指示
ハイコールド市役所市長室。
ノートパソコンで書類作業をするリースの傍らに置かれた固定電話が、電子音で着信を告げる。
「はい。」
リースはディスプレイを見つめたまま電話を取り、短く応答した。
「フタミです。申し訳ありません。しくじりました。」
受話器の向こうでフタミが申し訳無さそうに話す。
「そうですか・・・それで、そちらは大丈夫ですか?」
報告を聞いたリースは残念そうな声を出すと、一呼吸置いて質問をする。
「車で逃げていますが、激しい追跡を受けてます。」
「わかりました。また掛け直します。」
状況を把握したリースは通話を終了する。
そして、受話器を置いた瞬間、再び電話が着信を告げる。
「はい。」
「どうも、オギノです。」
置いた手で受話器を取り電話に出ると、発信者はオギノからだった。
「どうしました?」
「フタミさんがしくじったようです。シーノを含む複数の車両がフタミさん達の車を追尾しています。」
既に聞いた報告だったが、重要な情報も含まれていたためリースの動きが一瞬止まる。
「追尾する集団にシーノも含まれている。と言いましたか?」
「はい、機関銃を持ってセダンに乗り込むところを確認しました。」
重要な部分を聞き返すリースに対し、オギノはより詳しく説明した。
「わかりました。引き続き援護をお願いします。」
情報を受け取ったリースはそう言って電話を切り、またボタンをプッシュしフタミにコールする。
「はい。」
二コールほどでフタミに電話が繋がった。
「オギノさんを引き続き援護に差し向けます。あなた方は目的を優先してください。」
「どういうことですか?」
一方的に情報を流すリースに、フタミの怪訝な声が返る。
「追跡する一団にシーノがいます。巻き返しのチャンスですよ。」
「わかりました。続行します。」
フタミが二つ返事で了承すると通話が終了した。
「やれやれ、かなり派手なパーティーになっているようですね。」
リースは椅子を横に向け、背後の壁一面の窓からハイコールドシティの夜景を眺めると、再び受話器を取りボタンをプッシュした。
「・・・もしもし、クロスさんですか?待機ご苦労さまです。早速ですが乗り物の準備をお願いします。」