とあるオタクの異世界転生
自分の趣味作品
……私の好きなゲームの話をしよう。
タイトル名はファイツ・アクセルスロットル。
平凡な日本の世界に魔法が存在し、選ばれた魔法学校の高校生達が自分たちの目的のため戦うという感じのストーリーだ。
それぞれのキャラクターには凄い過去があって、人間関係もドロドロしている。
まぁ簡単に言えば恋愛ゲームに戦闘をまぜた作品だ。
2000年代前半に流行ったゲームはこういう作品が多いらしい。
ネット情報だし、私もその時期は赤ん坊か幼女だったので世間の情報には疎かったのだ。
その時期に中高生だったら……なんて事をよく思ってた。
話を戻そう。
私はそういった内容の話が大好きだ、戦いの中で芽生える絆と愛情とか、愛情で狂っていく戦いとか、もうヤバいよね最高。
ちなみに、ファイツには精霊っていって魔法使いの高校生の相棒的な存在がいるんだけど、それもまたあついのよ!
精霊×魔法使い、この二次創作のカップリングとかホント最高で!
「うん、わかった、わかってるから。それで? オタクラ氏、今日は一体どうした? またファイツの妄想の話?」
興奮している私の熱を冷ますかのように友人は腕を組んでそう言った。
「……んもー吉田氏、冷たい」
「はいはい、いつもの事でしょカプ厨。とりあえず要件を短く簡潔明瞭にどうぞ」
「ファイツのお祭りゲーが今日発売されるから妄想に耽りすぎて今日の授業全部ノート取ってない助けて」
「了解」
彼女は読んでた本を閉じてノートを差し出してきた。
「さっすが吉田氏! 神すぎる!」
「ユーは何しに学校へ?」
「高校卒業の資格を取りに」
「オーケー得る知識が無駄なものばかりの怠け者め」
「人を煽るために勉強している人間は言うことが違うぜ」
ヘラヘラしながらそう言うと彼女は閉じた本でポンと頭を叩いてきた。
「それで君の脳内ラブコメはどうなってんだ?」
その質問で私の顔はキラキラと輝き出した。
「聞く!? あのねあのね! 今回出るゲームは、主人公男女選べるんだよね! それでね! 前までのファイツの精霊って決められたキャラに1人だったんだけど、今度発売されるお祭りゲーの主人公には色んな精霊が付けれるんだ! だからね、主人公×精霊の多種多様なCPが作れてね! あとあとあとぉ! 主人公×精霊だから推し精霊と主人公のCPも出来ちゃう! これなら罪悪感なしに推しキャラとのイチャイチャが出来る! そんな理由で主×精霊って熱いんだけど、前のキャラとのCPもあるし……」
「落ち着けキモオタ、早口なのと語彙力無さすぎる性で何も内容が入ってこんぞ」
「……要するに主人公に感情移入する事によって推しキャラと恋愛している気分になれるから最高ってこと」
熱が冷まされた私の言葉を聞いた彼女は、真顔で手を叩いた。
「そりゃ、めでてーな」
「めでてーよ、早く帰ってプレイしたいもん」
「じゃあ今日休めばよかったんじゃね?」
「母さんがブチ切れ案件、それと新作世界同時発売で、前作の主人公がヒロインと世界を救った午後4時43分発売なの」
「……風変わりな商法」
「この会社では良くあることです、そういう事だから次の授業ばっくれるね」
机の横にかけてたカバンを肩にかけてひらりと手を振った。
「そこらへんの不良よりタチ悪いぞー」
「ちゃんと授業出てたもん、真面目ないい子ちゃんはたまにくらい馬鹿やっても許されるもーん」
そう言ってドアまで歩いた。
「オタクラ氏~トラックには気をつけろよーゲーム出来ずに転生するぞ~」
「縁起でもないこと言わないでよ!」
即落ち二コマ。
こういった発言は言った後に後悔する。
きっと私の親友は今頃後悔しているだろう。
アスファルトに血の池作って、ゲームを大切に握り締めた少女を見て人々はどう思うか。
まぁ、もうその世界に戻ることはないから分かんないけど。
いやぁ、まさかさぁ、こういった発言で死ぬのはよくあるじゃん?
でもさぁ、生まれ変わることってある?
目を覚ましたらおぎゃあしか喋れないし、前世の記憶は持ってるし、びっくりしたよね。
まぁラノベではよくあるよ、そして異世界で目を覚ますじゃん?
いわゆる異世界転生。
男なら冒険者、女の子なら悪役令嬢がセオリー。
じゃあ私は悪役令嬢?
……残念ながら、赤ん坊の私の目には天蓋もメイドも写っていません。
見えるのは日本人の母の泣き顔。
それと……
「……泣くなこれはお前さん方との契約のはずじゃ、金が払えん時はその子を林道家の養子にすると」
薄気味悪く笑う老人の姿。
彼は私を抱き上げ悪人の笑みを見せる。
ここでちょっとファイツの話をしてもいいでしょうか。
ファイツは、主人公、ヒロイン、負けヒロインの三角関係が本編で繰り広げられる。
それでだね、どのキャラにも壮絶な過去があるんだけど、なかでも酷いのが負けヒロイン。
赤ん坊の時に、一流の魔導一家養子に出され、虐待レベルの修行をさせられ、親戚の男共に手を出され、ここでは言えないような事をさせられた。
それで彼女は自分に対して唯一優しく接してくれた主人公の事を好きになるけど、主人公は他の女と結ばれる。
そのせいで彼女はルートによっては闇落ちして主人公達に倒される。
……なんでこんな話をしたのか察しがいい人なら分かるよね。
「今日からこの子は林道咲耶じゃ、安心せいワシらが立派な魔導師に育ててやる」
……はいそうです、大好きなゲームの負けヒロインに転生しました。