第1章 新たなる旅立ち(1)
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聖暦165年6月下旬――
「世界の柱」確保作戦から2か月と少しが経過していた。
ほぼ毎日のように、『診えるもの』育成のため各国から続々とシルヴェリアに候補者がやってきている。
この多数の候補者たちを一手に管理するため、ミリル・ケインズファーは日々を忙殺されていた。
候補者のすべてが有資質者というわけではない為、その一次選考を行った後、エリシア大聖堂行きか王都養成所行きかを分別しなければならない。
残念ながら、『診えるもの』の資質があるかどうかを確認するには実際に面談をする以外に方法がないのだ。そして、その選別が行えるのは、「魔素量」を推し量ることができるエリシア聖堂司祭たちのみで、そのエリシア聖堂司祭はこの国にしかまだ存在していない。
各国に派遣して出国前に選定できるよう、選定所設置の準備を進めているが、まだ発足していない現在では、この方法でやるしかないのだ。
今日も昼前から夕方まで、3隻の客船がやってきて、総勢50名以上の候補者の選定に追われた。
しかしながら、第一選考基準をクリアしたのはわずか12名。3分の1にも満たなかった。あとの40名ほどは、さすがにとんぼ返りとまではいかないので、一日か二日ニルスで待機してもらった後、本国に帰ることとなる。
(これ、めちゃくちゃ効率悪いよね――。早く何とかしてほしいところね……)
そうミリルは思うのだが、ただの管理官である彼女にはどうすることもできないので致し方ない。せめて、ニルスの宿で少しばかり船旅の疲れを癒してもらうことぐらいしかできないのだ。
そのためミリルは、ニルス中の宿屋を駆けずり回って、滞在する部屋の手配に追われているのだった。
一方、第一選考基準をクリアしたもののうち、比較的高密度の「魔素量」のものは王都養成所へ、それ以外のものはエリシア大聖堂へすぐに向かわされる。今日の12人のうち、王都行きは4名、あとの8名は大聖堂行きとなった。
王都へは距離もあまりないのですぐに養成所へ入れるが、大聖堂までは一日ではいけない為、エルリシアの宿で一泊した後、翌日大聖堂入りする運びとなる。
それでも、エルリシアに到着するのは夜中をまわる頃になるだろうから、あまりゆっくりと休んでる時間はない。
幸い、エリシア大聖堂の養成所宿舎はすでに一棟が完成しているため、200人ぐらいまではすぐに収容できる。もうすぐ二棟目も完成する予定だ。そうなればしばらくは満杯にはなるまい。ただ、もうすでにエリシア大聖堂行きの候補者たちは150人近くに上っているはずで、それほど余裕があるとは言えない状況だ。
そしてついに明日、王都養成所で養成された初めての『診えるもの』が計6名本国へ向けて出立することになっていた。ベイリス王国2名、ダイワコク政権領1名、カルティア帝国1名、レトリアリア王国1名、アーレシア共和国1名という内訳であった。幸いにして、各国最低1名は養成が完了したため、一人目は出国前選考役としての役目が第一とされる。二人目の『診えるもの』が生まれた国から随時、実務に向かうこととなる。今回の養成完了者が二人以上なのはベイリス王国のみである為、他の国はもう一人養成完了するまで今しばらく、『魔導石』を使った探索を続けるほかない。
それでも、2か月そこらで養成完了したのだから速いといわざるを得ない。王都養成所の教官、メイファレシス・テルドールとアリアーデ・デル・ヴォイドアークの二人の鬼教官ぶりはミリルの耳にまで届いているほどだった。
(もう少し。もう少ししたらこの忙しさもだいぶん和らぐはずだ――)
出国前選考が始まれば、ニルスでの選定人数も減り、宿の手配も随分と楽になるはずだからだ。
あと一週間もすれば、楽になるはず――。
ミリルは久しぶりの休暇にでもなれば何をしようかと思案しつつ、
(イレーナ様、お休みくださいますよね? ね?)
と、頭の中に湧き出てくる王国参謀の顔を思い浮かべながら、懇願するのであった。
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一方、かの英雄たちはそれ以降どうしているのであろうか――?
アリアーデは王都養成所にて、メイファレシスとともに『診えるもの』養成に参画していることはすでに述べた。
ゼーデは竜族の側近たちとともに、ある研究に取り掛かっている。これに成功すれば、人類は劇的な戦力増強が可能となるであろう。
ケイティは、大聖堂へ戻ってアナスタシアとレイリアとともに、『診えるもの』養成の任にあたっている。
残った4人、ルシアス・ヴォルト・ヴィント、レイノルド・フレイジャ、チユリーゼ・カーテル、そしてアルバート・テルドール。
彼らは今どこにいるのか――――?




