とある村の騒がしい早朝劇
1話目です。よろしくお願いします。
窓の隙間から入ってくる風で、浅くなっていた眠りから意識がはっきりする。そうなると一気に全身に若干の寒気を感じて思わず「うぅっ」と声がでてしまう。いつものことだけどやっぱりこのいやな感じは消えない。少し重めの布団の中で体を傾けて窓に目を向けてみると、陽は入ってきてないからおそらく早朝なんだろなあ〜なんて考える。「ふんっ」と小さな声を上げながら起き上がると、布団の中と外の寒暖差にまた体が震えてしまう。横に目を向けると、大好きな両親はまだ寝ていた。シンとした部屋に「すぅ、、、すぅ」といった音だけが響いていた。こんなに朝早く起きたのだから、普段は母さんがやっている朝支度をちょっとでもやってみようかな、、、褒めてくれると嬉しいなあと思いながらそっとベットから抜け出し床に足をつく。キンキンに冷えた床に大声が出そうになったのはもう言う必要もないよね、、、
爆速で自分の分スリッパを履く。これだけでもかなり平気になる。元を辿るとこの「スリッパ」も異世界から来た「勇者」や「迷い人」の知恵だということらしい。色んな本で彼等、彼女等の逸話を読んだけど、ぶっちゃけるとこういう普段から使える道具に知識の方が僕的には助かるなぁなんてしみじみと考える。すすすっと足音を立てないように意識しながらご飯を食べたりする部屋へと入っていく。そのままご飯を調理するところを抜けて、家の裏手に通じる扉の前に立った。木でできた分厚い扉の奥からは、ごぅごぉぅ、、、と冷えた風が吹き付ける音が聞こえてくる。普段は、しっかりと、綿の入った帽子や上着を着なきゃいけないけどそこは、少しずるをする。
枕の下から取ってきた小瓶から、捨てずにいた爪の欠片を何個か、そして寝癖でボサボサの髪をひとつまみ引っ張り抜く、、、痛い、、、
『キヒヒ、カミヲヌクダケデナミダメカァ?ヨワイナァ、ヨワイナァ?』
「起きてるならすぐに声を掛けてよ、、、」
恨みがましい気持ちを込めて、しかし声を落として聴こえてきた声に応える。すると声のヌシが目の前に姿を現す。とんがった耳に大きな目、小さな体は茶色で髪は炎のように燃えている。四大精霊のサラマンダーの系譜を持つ名前も無い妖精はイタズラっぽい笑顔を浮かべながら続ける
『イヤァ、ドウセナラオドロカセテヤロウッテオモッタンダガナァ?ドウヤラヒツヨウナカッタナァ、キヒヒ』
キャハハ、と姿を見せてない他の子たちも笑っている。なんだろう、、、どうにも悔しいなぁ、、、
「、、、」
『ソンナカオヲスルナヨォヒトノコ、ソンナソソルカオサレチャァ、モットシタクナッチャウゼ?、、、キヒヒ』
性別?なんてあるのか知らないけど、目の前の火の妖精はクネクネと身を揺らしながらそうからかってきた。これ以上この子たちのお喋りに付き合ってたら早起きした意味がないと、気持ちを切り替える。
「今日もお手伝いを頼めるかな?報酬もいつも通り、、、』
と、爪の欠片と髪を見せながらお願いを告げる。
『キヒヒ、マイドマイド〜?アイカワラズウマソウダナァ。マカサレタゼェ!』
そう言うと、手の上に載せられた爪と髪が淡くひかり、さらさらと溶けるように消えていった。
『ウマイ!!』
『ウマイナァ!!』
『ヤッパリヒトノコハゴクジョウダァ』
『アリガトウナァ』
と、目の前の子や、姿を見せていなかった子たちが現れて口々にお礼?を言い始めた。およそニンゲンとは似ても似つかない姿の彼らは、それでも嬉しそうなのが分かるとやっぱり、、、嬉しいなぁ。なんてことを考えていると、ノシっと頭に重さを感じる。少し体の透けた、6本足のトカゲ?のような子が頭から逆さまに首を伝って来て、肩にくっついた。この子もよく姿を見せる子だ。どうしたんだろうと思っていると不意に横長の口が開き長い舌が伸びたかと思うと、目の下のあたりをニュルンッと舐めた。
「うわっ!?」
『ア〜!?コイツッ!?ヒトノコノナミダヲノミヤガッタ!?オレタチガモラオウトオモッテタノニ!?』
ア〜ッと周りがうるさくなってしまう。とうの本人?はキュ〜っと鳴きながら首に巻き付いてしまった。首が暖かくなり始めたので、この子はこの子で、お返しをしてくれているらしい。
「そろそろ行こう?早い方が良い」
『ア〜ア、、、オレタチノゴチソウガ、、、』
と、悲しそうな雰囲気を漂わせながら火の妖精は額に近づき小さな手を当てる。そこからあったかい水が体を覆っていくような感覚がする。そして僕は、躊躇いなく扉を開ける。ビュウッとひときわ強い風を感じながら外に出る。普段なら綿の入った服を着てもなお寒い風だけど、火の妖精のおまじないのおかげでパジャマとスリッパで雪一面の地面を歩いていく。
『マジナイハジュップンダカラナァ?ワスレテコオッテクレルナヨォ?』
「わかってるよ。ありがとう」
ザクッザクッと音を立てながら村の薪置き場に向かう。幸いにも早朝なこともあってみんなが出てくる様子もない。薪の山に到着すると、『ツチノ!デバンダゼ!』と火の妖精が呼びかける。すると、声が聴こえることはなかったが、全身にもう一枚膜が張られたような感覚。そして自分の腕よりも一回り大きな薪を20本程持ち上げる
