ひろし、書が展示される
おじいさんたちは、大熊笹の柔道を見学し終えると、また明日会う約束をしてログアウトしていった。
イリューシュは社長から連絡が来ていたので、大熊笹に付き添ってピンデチふれあい苑へ送ってくことにした。
「大熊笹さん、もし宜しければまた家にお越しくださいね。アカネさんと黒ちゃんさんは朝練習をしてるんです」
「おお、そうでしたか。ぜひお邪魔させていただきます」
「ええ、ぜひ宜しくお願いします」
2人は雑談をしながらピンデチふれあい苑にたどり着くと、入り口で社長が待っていた。
社長はイリューシュと大熊笹に気付くと、嬉しそうに駆け寄ってきて大熊笹に話しかけた。
「大熊笹さん、この世界はいかがでしたか?」
「いやぁ、最高です。さきほど柔道をしてきました」
「おお、それは素晴らしい! もう脳波で柔道ができるとは、さすがの運動神経ですな!」
「いえいえ、まだ慣れません。もう少し練習しなければ。ははは」
「そんな、ご謙遜を! 我々もご高齢者プロジェクトを盛り上げていきますので、よろしくお願いします」
「こちらこそ、宜しくお願いいたします」
社長は大熊笹と笑い合うと、イリューシュに言った。
「エージェントよ。元自衛官の方々にバスの運転をレクチャーしていた時に、遠距離攻撃ができる武器を練習したいと申し出があってな。すまんが、見て差し上げてくれないか?」
「遠距離攻撃といえば弓ですね。私で良ければ喜んで」
「ありがとう。みなさん2階のトレーニングルームにいらっしゃる。宜しくお願いしたい」
「はい」
イリューシュは返事をすると2階のトレーニングルームへと向かった。
すると社長が大熊笹に提案した。
「大熊笹さん、良かったら私と海賊退治に行きませんか?」
「ほお、海賊ですか」
「ええ、ハーイムという町がありまして、そこで海賊退治が出来るんです」
「なるほど」
「海賊を倒すとステータスポイントというものが貰えまして、攻撃力や素早さを増すことができるのです」
「ほお、素早さを! それは興味がありますな」
「それは良かったです。では早速ハーイムへ向かいましょう!」
社長と大熊笹は会話を弾ませながら村の外に出ると、社長の高級SUVのモービルに乗ってハーイムへ向かった。
◆
道中、社長はモービルの中で大熊笹にゲームの説明をした。
「大熊笹さん、海賊たちは短剣を持っていまして、斬られると左上のHPが減ります」
「ああ、これですな」
「そしてHPが無くなると、痛い思いをしてしまうのですが、ピンデチの時計台の前に戻されます」
「ほお。このHPと言うのがこの世界の命のロウソクみたいなものですな」
「はい、その通りです。そして皆様には回復薬を差し上げておりまして、右上のアイテム欄は分かりますでしょうか」
「はい、アイテムと書いてあります」
こうして社長は車内でゲームのシステムを説明し、大熊笹は大体理解した。
社長と大熊笹はハーイムに到着して町の中を見てみると、町中に海賊たちがたくさんいた。
大熊笹はまだメインクエストを進めていないのでイベントは発生しなかった。
「大熊笹さん、では行きましょうか」
「はい」
二人はハーイムの町へ入って行くと、二人の前に海賊が三人現れた。
社長は大熊笹を守るように盾を広げると、なんと大熊笹がヒョイと盾をくぐって前に出た。
「あ、大熊笹さん!」
社長がそう言った瞬間、
「はい、よいしょ」
ブワッ……、ドガッ!
「はい、こちらも」
ガッ……、ドサッ!
「はい、最後」
ババッ……、ズザァ!
大熊笹が次々と海賊を投げ捨てた。
「おお、さすが大熊笹さん! では私がトドメを!」
ガンッ! ガンッ! ガンッ!
