少年と絹と家族と、、、友達?
「、、、シルキー、この薪運ぶの手伝って、、、」
火の妖精があんな事を唐突にいうものだから、とりあえずはやる心を抑え、そして両親に褒めてもらうために僕は運んできた数本の薪を持ち上げようとしたのだが、僕の細い腕の力では薪は、ズズズッと音を立てながら移動はするものの、それだけだった。そういえばさっきまでは土の、もとい土の妖精が力を貸してくれていたから軽々と運べていたが、さっきの騒動でみんな姿を隠してしまった。おそらくその時に力が切れたんだろう
『ン』
僕が白旗を上げて声をかけたので、シルキーがすすすっと近づき薪の束をヒョイッと浮かび上がらせる。僕はさっきみたいに、いちいちみんなと約束事を取りつけないといけないが、シルキーにはそんな必要もなく魔法を使った。そのあと僕の頭をぽんっと撫でる余裕ぶりである。僕には姉は居ないけど、シルキーは僕よりも頭一つ半くらい背が高いので、撫でられる度、姉がいたらこんな感じかなぁなんて思ってしまう。シルキーはそのまま薪を入れる暖炉の前まで移動して薪を入れサッと手を振る。すると、まるで木から出てくるように火が現れて、燃え始めた。パチッパチッと木を燃やした時によく聞く音が鳴り始め、そして空気が暖かくなっていく。僕も暖炉の前まで移動して、手を前に出した。
「ふぅぅ、、、あったかぁ」
『ン〜♪』
思わず2人揃って声が出てしまうが、これもいつものことである。それはそうと、
「あ〜あ、今日こそ行けると思ったんだけどなぁ」
『ン、ン』
「いやぁ、僕だってもう数えて8つだし、男だし、、、」
『ン、、、ンン』
何にも言えなかった。スッとシルキーが僕の背後に移動して、首から腕を通して抱きしめてくれる。励ましてくれているらしい。嬉しいやら情けないやらあるが、何よりその行動が嬉しくってあったかくなる。僕は気持ちを切り替えると、シルキーの腕から抜け出して、調理場へ。『熱を奪う』魔術のかかった食材入れをさっと開け、中からミルクの入ったビンを取り出す。コップを持ってきてミルクを注いでからビンを戻し、コップを持って暖炉の前に戻ってきた。シルキーが心なしか嬉しそうにこちらを見ている。暖炉の前に少し置き、待つ。もういいかな
「はい、シルキー。いつもありがとうね!」
『ンッ!』
ミルクを受け取ったシルキーが、満面の笑みを浮かべる。
そう言って、温まったミルクを渡す。これが報酬、この家で僕をいつも助けてくれている屋敷妖精へ払う対価である。というのもシルキーは、着る物も食べ物も受け取らない。シルキーにとってそれは恥になる行為である。唯一ミルクだけが、シルキーが受け取ってくれる報酬だった。嬉しそうにミルクを飲んでいる彼女を見ていると、この家に来たばかりの彼女は想像できない。そこまで考えて僕は考えるのを辞めた。それ以上は、彼女が嫌がると思ったから。
その男、少年の父ユーゴは、何に促されるでもなく目を覚ました。そしてふと隣を見ると、子供1人分が入りそうな間を開けて、妻アンリが眠っているのを見た。
(アルトは、もう起きてしまっているのか)
そしてフフッと苦笑を浮かべる。子供のうちは、自分も早くに目が覚めることが多々あったが、いざ居るはずの我が子が目の前に居ないと、分かっていても一瞬驚いてしまう。それほど自分は、アルトのことが大事なんだろうな、とユーゴは思ってしまう。そしてユーゴはアンリの肩を揺さぶりながら声をかけた。
「アンリさん、起きて。」
「んっ、、、うぅん」
どうやらアンリも意識は浮上していたらしくすぐに反応が返ってきた。そしてユーゴもよっこいせと言いながら布団から出る。しかし、予想していたよりも寒気が少なかったので、首を傾げた。
(ふだんならまだもう少し寒いと思うが、、、、ああ、今日はあの日か)
少し不審に思ったが、今日が、前回から数えて何日か思い出して、ユーゴは、我が子の意地らしいイタズラ?いやサプライズに笑みを深めた。
「あら、今日はいつもより寒くないわねぇ。日が昇っちゃうほど寝てたかしら」
後ろから聞こえてきたアンリの声に、妻も自分と同じことを考えたのだと、結ばれて何年も経ち、子も産まれているのに、未だにうれしぃなぁなんて思ってしまったユーゴは、自分がいかに妻にゾッコンなのか何度目ともなく実感してしまった。
「アンリさん、今日は前回から数えて20だ。またアルトが手品を見せてくれるらしい」
「あら、そうだったのね。それじゃぁまたうんと褒めてあげないと!」
「ああ。そうだね」
アンリもなんのことか合点が行き、我が子をうんと誉めるよう何を言ってあげようかと考え始めた。
「〜♪〜〜♪」
