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06 駅前は世紀末だった

06 駅前は世紀末だった


「人通りがあることと、店のシャッターなどが破壊されていないところを見るかぎり、まだ破壊的な略奪などは行なわれていないようです。ですがタワーマンションの警備を見るかぎり、治安が悪化しているのは明白です」


 キッズの言葉を裏付けるかのように、絹を裂くような悲鳴が届く。

 声の方角を見やると、そこは大通りの横道。

 いかにもガラの悪そうなチンピラたちの手によって、ひとりの少女がシャコタン車のボンネットに押さえつけられていた。


「彼らのやりとりに興味がありますか? 『サウンドセンサー』のスキルで拡声します」


 キッズがそう言うなり、少女とチンピラの鮮明な声が車内に鳴る。


『な……なにすんのっ!? は……離すし!? はなすしーっ!』


『へへへへ! そう言うなって! 道案内してほしいんだろ!?』


『そうそう! 少しばかり楽しませてくれたら、ちゃーんと案内してやっからよ!』


『や……やめるしっ! だ……誰かっ! 誰かぁーーーーっ!!』


『ひゃっはーっ! いくら助けを呼んでも無駄だぜぇ! だってここは……ぎゃっはーっ!?』


 シャコタン車の向こうにブッ飛んでいくチンピラを見送りながら、俺はアクセルを緩めた。

 残ったチンピラたちは『!?』と、額に影ができるほどに眉根を寄せながら振り返る。ヤンキー漫画みたいなリアクションだ。


『なんだぁ、この戦車みてぇな車は!?』


『ってか、なんなんだテメェは!? いきなり突っ込んできやがって!?』


『なんだ人間だったのか、ゴブリンと間違えた。やってることがゴブリンまんまだったからな』


 俺はつぶやきのつもりだったのだが、その声はスピーカーを通したように外に漏れていた。

 どうやらこれも、『サウンドセンサー』のスキルの効果らしい。

 俺の軽口に、チンピラたちは『!?』と激昂する。


『ふざけやがってぇ! 俺たちがダークエンペラーと知ってのことかよっ!?』


『かまわねぇ、車ごとブッ潰してやれっ!』


 チンピラたちは金属バットでボンネットを殴りつけてきたので、俺は遠慮なくアクセルをふかした。

 ミッドナイトは巨大な黒豹のようにグオンッ! と唸りながら獲物に飛びかかる。


『うぎゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?!?』


 幾重もの悲鳴を轟かせながら、まとめて吹っ飛んでいくチンピラたち。


「ゴブリンによく似た人間を轢いたことにより、レベルアップしました」


「キッズ、お前あんがい容赦ないのな」


「わたしが容赦するのはマスターだけです」


 少女はいつの間にかシャコタン車のボンネットから降りており、ミッドナイトの運転席の窓を叩いていた。


「ね……ねぇ、助けてよ! あたしを乗せてほしいし!」


 少女は現代のものとは思えないデザインの服を着ている。

 しかしチンピラに襲われたときに破かれたようで、見る影もなくボロボロ。

 片腕で押えてはいるがブラがチラ見えしており、このまま置き去りにするのもためらわれるビジュアルだった。


「しょうがねぇなぁ……」


「待ってくださいマスター。ミッドナイトに部外者を乗せるつもりですか?」


「ああ。ほっといたらまた襲われるだろうからな」


「身元のわからない者を乗せるのは反対です。マスターの安全が脅かされるかもしれません」


「それなら心配いらねぇよ、俺は頑丈だしな」


「世界の情勢が確認できていない状況で、危険な行動は避けるべきです。それでも乗せたいのであれば、ミッドナイトの屋根に乗せるというのはどうでしょう」


「お前、あんがい冷たいんだな」


「わたしが冷たくしないのはマスターだけです」


 それからしばらく押し問答を繰り返し、キッズはひとつの条件を加えることで少女を乗せることを承諾してくれた。


「先ほどのレベルアップで新しいスキルを得られるのですが、『セキュリティ』を覚醒させてください。『セキュリティ』はミッドナイトの防犯性能を高めるスキルです」


「わかった、いいだろう。交渉成立だな」


 というわけで俺は助手席のドアを開け、少女を車内に迎え入れる。

 ミッドナイトに家族以外の人間が乗った、初めての瞬間だった。


「部外者を乗せたことにより、レベルアップしました」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 来た!佐藤謙羊先生のギャルだ!
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