悪役令嬢、女子高生と入れ替わる
「マルグリット・リッターハイム! お前との婚約を破棄する!!」
婚約者からの宣告にマルグリットは頭を抱えた。
彼女の家は名前の通り、戦功をたて爵位を得たリッターハイム侯爵家である。
二人の婚約は国王が決めたことであった。
まさか王太子の誕生会でこのような宣告を公衆の面前でうけるとは。
信じがたいことである。
「何故と理由をおたずねしてもいいですか?」
ようやく口にした言葉は震えていた。さすがに動揺を隠せない。
王太子ライナルトは不敵に笑った。
「お前のような冷酷な婚約者に我慢ならない。お前は男たちと混じり剣術・馬術を競うように見せかけて不純な交流を続けていると報告があった。お前は私の妃に相応しくない!」
マルグリットの実家は多くの騎士を抱える武家である。
家門長姫として相応しく武芸を嗜んでいただけである。
同年代の騎士見習いと稽古するのは日常茶飯事であり、国王夫妻もこれを知っている。
逆に武芸を軽んじ、詩やお芝居ばかりに傾倒する王太子を嘆いており、これでは有事の際騎士たちを率いることができない。
北の大国の脅威をひしひしと感じる最中、一部の騎士たちからは不安の声があがっていた。
彼女が妻であれば彼らも少しは心強くなり結託できることだろう。
そう期待し、マルグリットを称賛していた。
しかし、ライナルトからすればそれは面白くなかった。
女の癖に剣を持つマルグリットを煙たく感じ、普段より野蛮だと嫌悪していた。
「そしてアンドレアを虐めていたと報告もある。私が妹のようにかわいがっているのを嫉妬し、時に手をあげたと……3週間前のことを忘れたとは言わせない。彼女の頬は可哀そうな程腫れあがっていたのだぞ」
ああ、とマルグリットは思い出した。
彼女が妙につっかかってくるなと思った。
女らしくない自分への嫌みはライナルトのおかげで免疫ができている。
しかし、許せなかったことが起きた。
アンドレアはあろうことかマルグリットの家門の騎士・兵士を侮辱した。
「戦ばかりの野蛮な衆であり、おぞましい。人を殺すことも躊躇しないとは碌な死に方をしないでしょう。神もお許しせず、地獄へ堕ち後悔すればいいわ」
大国の脅威を抑え、警戒しつつ、魔物の害にも対応している彼らを侮辱するのは許せなかった。
人を殺すばかりではない。
周辺小国に呼びかけて、大国への牽制の仕組みを作り最悪の事態が起きないようにしてくれている。
国王からの密書を大国へ直接届けているのは家門の騎士である。
密書の内容次第で、大国から首を落とされるかもしれない。それでも彼らは国の名誉の為に持参している。
祖父の代では、首だけしか帰らなかった者もいた。
仮にも王の姪である公女がこのような発言をするなど悲しくなってしまう。
何とか彼らの名誉の為にマルグリットは彼らの仕事を説明した。それでもアンドレアは興味がなく、理解しようともしなかった。
「きっと大国に無礼を働いたんだわ」
殺されて当然だったのだろうと言わんばかりの言葉にマルグリットは許せず気づけば手をあげていた。
気づいた時には彼女の右頬を盛大に張り手をくらわせた。
それが王宮侍女の目にとまり、ライナルトの耳に入ったのだ。
「王族の一員でもある我が従妹アンドレアへの暴言と暴行、王族侮辱罪として捕らえる!」
婚約破棄に続いての投獄。頭に血が上ったとはいえ、アンドレアを叩いたのは悪手だった。
「わかりました。せめて慈悲を乞いたいのですが」
「今の2つの反故以外であればな」
「どうか私のことで我が家門へは罪を追及しないでください」
裁きは自分一人だけが背負うことにする。
自分だけではなく、家門にも罪を問われれば国境の防衛にも影響するかもしれない。
それは避けたかった。
きっと国王が何とかしてくれるとは思うが、ライナルトが何を言い出すかわからない。
「わかった。では、代わりに」
ライナルトはマルグリットに近づく。手を振り上げ、彼女の右頬へ張り手した。
「アンドレアの痛みの分だ!」
そう叫ぶと同時に右頬に走る痛みは意外と痛い。
貧弱なライナルトの張り手だからどうともないと思っていたが、違った。
「聞こえているの、綾子!」
