第1章 新たなる旅立ち(2)
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ギィイイイン――――!
大剣と大斧が激しくぶつかり火花を散らした――。
大斧はそのまま滑らされ地へと突き刺さる。大剣を振るった男の両脇を疾風のごとき速度で二人の影が走り抜けた。
左手は小柄な少女、両手に短刀を持っている。
右手からは若き青年、右手に短剣を装備し左手には指ぬき皮手袋を嵌めている。
二人はほぼ同時にその刃を振りぬいた――。
ブシュゥゥ――、という破裂音と同時に緑色の体液が対象の両ひざから噴き出る。
身長2.5メル以上はゆうにあるであろう対象の巨大な獲物は、膝の腱を切断され、たまらず膝を折った。
そこにすかさず、盾を構えた男が頭上から降下すると、盾をその頭蓋に叩き込む――。
ガァアアン――、という金属のぶつかる衝撃音が響くと、さすがに頭を割られた対象はそのまま後ろ向きに倒れ込んだ。
明らかに脳震とうを起こし、意識がもうろうとしている様子だったが、そいつがその眩暈から回復することは二度となかった。
倒れ込んだ頭に革手袋の何物かの左手がかざされた次の瞬間、
「ファイアブロウ!」
青年の声だった。
たちまち青年の左手のひらのすぐ先で渦巻く火炎が巻き起こり、その巨大なコモウ(小型の牛のような魔物、最近出現が確認された)のような顔を持つ獲物の顔面を包み込んだかと思うと、数秒後には真っ黒な灰と化す。
頭部は頭蓋骨だけを残して完全に消し炭となっていた。
「ひゅうー。しっかし、その威力、また上がってんじゃないのか?」
レイノルドが青年に声をかける。
「ああ、威力は上がってる。でも、使いどころが難しいんだよなぁ」
アルはそう答えた。
魔法ファイアブロウ――、手のひらの先に火球を発生させ、そこにあるものを燃やすことができる魔法だ。だが、炎の威力は上昇するが、射程距離は短い。接近しないと使えないのだ。
「いや、お前はそれでいいのだと思う。ケイティは、そもそも耐久力が低く接近戦に向いていない。だから、どうしたって立ち位置が後ろになる。そこから魔法を使うには、ある程度射程距離が長いものを求められるため、範囲は広いが威力はやや劣るか、もしくは支援系の魔法が中心となる」
ルシアスはそう言って、アルの肩をたたく。
「剣技を主体とするお前の戦闘スタイルの場合、その選択肢にバリエーションを増やすことが安定感を生む。あとは、どの魔法をどのように使うか、それはいろいろ試していって身に付けるんだな」
「――それにしても、今回の魔巣はちょっと厄介だったねぇ。数もいつもより多かったし、最後にはこんなやつまで出てきた。こういう魔巣が増えてくると、ウチらだけじゃ手が回らなくなるぜ?」
少女、チュリが本質を突くことを言う。
「ああ、それなんだがな……。実は、所領をもらおうかと思っている」
ルシアスは魔巣コアを見つけるとそれに剣を突き刺しながら、言った。
いつものように風が渦巻くような音が周囲を包むと、数秒後一行は魔巣に突入した森の中へと戻っていた。
「お、親分? 所領ってことは……、え? 領主様になるんですかい?」
レイノルドが目を丸くして問う。
「うむ、そういうことになるな――」
とルシアス。
「それと、今の話とどういうつながりがあるのですか?」
アルは素直な疑問を投げかけた。
「ああ、まだもう少し先のことになるだろうが、各国に『診えるもの』がある程度の人数が整えば、王都や大聖堂の養成所もそこまで人数を抱える必要がなくなるだろう。それぞれ各国で、養成が行えるようになるだろうからな――」
そうなれば、まず期間限定の養成所である王都養成所は閉鎖する予定になっている。メイファやアリアーデには期限付きという約束で教官になってもらっているからな。あとは、必要な分だけ大聖堂で養成を続けていく。そのつもりで宿舎建設に多額の国費を割いたのだからな。
これで、魔巣の発見はおそらくそれほど見落とされることはなくなってゆくはずだ。しかし、これに対処する人間はおそらくどんどん減ってゆくだろう。
「やつら」を駆逐するための戦力が必要になる。しかも、「やつら」に特化した形で専門的な能力を持つ人間たちが、だ。
「――ちょうど、私たちのようにな」
ルシアスはそこでいったん言葉を切って、歩き始めた。
「つまり、“冒険者”――ということですよね?」
アルはそこで、気づいてしまった。やはり、この男の考えることはいつも一つ先を行っている。
「“冒険者”の養成所……」
ルシアスは、ふっと薄い笑みを浮かべると、
「ああ、それだ、アル。俺は“冒険者ギルド”を立ち上げようと考えている」