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ひとつ

本当はあの日、ほんの少しだけど予兆を感じていた。








「ねぇ、リナリア。僕達、婚約を解消しようか。」


澄み切った空の青さが目に染みる穏やかなティータイムに婚約者のマルティンが私にそう言った。

問いかけるようで、断定的なその言葉に私は震える声で聞き返す。


「マルティン様、それはどうしてでしょうか?私に何か問題でもごさいましたか?何かお気に障ることでもしてしまいました?」


そもそも私達の婚約は家同士の決めたもので個人の感情でどうにかなるものではないが、そんな中で私達はそこそこ仲の良い、夫婦になるのになんの問題もなく付き合ってきたはずであった。

政略結婚をするので恋愛感情はないが信頼関係を築けていると私がそうであるようにマルティンもまたそう思っていると思い込んでいた。

マルティンがいきなり婚約解消を言い出すということはそうではなかったのだろう。


「リナリア、君には悪いと思っている。だけど、僕は君以外に恋しい人が出来たんだ。父上はきっと妾にすれば良いと言うんだろうが、僕が嫌なんだ。彼女を愛している。だから君とは結婚できない。」

「それでは私のオルコット家とマルティン様のクレスト家で結ばれている婚約の際の契約ごとについてはどうなさいますの?私が納得したとしても私のお父様はきっとお怒りになられますわ。」

「それも承知の上で君にこう言っているつもりだ。契約不履行の賠償はするつもりだし、婚約解消にあたって君に不利な要求はしない。全面的に僕のわがままでこうなっている。」


マルティンはいつになく強い口調で私に言い募る。それは婚約解消を思い直すつもりがかけらもなく、また私のオルコット家にもマルティンのクレスト家にも婚約解消の話をしていないということだった。紛れもなく彼の意思だけて婚約解消だった。

冷静な様で冷静ではない。そうは思ったが私にはもうどうしようもないことだろう。


「私の一存ではなんともいえませんわ。この婚約は私とマルティン様の間で結ばれているものではなく、両家の間で結ばれているものですから。

一応マルティン様のご意志は聞きましたので、私の方からも両親には伝えさせて頂きます。ですが、そこから先は両家の話し合いになるかと存じます。」

「それはわかっている。だけど、父上に相談すれば妾になんて話になるのはわかっているからね。君にも話しておくことで、確実に両家での話し合いに持っていきたかったんだ。僕の父上は妾やら愛人やらを推奨する方だが、オルコット伯爵は違うからね。可愛い娘の夫にそんなこと許さないだろう。まして婚前からなど以ての外としかいわないだろうからね。

一方的になってすまないが、そういうことだから。」


こうなってしまったら私にはどうしようもないだろう。私のお父様もお兄様も不義理は許さない。

何より私の為に無理に婚約を継続するよりも円満に解消して別の良い縁談を探す方が都合がいい。最初から私とマルティンの婚約は利害関係が絡んでいるからその辺りの話し合いさえ上手くいけば、実はそう難しいことでもないだろうし。


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