女の声が響いた。目の前に現れたのは見知らぬ中年女性であった。
いや、知っている。
私、綾子の母親である。
100点満点のテストで95点採ったことが不満だったようだ。
内容をみるとマルグリットも少し考え込む計算問題である。
これを責められるとは気の毒なことだ。
「綾子!」
「そういうお母さまはこのテストを満点で採れるのですか?」
突然の反論に母親は顔を赤くして再び綾子に張り手しようとした。綾子はその手を握る。
「うっ、痛い痛い!」
母親が泣き叫び、使用人が部屋へと飛び込んできた。
「そうですよ。痛いですね。強くしていますので。お母さまの張り手も痛かったです」
「痛い痛い! 放して」
綾子はぱっと母親の腕を放した。
母親は恐怖で後ずさる。
今まで反抗しなかった娘がこのような言動をするとは思えなかった。
「お母さま、私は体調が優れないので今日は休ませていただきますね」
実は生理痛でお腹が結構痛いのである。めまいも少しする。
この状況で責められたら気分が悪くなる。
部屋に飛び込み、綾子は迷わずベッドに横になった。
「はぁ、いたぁい」
マルグリットの生理痛はここまで激しいものではなかった。自分はどちらかというと軽い方であった。
今は頭痛と嘔吐感もする。
人それぞれ違うというのが今にしてようやくわかった。
ちらりと棚をみるとずらりと並ぶ参考書の数々。
経済・法律の分厚い本もある。
綾子はこの家、真崎家の跡取り候補である。
真崎家は国内で上位にあたる財閥家。
その為、並ではない程の勉強量を要求されていた。
高校のペーパーテストくらいは完璧にこなさなければならない。
先ほど母親はそういい綾子を責めた。
「はぁ、自分は名前さえ書ければ卒業できた学校の出身なのに」
ぼそっと呟く言葉に綾子はおっと口を塞いだ。
さすがに今のは酷い言葉だった。
母親の自尊心を傷つける言葉である。
社交界の影でそういわれ続けていたのを綾子は知っていた。
彼女は綾子の知らないところでたくさんの苦痛を覚えて来たであろう。
だからといってテストの点数が完璧ではなかったからと手をあげるのはいただけない。
マルグリットが親から手をあげられたのは他人を傷つけた時である。
リッターハイム家の長姫たるもの、弱いものを虐めてはならない。
剣を学び、戦い方を覚えることは弱いものを守るためである。
そう考えると、アンドレアへの張り手は弱いものを傷つけたのに相当するので今は反省している。
同時に騎士への侮辱は許せないが。
「お嬢様、入って大丈夫でしょうか?」
雪嶋という名の使用人がこんこんとノックし綾子に声をかける。
彼はお盆を持ち、水と痛み止めを持ってきてくれた。
「ありがとう」
男に生理痛を把握されているのは何だか複雑である。
「今日の食事はどうします? こちらに運ぶこともできますが」
「お父さまが帰ってくるのよ。その時には痛み止めも効いているし、食堂で食べられるわ」
綾子は痛み止めを口にして水を飲んだ。
父は多忙な人であり、1週間に2回程しか夕食をともにとれない。
しかし、他の2,3日は愛人の家の元へと通っているのを綾子も母も知っている。
愛人は2人おり、子は男子なのである。
男尊女卑の考えが強く残っている家であり綾子の地位は心許ないものになっている。
優秀な子に跡を継がせるというのが父の意向であった。
女としての尊厳も傷つけられ、子の地位まで脅かされる。
そう思えば、母親のことは不憫に感じる。
綾子は本棚にある本を確認していった。とてもじゃないが、どれもこの年の少女が覚えるには無理がある内容だ。
大学で習うものも存在している。
マルグリットの記憶では理解できない内容もあり、綾子の記憶では理解できた。
どれだけこの少女は努力をしてきたのだろう。
写真立てに写る少女の表情は影があり暗いものであった。
幼少期から母親に厳しく躾けられ、勉強漬けの毎日。
趣味を持つことも許されず、教養という名目で覚え込まされたピアノとバレエがある。
強要されたことであり綾子はそれらに嫌悪の感情を抱いていた。
学校も綾子にとって憂鬱なものであった。
彼女はクラスに馴染めず、いじめにあっていた。
