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第1章 新たなる旅立ち(3)

3

 聖歴165年7月上旬――

 ケイティス・リファレントは日々を忙殺されていた。


 養成開始以降、なかなかに成果が出なかったエリシア大聖堂魔感士(まかんし)養成所であったが、意外なところで成果が表れた。


「ウィンドブロウ!」


 胸の前あたりで、前方へ向けて重ねて突き出されたその両の手のひらに、必死に集中する女性の詠唱が響いた。

 手のひらがぽうっと明るく発光し、ついで、空気の歪みが生じると、それは一陣の小さな竜巻となって、養成所の裏手の庭の森の中へと発射された。

 小さな竜巻は、そのまままっすぐ進んだ後、森の木々の枝葉を揺らしながらやがて消失した。


「――! で、出来た……。出来たわ、ケイティ! 私、魔法を発動させた――」

その女性は感極まって、涙をあふれさせた。


「やった――! やりましたね、レイリアさま! ここまでくればもうあとはそんなに難しくありませんよ、修練を重ねれば、徐々に威力も増してくるはずです!」

 温かな笑みをたたえ、うっすらと涙をにじませながら、ケイティス・リファレントは、この大聖堂における姉のような存在、レイリア・ミルハイトの肩を抱いて言った。


「ありがとう、ケイティ。でも、もうこれで充分よ――。魔法士は私の夢だった。私は今その夢を実現させたの――。でもね、ケイティ。私はもう年を取りすぎているわ。あなたたちの一団パーティのように、世界の危機を救うような力はもう持てないのよ。それぐらいは私にもわかっています――」

レイリア・ミルハイト大聖堂副司祭はそう言ってケイティの手を取った。


「――だからね。私の修業はここまで。あなたは、あなたの道を行きなさい」


「レイリアさま――?」


「あなたのおかげで、私は今、大聖堂5人目の魔法士になれたのよ。その誇りがあれば、この先、候補者《あの子》たちの前に立ち続けられるわ。だからね、ケイティ。あなたには待っている人たちがいるでしょ? ここは私と大司祭さまに任せて、あなたはあなたが為すべきことをおやりなさい」

そう言って、レイリアはこの愛しい“妹”を見つめた。


 ケイティは、その温かくも鋭いまなざしに、自身の心のうちを貫かれたように射すくめられた――。

(ああ、やはりこの方にはかなわないなぁ……、私の心を見抜かれてしまっていたなんて――)

 ケイティはそう思ったとたんに涙があふれて、これまでの逡巡まよいが一気に晴れるような気がした。


「わたし……、ごめんなさいレイリアさま――。彼に会いたいんです……。彼と一緒に進みたいんです」

ケイティは、あふれる涙を止めようともせずレイリアの温かさに今は身をゆだねようと思った――。


 レイリアは、ケイティをやさしく抱擁し、

「本当にいままでありがとう、ケイティ。養成所の方は心配しないで。あの子たちにはまだ少し時間が必要よ。でも、必ず、世界中に大聖堂養成所から魔感士を送り出して見せるわ――」

そう言いながら、決意を新たにするのだった。


 こののち、レイリア・ミルハイトの研鑽の結果、約3か月後の聖歴165年10月下旬、大聖堂養成所初の魔感士6名が誕生し故郷へ向けて帰ることになる――。



――――――――



「ケイティ、くのですね――」

大聖堂大司祭アナスタシア・ロスコートは、優しくこの愛弟子(ケイティ)の肩をなでながら、

「ついに自分の往く道を見つけたのですね。ここのことは、私とレイリアで充分やっていけます。心配せず、自分のやるべきことをおやりなさい。この先、あなたの力を必要としているのはたぶん私たちじゃないわ――。それよりも……、想いをしっかり遂げるのよ? あなたはまだまだ若いのだから、“女の子としての幸せ”もしっかりと掴みなさい、ね?」

そう言って、片目をぱちりとやる。


 ケイティは、これまでに見たことがなかったこの大司祭様の行動や言葉にうろたえながら、

「え? いや、そんな、け、けっして、そんなふ、不純な動機、で、はなく……で、すね――」

しどろもどろになりながら、取繕とりつくろうとしたが、

(やっぱり、ここは私の家なんだなぁ……。大司祭さまもレイリアさまも、お二人の前では私は子供のようなものだ……すべてお見通しということなんだ)

と、温かい気持ちにさせられ、くすくすと笑いが込み上げてきた。


 そして、アナスタシアに正対すると、

「ありがとうございます、大司祭さま。私、きっと成し遂げて見せます! そうしたらまた、ここへ帰ってきてもよろしいですか?」

そう言ったケイティの眼差しにはもう一点の曇りも見当たらなかった。


「あらあら、はしたない。この子ったら、殿方とのことをそんなに大声で――」

アナスタシアは、さらにこの“可愛い妹”をいじった。


「――――!」


 ケイティは胸が早鐘を打つのをはっきりと感じ、急激に顔面が火照るのを感じていた――。

「――そ、そんな意味じゃないですぅぅ――!!」


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