接待
市長室での会議から一週間程経った、ある日の夜。
ハイコールドシティの一等地に店を構える、料亭の最奥部に入っていく秘書三人の姿があった。先頭を歩くフタミの手にはアタッシュケースが握られている。
「これはこれは、市役所の皆さん。わざわざおいで頂き光栄です。」
座敷に入った三人を畳の上にどっかりと座る、いかにも高そうな純白のスーツを着たガタイの良い短髪の男が、豪快な笑顔で迎えた。
この男がシーノファミリーのボス、シーノである。
「電話やお手紙では誠意がないと反省し、直接お願いに参りました。」
フタミが柔らかい笑顔を浮かべ頭を下げる。その様子を斜め後ろからニヤニヤ見つめるアルカと、表情を変えないアミス。
「まあ、立ち話もなんなのでお座りになって。」
シーノは右手を差し出して着席を促す。
「失礼します。」
そう言うと三人は並んでテーブルに着いた。
「早速ですが、お土産をお持ちしました。」
フタミがアタッシュケースをドンとテーブルに置く。
「これはかたじけない。」
それを見たシーノは満面の笑みを浮かべた。
フタミは開封時に中身がシーノに見えるようケースをテキパキと配置し、ロックを外す。
パン。
突然、乾いた破裂音が響く。
先程まで笑っていたシーノは目を見開いている。そして、前に倒れ込みテーブルに突っ伏した。
薄ら笑いを浮かべるアルカの手に握られた硝煙の立ち上る拳銃が、何があったかを物語っていた。
「よし、行くぞ。」
ケースを自分に向け中から短機関銃を取り出したフタミが立ち上がる。顔からは完全に柔らかさが消えていた。
この三人の本当の目的は交渉ではなく、シーノの排除だ。秘書を始め市役所職員の一部はこういった汚れ仕事をすることがある。
「フタミさん。」
「どうした?」
アルカの呼び掛けに、フタミは折りたたまれた短機関銃のストックを伸ばしながら答えた。
「シーノ生きてます。」
「は?」
アルカの言葉に顔を上げると、確かにシーノが復活している。
「え?」
なんで?と言いたげな表情のフタミに答えるように、シーノはニィっと笑い穴の空いたジャケットを捲る。そこには防弾繊維にめり込む弾丸があった。
示し合わせたかのように背後の襖が開き、シーノの手下がぞろぞろと入ってくる。
「作戦失敗ね。」
「逃げるぞ!」
アミスのいつもと変わらぬトーンでの発言に、フタミは弾かれたように指示を出すと、襖から入って来た手下に対し四十五口径弾をバラまいた。
そして、倒れた手下達を踏み越え座敷を飛び出す三人。
「追え!奴らを逃がすな!」
怒号を上げながらシーノはドスドスと三人の後を追って座敷を出た。