・第十三話
「おお!!」
「……っ」
楼蘭が口を開きかけた時だった。
いきなり声が響き、全員がびくっと肩を震わせてそちらを振り向く。
そこに、一人の男が立っていた。豊かな白い髭を蓄えた、背の高い老人。赤いマントを身に纏い、頭には金色に輝く王冠を被っている。先端に宝石が付けられた杖を持ち、床に杖を付いている。ファンタジーの物語に登場する『王様』そのものという風貌の男だった。
その目がこちらに向けられている、その顔はどう見ても日本人では無く、肌の色は白く、目の色は青い色だ。一体……何処からこの教室に入って来たのか?
否。
それ以前に……
この老人は、いつからここに……?
「おお!!」
老人が声をあげる。その口調と表情は驚いたものだったけれど、その大声に全員が身体を震わせた。ただ一人……楼蘭だけが黙ってその場に佇んでいた。
「おお!!」
老人。
否。
『王様』がまた驚いた様に声をあげた。
「……おい、爺さん」
苛ついた口調で、頼恭がゆっくりと前に進み出る。
「何騒いでんだよ? 一体ここは何処なんだよ?」
頼恭が荒々しい足取りで老人に近づいて行く。だが老人は嬉しそうにもう一度叫ぶ。
「おお、勇者よ!!」
「は?」
その言葉に、頼恭は眉を寄せる。
「良くやってくれた、我らを苦しめる『魔王』の手先をこんなにも簡単に倒すとは、そなた達を選んだ私の目に、狂いは無かったようだ」
「はあ……?」
頼恭は小さい声で呆れた様に言う。
「その強さを見込んで、どうかそなた達にお願いしたい事が……」
「おい、だから……」
頼恭が言う。
「どうか、この世界を……」
「だから人の話を……」
語り続ける老人を、頼恭が怒鳴り付ける。
だが。
「無駄だよ」
楼蘭が頼恭の肩に手を置いて言う。
「こいつは……」
楼蘭はじっとその老人……『王』の顔を見る。
「単なる『NPC』の『メッセンジャー』だ」
楼蘭ははっきりとした口調で言う。
「お前……」
頼恭が言いかけるが、楼蘭は何も言わず、黙ってそいつの顔を見ていた。
「こいつはこの『ゲーム』の……」
楼蘭が言いかけた時だった。
「おお!!」
またしても『王』が声をあげる。だが……その口調は明らかに今までと異なっていた。さっきまでは太い男性の声だったのに、今は何処か……
何処か、甲高い。
楼蘭も、違和感を感じたのだろう、そちらを見た。
『王』がこちらを見ていた。
だがその表情が……明らかに違っている。さっきまでは真面目な表情だったはずなのに。
否。
そもそもこの『王』の表情が、こんな風に……人間の様に表情を変えるのはあり得ない、こいつは単なる『メッセンジャー』のはずだ。それに今の声も明らかにおかしい、こいつの声は、きちんと声優が喋っているはずなのに、今の甲高い声は一体……
楼蘭がそういう事を考えている間に、『王』の言葉が続く。
「おお、勇者よー」
その声は、明らかに先ほどまでとは違う、こちらを完全にバカにした様な言い方だ。
「お前……誰だ?」
楼蘭が問いかける。
だがそれに答えず、そいつは『王』の姿のままで言う。
「おおー、勇者よー!! あんなしょーもない『敵』に、随分と手こずったようじゃのうー」
くくく。
くくくくく、と。
そいつが笑う。
「そんな事ではこの先、生き残る事など出来ぬぞー? どうするのかなー?」
小馬鹿にしたように笑った瞬間。そいつの姿が変貌する。
次の瞬間。
そこに立っていたのは、薄汚れたフードを被った小柄な人物だった。