思わず鼻歌が出てしまうくらい、僕の機嫌は良い。あの後、いつから起きていたのか、父さんと母さんが起きてきた。そのあと、どちらとも僕のことを褒めてくれた!僕の作戦は上手くいったのだ!その後母さんが作ってくれた朝ごはんを食べた。僕は食べることが好きで、特に母さんの作ってくれる特製のフルーツパンが1番好きだ。母さん曰く、干した果物を混ぜて作るらしい。僕は朝ごはんにそのパンが出る時は匂いで判断ができるまでなのだ。このパンは村の人達にも人気で、よく作った記事を配っている。今僕が向かっているのも配っている家の一つに向かっている。ここは小さな村だけど、それでも子供には充分に広いので、他の家は父さんが配りに行っている。なんでその家だけ僕が行っているかといえば、、、そう!友達だからだ!いや、だから断じて「1日に一回は会いたい」だとか「おしゃべりをいっぱいしたい」とか、こういうのは当然の想い、、、だと思う。最近こういうことを考えていると、思わず胸がキュッとなったような感じがしてびっくりした。何かのビョウキかもと思って父さんと母さん、それにシルキーに相談してみると、父さんはにっこりと笑顔になり、母さんは「まぁまぁ」とはしゃいでいた。シルキーは、なんと珍しくムッとした表情をしていた。初めてシルキーのそんな表情を見た。その次の日には、新しいマフラーを編んで渡してくれた。いつものより少し長かったが、シルキーがキュッと巻いてくれた鼻と口がしっかり覆われてあったかい上シルキーが好きなミルクの香りを感じて僕は「シルキーが一緒に居るみたい!ありがとう!」と言うとようやく笑ってくれたので、それからはずっとそのマフラーを愛用している。
と、僕が思い出にほんわかしていると、目的の家がすぐそこだった。丸太で作られた、僕の家とほぼおんなじような見た目の家だけど、なんでだろう、ここに来ていきなり胸がドキドキしてきた。僕はその音を意識しないようにして、家の扉を叩いた。
「お、おひゃようございます!パンの生地の配達でしゅ」
、、、上手く言えなかった。顔がめちゃくちゃにあったかくなっちゃてるのが分かる。恥ずかしい、、、
「おはよう。今日もありがとうね」
ガチャッと分厚い扉が開き、優しい声が迎えてくれた。透き通った黒色の眼と目があったかと思うとにっこりと笑った。胸がドクンッと鳴る。意識しないようにしてたのに体の中からドクドク音が響く。でも、、、いつもどおりだ。いつもと変わらない様子で迎えてくれた。どうやらさっきの失敗は聞こえなかっ
「可愛い挨拶だったね」
もう誰にも顔を見せたくないくらいには僕の顔は赤くなってしまった。消えて無くなりたい。
「さむかったでしょ、はい、お茶どーぞ」
「ありがとうです」
少女、もといルーネリアさんがお茶を淹れてくれた。最近は雪の降る、冬という季節なので、パン生地を持っていった後のルーネリアさんのお茶を飲むのが当たり前になってきた。
「おいしいです!」
「そう、よかった」
「もう味にも慣れたね」
にこりと笑顔のままルーネリアさんがそう言う。思わず目を逸らしてしまう。というのも、ルーネリアさんが淹れてくれるお茶は美味しいけど、特有の苦味があるのだ。親が淹れてくれるお茶に慣れていた僕は初めて飲んだ時、ルーネリアさんが言うには顔をぎゅーっとしたみたいな顔をした後、すっ、、、とお茶をルーネリアさん側に押した、、、という恥ずかしいことがあったのだ。
「もう慣れましたからね。ちょちょいのちょいですよ!」
僕はそう言い精一杯胸を張る。
「もう慣れるなんて、すごいね。私だって10になってからようやく慣れたのに」
そう、ルーネリアさんは2つ上なのである。
「もう私に追いついちゃったね、あの頃のアルトは可愛かったのになぁ」
と、ルーネリアさんはまたクスクス笑い始めた。でも、それなら、
「どうせおんなじになるなら、僕はルーネリアさんの黒い髪と黒い目もおんなじになれたらよかったのに」
言ってから、自分が思ったことをそのまま口に出していたことに気づいた。ルーネリアさんの方を見ると目を見開いたまま固まっていた。
黒色人差別、それがどのくらいの規模のものかは分からないけど、それは確かにある。僕たちは色をもって生まれる。例えば僕は父さんの白髪と母さんの青い目を持って生まれてきた。他にも多くの人が色々な影響を受けて、様々な色を体に示す、らしい。要因としては、色々あるらしいが、魔力量や気持ちの変化?なども考えられているらしい。そんな中で黒は、唯一忌み嫌われている。なぜかははっきりしていない。と言われている。でも、僕はその理由を知っている。
しかし、本人を前にしてそういう話題を口にすべきではないことは知っていた。だから僕は、謝ろうとして、、、
「そんなこと、あんまり言っちゃたらだめだよ?こんな髪になっちゃたらこの先苦労しか無くなっちゃうよ〜。私みたいなのは、みにくいって言われちゃうだよ」
ハハハ、、、とおそらく笑ったフリをしながらそう言った。
ちょっと待ってほしい。今ルーネリアさんは、なんて言った?
