第3章 世界へ(2)
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西暦165年12月上旬――。
本格的な冬の到来はこれからという時期であるが、海上の風は既に冷たさを帯びていた。
『冒険者ギルド立ち上げ部隊』と、『魔法庁編成課』の一行はニルス沖の海上のスクーナー船の船上にいた。
メンバーの紹介をしようか。
ミリル・ケインズファー国際魔法庁編成課長、今回の彼女の任務は、各国に発足した国際魔法庁の組織を再編成し今後の職務を滞りなく進めるための教育と人選、職務規定の策定などだ。
国際魔法庁の職務は大きく2つある。一つは各国から魔感士候補生を選定し養成所へ送る手配、および養成された新任魔感士の帰国受け入れと登録。二つ目は各国魔感士の管理および保護のため魔感士を国際魔法庁組織員として管理し各魔巣探索任務への派遣手配業務である。
リリアン・ルーベンス国際魔法庁編成課長補佐、ミリルの後輩魔法庁員である。彼女はニルスでしばらくミリルとともに魔感士候補の選定に関わっていたが、その後、王都魔感士養成所の庶務担当として従事していた。ミリルの補佐としては充分すぎる優秀な構成員である。
アルバート・テルドール『冒険者ギルド』初代ギルドマスター、ミリルと行動をともにし、各国を周遊しつつ、『冒険者ギルド』創設の目的の周知と、『冒険者』への立候補者の登録および初動の任務の手配などを行う。
レイノルド・フレイジャ、アルこと、アルバート・テルドールの補佐として、主に見習い冒険者の訓練を担当する。見習い冒険者の初動任務は各国で行われている魔巣探索への参加である。必要ならば、彼もその探索へ同行し、見習い冒険者の実戦訓練を担当することになる。主に重戦士型冒険者の育成担当だ。
チユリーゼ・カーテル、同じく見習い冒険者訓練所教官。レイノルドとともに、見習い冒険者の訓練や実戦訓練への参加が彼女の任務だ。こちらは主に軽戦士型冒険者の育成担当となる。
最後に、ケイティス・リファレント魔法士統括および組織編制顧問。彼女の仕事は、魔法庁やギルドなどの初期組織の編成にかかる相談役という位置づけだ。
実のところ、前々からルシアスの構想を聞いていた彼女は、大聖堂に従事しているときに、時間の合間を使って、組織編成にかかわる知識を習得することに充てていたのだった。エリシア大聖堂はそもそも、各集落において集落管理運営にかかる相談役となるエリシア聖堂司祭の養成を目的とした機関である。このような知識こそ彼女たちの『本分』と言ってよい。
それともう一つ、彼女には重要な役目があった。魔法士の育成である。
各国魔感士は女性のみであるが、冒険者への立候補者の中には男性で「魔法士適正」を持つ者もいるかもしれない。また、魔感士のなかにも「魔法士適正」のものはいるはずである。しかしながら、魔法がまだ広く知られていない現在において、「魔法士」はとてつもない存在感をもち、その貴重性はおそらく国家元首と同等の価値を持つといってよいほどである。誰にでも魔法を使えるよう育成するのはまだ時期尚早と言える。
であるので、あくまでも数名程度の彼女の直弟子を育てるということになる。人選は時間をかけて吟味しなければならない。出来れば、各国二人ほど置きたいところだが、これはめぐり逢いに依るものが大きいため何とも言えない。
以上6名がこの一行のメンバーであった。
ニルス港を出港して数時間後、西の海岸付近にいくつもの柱が突き立っているのが遠目で見えた。
「ルシアスのほうも順調そうですね――」
船の舷にもたれかかって遠目にそれを眺めていたアルの背中から、美しく清らかな鈴を響かせたような声がした。
「あの向こう側に、ソルスがあるんですね。こちらへ戻るころにはもう新しい街が出来上がっているかもですね――」
ケイティはアルにそう声をかけた。声のトーンはやや寂しげにも聞こえる。
「ああ、僕が父さんと母さんと一緒に暮らしたソルスはもう無くなっちゃうかもしれないね。でも、あそこに僕たちの新しい拠点ができるんだよ。寂しいけど、ワクワクもしているんだ」
「冒険者ギルド本部ですね。楽しい仲間がたくさん集まる場所になるといいですね」
「そうだね。本当は僕たちのようにみんなが無事に冒険できる、そんな仲間たちが増えてほしいんだけど――、あくまでも“やつら”に対抗できる戦力を構築することこそがこのギルドの目的なんだ。危険なこともいっぱいあるだろうし、死んでしまう冒険者も何人も出てくるだろう――。それでも僕は、世界中の人達に少しでもたくさんギルドに参加してもらえるよう呼びかけないといけないんだ――」
アルはすこし気負っている風にケイティには感じられた。
ケイティはアルの背中へ頬を寄せ、腕をアルの胸の前に回して後ろから抱きついて言った。
「アル、大丈夫よ――。たとえどんな未来が待ち受けていようとも、『冒険者』たちは決して歩むことをやめないわ。自分の力で道を拓き、仲間たちとともに力を合わせて苦難を乗り越える、それが冒険者でしょう? 何より、私たち一行もみんなその冒険を楽しんでいるわ。明日何が起きたとしても、全力で今を生きるのが冒険者だと私は思うの。だから、大丈夫――」
アルは無言のまま、背中にあたる彼女の柔らかな温かさを感じながら、胸のまえで合わされている彼女の手をやさしく握った。
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