汚水をかけられたこともあり、びしょぬれで帰ったが母親からは全く心配されなかった。
何を遊んでいるのと。
「雪嶋先輩、恰好いい!」
雪嶋という言葉に綾子は困った表情を浮かべた。
使用人の雪嶋は2つ学年上の先輩でもあった。
非常に人気があり、クラスでも彼のことを好きだという少女がいる。
その為、綾子への風当たりは一層強くなった。
一説では綾子は雪嶋をあごで使うわがまま令嬢であるというのだ。
この姿をみて何故それが言えるのだ。
マルグリットが綾子になる前から綾子は雪嶋に学内で接触しないようにと要求していた。
「ちょっと真崎さん、放課後にいいかしら?」
クラスで一番派手なグループが呼び出しをする。綾子はため息をついた。
またかと。
「いい加減、雪嶋先輩に迷惑をかけないでちょうだい」
どうやら前日に街中で雪嶋が綾子の荷物を持っていたことを言っているようだ。
使用人だから仕方ないだろう。
彼女らも良い家の令嬢であるが、そんな理屈は納得してくれない。
とにかく気に喰わないのである。
「ちょっと聞いているの?」
張り手をくらわされて綾子は内心ため息をついた。連日叩かれるとは思わなかった。
再度少女の張り手が襲い掛かろうとして、綾子は瞬時にその腕を握った。
「え、いたた」
母親と同じように少女は痛みで泣き叫んだ。綾子はぐるりと少女の後ろへと回る。少女の腕を握りながら。
肩をひねられ少女は泣き叫んだ。
「何で簡単に人に暴力する人は自分が痛くされたらすぐに泣くのかしら」
昨日から感じる疑問をつい口にする。
「ちょっと、真崎さん。ひどいじゃない!」
「さいってー」
ようやく解放すると少女たちは綾子を責め立てる。
「何で被害者面するかわからないわ。ここで私を責める暇があれば雪嶋に告白でもすればいいのに」
それができれば苦労しないわと少女は非難した。
綾子は大人しい性格である。彼女らの暴力を今まで黙って受けていたのだ。父親に言うこともせず。
まぁ、あの親だったら、何かしてくれるとは思えないけど。
その為か少女たちの行動はどんどんエスカレートしていき、7日前に綾子の恥ずかしい写真をとり脅すような真似もしている。
「とりあえずあなたたち私の写真を消して下さる?」
抵抗しなかったとしても綾子にとって良い気分ではなかっただろう。少女たちが抵抗するので綾子は仕方ないと呟いた。
「雪嶋、お願いね」
そういうと後ろから雪嶋が姿を現した。
今まで綾子は誰にも言わなかった。少女たちに虐められても呼び出されても雪嶋にばれないように動いていた。
だが、今の綾子にとってこの状況は不愉快なことだ。
雪嶋に知られるのも気分が良いとは言えないが、個人の力で何もできないのであれば力を借りるしかない。
マルグリットがいつ元に戻れるかわからない。一生このままかもしれない。
それなら自分の判断で動かせてもらおう。
「わかりました。お嬢様」
雪嶋は少女たちを見た。その表情は学校ではみかけない程冷淡なものであった。
しばらく雪嶋は少女たちと会話した。その中に少女たちへの脅しも含まれている。
雪嶋がこんなに怖いことを言うとは思わなかったのか、少女たちは震えあがっていた。
「お嬢様、彼女らのスマホの写真データは消させました。ネット保存されている分も削除させていますが、念の為アップロードサイトの運営に問い合わせもしておきますね」
「面倒なことだけどよろしくね」
「いいえ、あんな写真が誰かの手に渡るなど許せませんから頑張りますよ」
それよりもと雪嶋は綾子にお願いした。少しだけ話をしたいと。
学校から帰る途中の喫茶店へとよらせてもらった。
まだ門限まで余裕がある。
「あなたは誰でしょう」
お茶をあやうくこぼしそうになった。
適当に誤魔化そうかと思ったが、彼から笑顔が見当たらない。先ほどの少女たちに対してという程ではないが、冷ややかな印象を覚えた。
「何故わかったの?」
「明らかに違います。お嬢様は奥様やクラスメイトにあのような行動はしません。自分だけで収まる内容であれば耐える人でした」
「よく見ているのね」
父親も母親も綾子に対して疑問を抱かなかった。
父親は反抗期にでもなったのだろうと片づけられている。