自分のことをみにくいって言ったのか?
頭がカッと熱くなるのを感じた。これはさっきまで熱とは違うと、分かった。そこから僕の動きは早かった。
「そんなことない!!」
身を乗り出してそう声が出る。
「ルーネリアさんは優しいし、大人だし、きれいだし、かわいい!黒い髪だってサラサラで綺麗だし目だって夜空みたいに綺麗だし、、、えぇと、、、それに!」
と、勢いに任せて僕が思っていることを全部言ってしまった。どうしよう、まだ言いたいことがある。もっと伝えたいことが、、、でも、言葉が出てこない。下がって、机向けられていた目をゆっくりと上げる。そして、今度は僕が固まってしまった。
「ありがとう、アルト」
ルーネリアさんは、笑っていた。笑いながら泣いている。
「あ、、、えっと、、、」
何か言おうとするがまだ言葉が出てくれない。
「今日は、もうお開きにしよっか。お茶も冷めちゃったし」
「えっ」
僕は、思わず声が出た。でも、それは嫌だ。まだ言いたいことはあるし、もし怒らせてしまったなら謝らないと、、、そう思ってるのに、また僕の体は僕のいうことを聞いてくれない。頭の中で考えがまとまる前に、体が勝手に動く。気づくと僕はもう玄関の前で、ルーネリアさんと向かい合っていた。
「今日はごめんなさい。ルーネリアさんを悲しくさせるつもりはなか、、、」
やっとの思いで、ルーネリアさんを泣かせてしまったことを謝る。謝ろうとして、途中で僕の口は、ルーネリアさんの手で塞がれた。
「私はね、嬉しいから、とってもあったかいから、泣いちゃったんだよ?だから、謝らないで。知ってる?ヒトってね、嬉しくても泣いちゃうんだよ?」
ルーネリアさんがそう言って浮かべた笑顔に、いつのまにかどこかに行っていた胸の音が帰ってきた。あぁ、、、うるさい。もう口を開かないのがわかったのか、ルーネリアさんの手が口から離れる。
「それにね、女の子は、泣き顔なんて見られたくないんだよ。特に、、、君には、ね」
最後の方が聞き取れなかったが、なるほどと納得した。
「それじゃぁ、、、また明日です!ルーネr「待って」」
「はい?」
「前から思っていたんだけど、私たちは友達でしょう?なら、お互いにもうちょっと砕けてもいいと思うんだ?ということで、、、
また明日ね、アル?」
ルーネリアさんが笑顔でそう言う。片や、僕はもう限界だった。一度コクリッと頷くと、即座に反転、気づけば猛ダッシュしながら元来た道を走っていた。もう、だめだ
「あ〜あ、行っちゃった、、、」
真っ白な道に遠くなっていく自分より少し小さな背を見つめながら少女、ルーネリアはそうぼやいた。せっかく自分は頑張ってアル、と呼んだのに、向こうは呼んだくれなかったな〜と若干の不満を思い浮かべたがすぐに霧散した。その前の行動を思い出して、頬が緩みそうになるのを感じる。そしてふと、腰に届きはしないが、充分に長い自分の黒髪を一掬いして眺める。少年が、彼が好きだと言ってくれた髪を。
ルーネリアがそのことを自覚したのはかなり早かった。村の広場とも言えないところで友達と遊んでいた時、街から少し離れたこの村に、物資を運んでくれる商人とあった時、ルーネリアは子供ながらに自分に向けられる視線が、他の子と違うことに気づいた。だが、ルーネリアは聡かった、体の弱い母親を気遣ってたことが幸か不幸か彼女を成長させた。だからその視線に気づいても「そういうものだ」と割り切っていた。およそ子供の考えることではないが、そういう点を見ればアルトの、大人びているという印象は頷ける。
だからこそ少女は、アルトの反応に固まった。最近は、よく一緒に遊んでいた子からもその視線を感じてしまうという理由で遊ぶことも無くなっていた。おそらく親の反応を見ていたのだろう。子供は、大人が思っている以上にそういうことをよく見ている。が、アルトは違った。自分の黒い髪が綺麗だと、黒い目が好きだと言ったのだ。そして、ルーネリアの目からは涙が出ていた。そしてその涙が、嬉しさによるものだということを悟った。自分のことを褒めて、認めてくれたことが、少女にとってはどうしようもなく嬉しかったのだ。
少年は、まだまだ言いたいことがいっぱいあると言うだろうが、少女の仮面を破るのには充分だった。
「次会ったときには、ルーネって呼んでくれるかなぁ」
想いを馳せる少女の顔は、自分の仮面を取り払った少年に負けず劣らず、赤い。
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