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第2章 両輪(1)

1

 聖歴165年7月下旬、各国家に待望の第一魔感士が帰国してから、約1か月が過ぎていた。

 

 各国は、人海戦術を駆使して、“魔導石”による「魔巣」の探索を続けてきたが、やはり、それぞれの国において複数例の「魔巣事案」が発生していたことが、改めて浮き彫りとなった。

 ただ、幸いなこと、というのは少々不謹慎かもしれないが、思ったより被害は大きくなく、現況ではこれまでの軍隊装備にて対応できる程度の脅威であった。

 小鬼の出現頻度は極めて少例で、それにしても未だ「魔法」を操るものとの遭遇例は報告されていない。

 大抵が、スケラトやオーラットのような、魔素が何かにりついた結果魔物化したものが主体であった。

 やつらの行動範囲はそれほど広くなく、魔巣の周辺をうごめく程度のものだったので、脅威としては小鬼や大鬼ほどではない。

  しかしながら、探索にやはり時間と労力が非常にかかるため、もしかすれば、見落としている魔巣ものが存在していないとも限らなかった。


 そのような不安の中、ようやく各国に3~4人の魔感士がそろい始めてきたのがこのころである。

 

 各国第一魔感士はシルヴェリア渡航前審査を担当することになっているのはすでに述べている。ここまで来るのに、彼女たちが各国に戻ってから約1か月かかった。

 やはり、シルヴェリアのニルスで行うエリシア司祭による審査結果ではなかなかに成果が上がらなかったのは致し方ないであろう。これまでも、エリシア大聖堂へ多くの巫女見習が送り込まれていたにもかかわらず、『診えるもの』、つまり今でいうところの『魔感士』はごく少数しか輩出できてこなかったのだ。

 

 しかしながら、第一魔感士が各国の魔感士養成候補審査所に配備されて以降、その候補者の数は少なからず減少することになったが、魔感士養成所にて、その能力を開花させる者の割合が格段に上がった。

 ようやく、養成も軌道に乗り始めたと言えるだろう。

 今後は、これまで以上に頻繁に、魔感士として故郷に帰国するものが増えていくことが予測できるところまで来たのである。


 今後ある一定数以上の魔感士が各国に配備されたのちは、「国際魔法庁」の各国支庁を拠点として、各国にて魔感士の管理と養成を行っていくことも準備が進められている。

 

 一方、各国に実戦投入された魔感士たちはたちどころにその功績を上げ始めた。やはり、見落としていた魔巣が次々と発見されたのだ。

 ある一定の期間、その排除に各国は忙殺されたが、それも一時のことであった。

 

 やがてそれから約3か月が経ったころ、各国の魔感士は総数10名以上となり、魔巣の発見報告数も減少傾向に入り始めた。

 各国首脳はここに来てようやく気が休まりつつあった。


 聖歴165年11月上旬のことだった。

 

 ほとんどすべての人類が魔法の存在すら知らなかった人族世界は、ベイリール世界会議よりたったの7カ月程度で、ここまで到達したことになる。


 ここまでのイレーナの働きは鬼気迫るものであったのは言うまでもない。

 しかしながら、イレーナには次なる重要な試練が待ち受けている。

 

 「国際魔法庁」による各国魔感士の統制の為には、「国際魔法庁」を国家の枠を超えた超国家機関とする必要がある。このためには、各国首脳部の相互理解と批准ひじゅんがどうしても必要不可欠なのだ。


 これが為されなければ、各国は魔感士を自国で抱え込み、政治的利用しないとも限らない。それほどまでにいまだ、魔感士たちの立場は不安定なものである。

 彼女たちは明らかに「特別な存在」なのだ。

 人には見えないものが「見える」というだけで、その力を私利私欲のために利用しようとするものは多く生まれてきてもおかしくはない。確かに今はまだ、それほどの混乱が世界に生じていないが、今後いつ人民のすぐそばまでその脅威が押し寄せるか見当もつかない。

 世界の人民たちの普段の生活が脅威にさらされれば、やがてそこには争いの種が生まれることをイレーナはこれまでの歴史から学んできた。

 そしておそらくそれは、そう遠くない未来に起こりうる危機でもあるのだ。


(やはり、ゆっくりとしてはいられない。各国にすでに魔感士が配備されて3カ月以上が過ぎている。急がないと、魔感士たちの身が危険にさらされることになる――)


 イレーナ・ルイセーズ国際魔法庁長官は、自室の机の上の書類に目を通し、サインをしながらも次の手を考えていた。

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