母親は余程前日のことがショックだったのか、綾子と距離を置いていた。
「お願いです。お嬢様を返してください」
雪嶋は頭を下げた。
丁寧な仕草で、綾子ではない綾子に礼儀を示していた。
「私もわからないのよ。どうしてこうなったか」
自分は別世界の令嬢であったが、気づけば綾子になっていた。何がきっかけかわからない。
もしかすると右頬を叩かれたことがトリガーになったかと思ったが、先ほどの少女たちからの暴力で違うとわかった。
「ごめんなさい。わからないの」
そういうと雪嶋は深くため息をついた。
「それでは探すとしましょう。元に戻る方法を……あなたには酷かもしれませんが」
元の世界では、断罪され捕縛されていた。もしかすると処刑されるかもしれない。
「いえ、あれは私が受けることよ。綾子が受けるいわれはないわ」
きっと彼女は怖がっていることだろう。
「ありがとうございます」
雪嶋は感謝した。
「あと、お嬢様を守ってくれてありがとうございます」
母親の折檻の件も、クラスのいじめの件も綾子になったマルグリットがアクションを起こすことで止められるかもしれない。
「元々奥様は気の弱い方ですので、あなたが強気でいれば強くはでないでしょう」
今まで雪嶋が止めようとしても、周りの使用人たちに邪魔されていた。歯がゆい思いをしたものだ。
「クラスメイトの件はいつも後手にまわってしまって……今回あなたが声をかけてくれたので、少し変われそうです」
「綾子の為によく考えているわね」
「大事な人ですから」
雪嶋の言葉に綾子は少し胸が苦しくなった。
綾子は孤立した娘だと思っていたが、このように動いてくれる存在がいたのか。
おそらく綾子自身も彼に対して好意的な感情を持っているだろう。
胸の苦しみが、少し熱く感じられる。それが綾子自身の感情なのだ。
綾子の部屋を探してみると本棚の奥に箱が隠されていた。
中を覗くと少女小説が入っている。
勉強漬けで趣味のない娘、ではなく読書の趣味があったようだ。
どれもファンタジー世界の小説である。
そのうちのひとつが綾子は気になった。
自国の地名と覚えのある人名が登場していた。
それは辺境騎士の青年の復讐物語である。
仕える主家の長姫に淡い恋慕を抱いていたが、彼女は王太子の妃になることが決まっていた。
しかし、彼女は王族を侮辱した罪に問われ、牢獄で自害してしまった。
裁判で王太子は死罪にしようとしたが、国王が彼女を気に入っており鞭打ちの罪で釈放をしようとした。
鞭打ちの最中、長姫は気を失うところで気付け剤を飲まされたがそれが毒物であり彼女は命を落としてしまう。
それを知った主人公は騎士の地位を捨て家門を飛び出し、身分を隠し王宮執事に身を装い長姫の死を探る。
王太子と、一部の政治派閥の横暴を知り、白日に晒そうとしたが彼らの地位によりもみ消されてしまう。
主人公は貴族らを一人一人追い詰めて陥れ、ついに仲間を失った王太子へ罰を下す。
王族殺害の罪で処刑が待っていようと主人公はそれすら構わなかった。
その主人公の名はヴェルナー。綾子は、マルグリットは彼を知っていた。
幼い頃より共に剣に励んだ青年であった。危険な任務もこなし、大国への使節護衛にも出ている父の期待する勇士であった。
もしかすると自分の世界で、あのあと何が起きるかと考えると綾子は震えた。
何とか元に戻らなければ。
そう思うが思いつかないまま1か月が過ぎようとした。
放課後、綾子は寄りたい店があるため、雪嶋をおいて学校を出た。
一応メッセージは出している。
瞬時に送ってくれる便利な機械だなと相変わらず感心してしまった。
道の途中に突然車が近くを通りドアが開いたと思えば、綾子は車の中へと引き込まれそうになる。
「何、あなたたち!」
誘拐だと瞬時に理解して暴れようとするが、車の中にいた男は薬をとりだし綾子の口に投げ入れようとする。
やばい薬だと理解して綾子は口を強く閉ざした。
鼻をつままれ息が苦しいが、飲んではいけない。
何とか耐えようとしたときに雪嶋の声が聞こえた。
雪嶋が追いかけてくれて助かった。彼の心配そうな声が聞こえるが、すぅっと綾子は目を閉ざした。
「はっ」
気づけば薄暗い森の中にいるた。