社長が盾で海賊たちを殴りつけると、海賊は全員消滅していった。
『6ポイントのステータスポイントを獲得しました』
「ほお、これがステータスポイントですね」
「はい、先ほどご説明した通り、交換のタイミングはお任せします」
「なるほど。ではジックリ貯めさせていただきます」
「はっはっは、わたしもジックリ貯める派です!」
こうして、社長と大熊笹は海賊たちを倒し続けた。
◆
おじいさんは、いつもより遅く現実世界に戻ってくると、先に戻っていたおばあさんが台所から夕飯を持ってきてくれた。
「今日は遅かったですね。何か面白いことがありましたか?」
「いやぁ、すまんすまん。今日は凄い人に会ったんだよ。柔道の金メダリストなんだそうだ」
「まぁ! それは凄いわね」
「いやぁ、美しい投げ技でな。感動してしまったよ」
「あら、それは羨ましいわ」
「おばあさんは何かあったかい?」
「ええ、シャームという町に2号店を出すことになったんです」
「ええ!? 凄いなぁ。大繁盛なんだなぁ」
「わたしはキノコを集めているだけですけどね。うふふ」
こうしておじいさんとおばあさんは今日も遅くまで楽しくお喋りをした。
ー 翌朝 ー
おじいさんは朝の日課を終わらせ、おばあさんに頼まれたものを買いに街に来ていた。
そしていつものように家電量販店のザ・フラウのコーナーに行くと、なんと大画面に書道大会の作品が表示されていた。
「おお、あれは!」
おじいさんは走って画面に近づくと「現在の応募作品」と書いてあり、おじいさんの書を含めて6枚の書が並んでいた。
「あぁ、素晴らしい作品ばかりだなぁ。おや?」
おじいさんは良く見てみると自分の作品の下にコメントが書いてある事に気付いた。
『とても温かみのある作品です。書の技術も申し分ありません。(東岡ゆめ)』
「あ……、あの有名な書家の方からコメントが……」
おじいさんは感動すると、画面が次のニュースに切り替わるまでジーっと見つめていた。
「いやぁ、今日は最高の日だなぁ……」
おじいさんは画面を見終えると満面の笑顔でレジへ行き、横に陳列してあった乾電池を購入した。
そして笑顔を隠せずに店を出ると買い物を済ませて家に戻った。
◆
「ただいま」
「あら、おかえりなさい」
「おばあさん、凄いことがあったんだ。わたしが応募した書道の作品に、有名な書家の方がコメントをくださったんだよ」
「まぁ! すごいじゃないですか」
「いやぁ、嬉しかったよ。本当にゲームを始めて良かった。ははは」
「そうですね。あ、もうお昼ご飯できてますよ」
「ああ、ありがとう」
おじいさんはテーブルに着くとおばあさんと一緒に昼食をとった。
◆
おじいさんとおばあさんは食事を終えると一緒に食器を片付けた。
そしていつものように居間へ行ってVRグラスを用意した。
「おばあさん、じゃあお店がんばってな」
「ええ、あなたも楽しんでくださいね」
二人はVRグラスをかけるとゲームにログインした。
おじいさんはいつものように時計台の前に出て三輪自転車を出現させると、驚いた。
なんと、時計台広場の大画面掲示板におじいさんの作品を含めた6作品が展示されていたのだった。
「ああ、ここにも展示されて……」
すると、数人のプレイヤーたちが作品を見ながら話をしていた。
「おれは真ん中のかなぁ。なんかザ・書道って感じしない?」
「あたしは一番右かな。細い線でキレイだよね」
「わたし一番左がいいな。優しい字で癒される」
「あ~、それわかる」
「たしかに」
一番左はおじいさんの作品だった。
おじいさんは笑顔を隠せずにニヤニヤしてしまうと、三輪自転車に乗ってG区画の家へ向かった。
「ああ、今日はいい日だなぁ」
おじいさんは笑顔で坂を下って行った。