土の妖精のおまじないは力が湧くというもので、重いものを運ぶのに役立つ。そのままヒョイッヒョイッと家の裏手まで小走りで戻る。
「それじゃ、お願い!」
『ホイキタッ!!』
家の裏に別に用意してある。薪や小麦の倉庫の前に積み上げた薪へ、火の妖精がくっつく。すると、シューッという音と共にうっすらと煙が上がる。火の妖精が言うには薪に付いた雪が溶けて染み込んでしまった薪を乾かしてくれているらしい。その証拠に、乾かしてくれた薪を使ってみると、何と一本の薪で1日ももったのには事情を知らない父さんや母さんも含め家族みんなで驚いた。ほんとのことは話せていないがどうにか誤魔化せている。
倉庫の奥に薪を運び、一本薪を抱えて裏口の扉へ戻る。家に入ると自分の家の匂いに途端に力が抜ける。妖精たちのおまじないがあるとはいえ、こういうことを始めて一年経った今でもやはり緊張はしてしまう。
『ナサケナイナァ、、、キヒヒ。ヘナチョコリンメェ』
「、、、まだ慣れないんだよぉ」
『ン〜、、、マァヒトノコハヨワヨワダカラナァ』
『ダナァ』
「、、、分かってるよぅ」
すると、自分に影がかかる。目を上げると、こんな家には似つかわしくない、それこそどこかのお嬢様が着るようなシルクドレス?のような服を着た、白みがかった金髪の少女が僕を見下ろしていた。
「あ、おはよお〜今日も早起きだね」
「ン、、、」
『ゲェッ!?バンシー!?イツノマニ!?』
僕の挨拶に妖精たちよりは低いが鈴を転がすような、耳に気持ちいい声で反応してくれた。しかし、すぐに目を細め妖精たちを見る。スッと手を伸ばしたかと思うと、首に巻き付いていたトカゲのような精霊を腕に抱え込み、ウンッと小さく喉を鳴らした。
『ママママテェッ!?ヤメロ!?ハヤマルナ!?キエチャウヨ!!』
少女、シルキーの冷えた眼差しと彼女の元を悟った妖精たちは続けざまに消えていく。『アアッ!ウラギリモノドモガァ』と叫ぶ姿は申し訳ないけど、笑ってしまった。1人?火の妖精だけがその場に取り残されてしまう。
「ンッ」
『ナ、ナンダヨォ?オレハナニモシヨウナンテ、、、』
と、自分に悪意は無かったことを伝えようとしていた。流石に助けてあげようかと思いはじめていると、「ンッ」とシルキーは妖精に、何か紙袋を差し出していた。『ン?』「ん?」と僕と妖精は状況が飲み込めずに疑問の声が出てしまう。ひょこっと中身を覗き込んでみると、、、
「クッキー?」
「ンッ!」
『エッ!?コレオレタチニクレルノカ!?』
どうやらシルキーは、妖精たちが僕をからかうのはいただけないが、それはそれとして、僕ときちんと取り引きをしてくれていることへお礼としてクッキーを用意していたらしい。
『オ〜!?バンシーノテズクリカ!!コレハウレシイネェ』
シルキーの意志に気がついた火の妖精はすぐさま袋に飛び付きヒョイッと持ち上げた、、、明らかに体の方が小さいのに特に無理もなさそうに袋を持ち上げていることにツッコむのは、、、やめておこう。
『ジャアナ、ヒトノコ、バン、、、シルキー!コレハアリガタクモラッテイクゼ!』
そう言って姿が消えかけたその時、思わず声をかけてしまった。
「待って!」
『ン?ドウシタ?ヒトノコ』
「また会うのは20日後でしょ?その間に冬の日が過ぎちゃうからさ、みんなに伝えておいてくれない?」
「いつもありがとう。良い夜を!」
「ンッ」
日頃の取り引きと、もうすぐやってくる精霊たちに取ってのイベントに向けて、メッセージを伝える。僕と妖精たちは、今ではこんなだが、出会った当初はまあ色々あった。それでもこうしてちゃんと取り引きしてくれているのは、いつもはうざったい彼らの優しさなのだ。その感謝を忘れちゃいけないのだ。
『、、、フ、アハハハッ!!オマエクライダゼ?ヒトノコ!オレタチニソンナフウニセッスルノハヨウ』
いつものくえない笑い方が今だけは取り払われるそして、、、
『コチらコそだぜ?人の子、そしてシルキー。、、、きたる夜の日、日の変わる刻限、女王に贈る供物を持って待て、そして会ってもらいたい。俺たちの女王に!!』
「「、、、っ!?」」
いつもと似ても似つかない、それこそ精霊のような、話し方をする火の精霊に思わず2人して言葉が出なくなる。そして、普段の笑い方、からかうような、意地の悪いような笑い方でなく、親愛をもった笑い方を浮かべた妖精は、今度こそ消えていった、、、
しばらくして、ようやく落ち着いた僕は
「とりあえず、暖炉の準備をしようよ。あ、あとおはようシルキー」
「ン♪」
とりあえず当初の目的をたっせいしようと動き始めた。
そうだ、そうしてとりあえずひと段落付けてから改めて考えよう。
騒がしい早朝劇は一旦幕を下ろした
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