第2章 両輪(5)
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話は4ヶ月ほど前にさかのぼる。
ケイティは大聖堂を出立した後、一度テルトーの両親の元へ戻っていた。ある決意を胸に秘めていたからだ。
次に旅に出たら、おそらくもう両親とともに暮らすことはないだろうと、そのような予感があったのだ。
実は、ケイティがエリシア大聖堂を出る決意をしたのには、アルとともに歩みたいという思いもあるが、むしろ、その行く先にこそ本来の目的があった。
あのデリュリウス監視塔沖の島の魔巣駆除の折に聞いた声、そして、黒騎士との対決の際にも実はその声を聞いていた。
ケイティはこれまで2度光の繭に包まれるという謎の現象を起こしているのだが、その際に決まって、女性の声が聞こえていたのだった。
デリュリウス監視塔でその声はこう言った。
(その者たちがあなたを私の元へと導いてくれるでしょう。私は待っています――)
ケイティは、この時には何か夢でも見ていたのだろうかというぐらいで、たいして気にも留めていなかったのだが、2度目に聞いた時、その声の存在を確信した。
それは黒騎士と対決した時に起きた。
あとで聞いた話によると、デリュリウス監視塔の時と同じように、その時も光の繭に私の体が包まれて、ある種の結界のようなものをその体の表面に張ったらしいとの事だったが、ケイティにはその自覚はなかった。
ただ、その時に聞いた声ははっきりと覚えている。
(時が迫っています――。ケイティス・リファレント、はるか東の森と山岳の地、かの地最高峰の山、剣ヶ峰と呼ばれる場所で私は待っています。1年です。1年以内にかならず来て――、アルバート・テルドールとともに――)
前に聞いたのと同じ声だった。
このことについては、世界の柱確保作戦の後、ルシアスとアリアーデに話してあった。
ルシアスは、剣ヶ峰というのは、東のダイワコク政権領に存在する霊峰の事だろうと言った。
その様子だと、そこへ行けば、また声の主の方からなんらかの接触があるだろう。
声というのは、いわゆる魔法の「レパス」のさらに強いものというところだろうから、ケイティになんらかの目的があるのなら、近づけば相手も気付くはずだからだ、と。
アリアーデも同じような見解だったが、声の主に何の目的があるのかは、会ってみないと何とも言えないし、それに、すぐに向かうにはまだ少し状況が整っていないとも言った。
そこでルシアスは、
「取り敢えずまずは半年、様子を見よう。実は俺にも考えていることがあってな、遅かれ早かれ、アルには世界を周ってもらうつもりだった。その時に合わせて、ダイワコクへ渡るといい」
さらに、
「ケイティにはまずは大聖堂で、「診えるもの」の育成基盤を作ってもらいたいんだ。その後、一度両親のところへ戻って、うんと甘えておくがいい。次の旅はもしかしたら長くなるかもしれんからな。頃合いを見て俺から連絡をするよ。テルトーで待っててくれ――」
そうして、つい3日ほど前にテルトーのケイティのもとにルシアスからの書簡が届いたのだ。
(準備を始める。王都へ来てくれ)
と。
――――――――
「ケイティ! どうして君が? 大聖堂で、養成にあたっているはずじゃ――?」
アルは、飛び上がらんほどに驚いて立ち上がり、彼女の方へと歩み寄った。
「ああ、えっと。大聖堂はもう4ヶ月ほど前に出ていたの。で、しばらくテルトーの実家で……」
ケイティはアルが驚いていることに少々驚いて、要点を得ない。
「感動的な再会だな、若いってのはいいね」
ルシアスがちゃちゃを入れる。
「あ、これは親分。さては、仕掛けましたね?」
レイノルドがにんまりとして、ルシアスへ視線を送った。
「え? なに、ルシアス、ケイティが今日着くことを知ってたの? 私にも黙っていたなんて――!」
アリアーデまで一緒になって驚いている。
「だって、お前に言ったら、アルに漏れちまうじゃねぇか。だから誰にも言ってなかったんだよ」
そういって笑った。
「ルシアスらしいと言えば、そうだよなぁ――」
チュリは特に驚いた節もなく、平然と目の前のクッキーに手を伸ばしている。
(ああ、変わらないなこの人たちは――。なんだか私も自分のいるべきところに帰ってきたような気がする――)
ケイティは心の中で、ほんのりと温かいものが沸き起こる感覚をおぼえていた。




