・第四話
どおん……!!
どおん……!!
と。
教室が。
否。
校舎全体が、立て続けに激しく揺れる。周囲からは相変わらず沢山の悲鳴や、走り回る足音が聞こえていた、誰かが何かを叫んでいるのも聞こえたけれど、何を言っているのかはほとんど聞き取れない。
楼蘭はその中で、ただ目をぎゅっと閉じて机の下に隠れていた。
どうすれば良いのか。
自分に、何が出来るのか。
楼蘭にはそれが解らない。
目を閉じているせいで、目の前には真っ暗な闇が広がっている、その闇の中で、楼蘭の頭の中に浮かんで来るのは、あの日聞いた父の声だけ、これだけの騒ぎの中だというのに、その声だけは、奇妙にはっきりと楼蘭の耳の奥で、ずっと響いていた。
『楼蘭はもうダメだ』
ダメだ。
そうだ。
自分は……
自分は、所詮……ダメな人間なのだ。この状況で、何をどうすれば良いのか、全く解らない。
そんな、ダメな人間。
そんな奴が、この状況で何を……
何を、しようと言うんだ?
楼蘭は、自嘲めいた笑みと共に、そんな事を考えた。
ガシャーンッ!!
大きな音が響く。
ガラスが割れる音だ。窓のガラスが割れたらしい、近くにいた生徒達が悲鳴を上げるのが聞こえた、ガタガタと音がして、今になってようやく何人かが机の下に潜り始める。
バーンッ!! と大きな音が、楼蘭の頭のすぐ上で聞こえた、どうやら蛍光灯が落ちて来たらしい、あのまま机に座っていたら、きっと頭に直撃していただろう。
どう、と誰かが倒れる音が、すぐ近くで聞こえた。
「……っ」
楼蘭は息を呑む。
まさか……
胸の中に、嫌な予感が去来する、蛍光灯は、何も天井にただ一つ、という訳じゃない。
たまたま、今落ちて来た蛍光灯は、自分の机の上に落ちて割れたようだが……
まさか……
それ以外は……?
楼蘭はぎゅっ、と目を閉じた。
倒れたのが誰なのかは、解らない。
そもそも本当に、蛍光灯が当たったのかどうかだって、はっきりとしていない。
だけど……
どうして……?
どうして、こんな事に……?
楼蘭は、思った。
頭に浮かぶのは、この揺れが起きる直前に聞こえた、あの……
あの不可思議な声。
まさか……
まさか、あの声の主の仕業なのか?
だとしたら……
だとしたら……
楼蘭は、ぎゅっ、と。
ぎゅっ、と、拳を握りしめていた。
やがて。
激しかった揺れも、ゆっくりと。
けれど、確実に小さくなり始めていた。
そして……
完全に、揺れが止まる。
がた、と。
完全に、静寂が訪れた教室の中で、微かな音が響いた。机が動く音だ、何の音なのかは考える間でも無い、誰かが机の下から這い出したのだ。
楼蘭も、それに合わせてゆっくりと机の下から這い出した。
何が、起きたのか。
何が、起きようとしているのか。
そして……
自分に、何が出来るのか。
それは、今の楼蘭には何も解らない。
だけど……
このまま、ずっと机の下に潜っている事は出来ない。
そう、思った。