道です」
「そうなんですね。教えて頂きありがとうございます」