先ほどの車とは違う、馬車が転がっていた。マルグリットが知る世界の馬車である。
罪人を運ぶ荷馬車であるが。
馬車を襲ったと思われる男はマルグリットを後ろから羽交い絞めにし、別の男が薬を取り出した。
マルグリットは力をこめて後ろの男の頭に頭突きをした。
崩れ落ちた後ろの男を確認し、目の前の男の股間に蹴りをいれた。
「このアマ!」
下品な言葉にマルグリットはあたりの様子を伺った。
そして先ほどまでのマルグリットが抱える記憶を思い出した。
あの捕縛の後、マルグリットは別の人格が入っていたようである。
綾子だ。
彼女は捕縛された後、裁判に出て見事な弁護をし裁判官たちを圧倒した。
16歳とは思えない程の弁論であり、マルグリットの行動の事実、前後で何が起きたかの再確認が行われた。
マルグリットの不貞を否定する証人として3人の家門の騎士が登場した。そのうちの一人は例の小説の主人公・ヴェルナーである。
小説では裁判にヴェルナーは登場しない。
マルグリットになった綾子の弁論のおかげで彼はこの裁判にかけつけてきたのだ。
弁論がなければ彼の耳へ届く前にマルグリットは有罪判決を下され死ぬ運命であった。
マルグリットの不貞事実は否定された。数日後にはアンドレアの暴言・暴行に関する裁判が行われる予定であった。
男たちと応戦している間に後ろから騎士が駆けつけてきてくれた。
「ヴェルナー卿」
「お嬢様、大丈夫ですか」
ヴェルナーもおり、彼は一番にマルグリットの安全を確認した。
「ええ、大丈夫よ。ただいま」
そういうとヴェルナーは目を見開いてマルグリットをみた。
彼は先ほどまでマルグリットの中の綾子に気づいていた。
気づいた上で彼は綾子に協力していたのである。
アンドレアの騎士への侮辱を証明する材料を代わりに捜し歩いてくれていた。
マルグリットを襲った者たちは捕縛され、検証にかけられた。
彼らが持っていた薬はのどを焼く劇薬と精神錯乱を引き起こす劇薬が混ざっている。
マルグリットが声をだせないように、弁論ができないようにするため用意されたという。
雇い主を探るとアンドレアの侍女へとたどり着いた。
ここからアンドレアの罪が問われた。同時に彼女が日頃騎士を侮辱し、意味もなく鞭で痛めつけていたという話が出る。
彼女の我儘に振り回され足を負傷し騎士を辞めさせられた男がいて、彼が法廷に立ってくれた。
国を守るべき騎士への虐待に国王は看過できず、マルグリットの暴言は忠言であったと認められた。
張り手に関しては暴行にあたるのでアンドレアへの慰謝料として金貨500枚とされているが、マルグリットの家で払える額である。
国王は1年の間にマルグリットの実家、辺境の為の予算決済を済ませた。
マルグリットが支払い要求された5倍の額であり、辺境の防衛費用に割り当てられた。
騎士・兵士たちの待遇も改善されることになった。
王太子ライナルトといえば、その後貴族たちとの不正が判明して王太子廃位となった。
代わりに弟のルートヴィッヒが王太子になったという。
文武両道に優れるため、マルグリットは安心した。
彼の妃にという話が出たがマルグリットは丁重に断った。
もう王太子との婚約などこりごりである。
マルグリットは父の元で剣をとり北の防衛に励んだ。
ヴェルナーの補佐もあり北の大国からの侵攻を5年耐え忍んだことが認められ、国王からデイム(女騎士の称号)を与えられた。
ヴェルナーと会話をして、そういえば綾子はどうなったかと考えた。
ヴェルナーから聞いた話では綾子は確かに気の弱そうな印象を持つ少女であったが、法廷では立派な姿をみせて人々は彼女を応援していたという。
牢獄での面会で彼女は将来の夢は弁護士になることだと語っていた。もし戻れたら父母に話し、留学したいと。
きっと今頃はあの家で自分のやりたいことを両親に語っているだろう。
家を継がなければならないと母に反対されるかもしれない。
しかし、彼女は意外に頑固な性格なようで遅かれ早かれ希望通りに進むだろう。
傍には彼女の味方である雪嶋もいるので大丈夫なはずだ。
想像できる未来にマルグリットは自然と笑顔になった。
ここまで読んでいたきありがとうございます。