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聖女候補四年目 聖女候補として……

「司祭様。お話があります、お時間をよろしいでしょうか? 」


「はい、どうぞ」


 司祭の部屋で二人きりとなった。


「私も四年目となり、各地の教会というのを訪問してみたいのですがよろしいでしょうか? 」


 教会の訪問は卒業した候補者達が行っていた事。

 私も今後、各地の教会というのを知っておきたかった。

 これは聖女候補達の行動を逐一報告した結果、母からの提案でもある。


『オルダーニ令嬢のように過去の情報から今後の対策を提案するのは難しいから、ピニャータ令嬢のように各教会を訪問し貴方の存在を知らしめるのよ』


 母の言葉が無かったとしても、私は各教会を訪問したいと思っていた。

 絵本の聖女様は、旅の途中で運命の人に出会っていた。


「構いませんよ。各教会で祈りを忘れなければ、問題ありません」


「はい、祈ることは忘れません」


 司祭の許可を得る事に成功。

 聖女候補四年目の私の新たな活動は、各地の教会を訪問する事。

 他の候補者達も既に卒業された先輩達を受け継ぐように、各々行動している。

 一年目・二年目の候補者は教会での聖女教育に慣れるのに必死で、三年目から己が何をするべきなのかを見つめ先輩達の姿を思い出す。

 そして、四年目に自身の出来る事を実行する。

 大体のものがそうしている。


「聖女候補様。本日の訪問、お待ちしておりました」


 王都や父の領地にある教会から始まり、少しづつ遠い場所を訪問していく。

 

「訪問を許可して頂きありがとうございます」


 聖女候補の訪問は好意的に受け入れられる。

 教会の運営も王族の支援や貴族の寄付で成り立っているからだ。

 

「我が教会は辺境という事もあり、なかなか支援も受けられず……」


 運営が困難な教会からは切実に現状を訴えられる。


「私にできる事は大教会に相談し、その後王族へ報告をするだけです」


「えぇ、分かっております。報告して頂けるだけでありがたい事です」


「支援して頂けるかは王族の判断です」


「私の方もバルツァル公爵令嬢が次期聖女に相応しい方だとお話させていただきます」


 支援を受けた時、『恩を返したい』『恩を返して欲しい』と思うのが人だ。

 その中に良からぬ感情が混ざっている事もある。

 王族からの支援を教会には使用せず、着服してしまう者も……

 私は自身の目で見たことを詳細に大教会に報告。

 その後……

 

「聖女候補様。この度はありがとうございました」


「いえ。私は事実を報告しただけで、全ての判断は王族と動いてくださった官僚・王宮騎士団の方です」


 以前対応してくれた現地の司祭は騎士団に連行された。

 私の報告書から司祭の行動は着服と判断され、調査の結果関与したとされる見習い数名も教会を去った。

 目の前にいる彼は騎士団の調査の結果、関与していないと身の潔白が証明された者。


「私は司祭の不正に薄々気が付いていました……ですが、何も出来ず……今日まで……」


「貴方の立場で司祭の不正を告発するのは難しかったと思います。その事は王族も騎士の方も理解しております。貴方が関与していなくて本当に良かったです」


「私は……」


 彼は犯罪に関与していなかった。

 ただ、立場上司祭の不正を告発するのを躊躇い誰にも相談できずに一人悩んでいた。

 私が訪問し挨拶を交わした時、何をかを訴えるような眼をしていたのが精いっぱいだった様子。

 私もその時は気が付かなかったが、彼の弟と名乗る少年が『お兄ちゃんを助けて』と私の乗車する馬車の前に飛び出してきたのだ。

 話を聞き、何度か訪問し些細な噂を耳にした。

 私には調査能力は無かったので、司祭に相談しながら証拠を一つずつ集めていき王族へ報告。

 半年以上の時間を掛けた。

 それまでの間、彼は一人苦しみ続けていた。

 正しい人間が苦しむのは許せない。


「もし何かあれば大教会に手紙を送ってください。私が不在だったとしても、ゴルドーニ司祭なら親身になって相談に乗ってくれます。信頼できる方です、これからは一人で苦しまないでください」


「……ありがとうございます」


 涙ながらに語る彼の姿から、ずっと苦しんでいたのが伝わる。

 その後も私は各地の教会訪問を続けた。


「聖女様。このような辺境までありがとうございます」


 全ての教会がそうであるわけではないが、支援を必要とする教会は見極めなければならない。

 偏見ではないが、辺境という場所の教会が支援を受けると王族が頻繁には視察に来ないのをいい事に道を踏み外すこともある。

 王族から依頼を受けたわけではないが、教会が正しくあるよう報告するのも聖女候補の役割なのかもしれないと今では思っている。

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